女たるもの、このように振る舞うべし――。巷には、そんな“呪い”が山のようにあふれている。
「子宮を大切にすれば幸せになれる」や「冷え取り靴下で毒素排出」、「布ナプキンで子宮汚染予防」といった眉唾な健康情報とスピリチュアルが絡み合った主張にツッコミを入れるのが、山田ノジルによる著書『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』(KKベストセラーズ)だ。同書の中では、とくに著者が“子宮系スピリチュアル”と呼んでいる、子宮に絡めて女性の心身について説くトンデモ健康法に焦点を当てている。
<山田ノジル>
科学的根拠のないトンデモ健康法をウォッチングするライター。今月発売された初の著書『呪われ女子~』では、ときに面白おかしく、ときに真面目に、女性の体を取り巻く怪しいものたちを一刀両断している。
試してみやすい“キラキラ”な雰囲気に注意
――ノジルさんは女性誌のライターとして長年取材するうちに、一部の美容や健康情報に対して疑問を持つようになったそうですね。
「女性誌にお世話になっているので、表立ってツッコミにくかったんです。しかし黙っていられなくなったのは、ジェムリンガ(膣に挿入するパワーストーン。昨年、販売中止された)の存在でした。『ジェムリンガを膣に入れると、心身や人間関係のトラブルが解決する』というようなことがほのめかされていたんですが、巷からはもちろん雑菌が入るなどの健康被害が指摘されていました。さすがにジェムリンガほどのある意味攻めたアイテムは女性誌で紹介されることがありませんが、『そういったトンデモグッズと地続きにある、根拠のない健康法は星の数ほどあるよなぁ』と、声をあげるようになったんです」
――ノジルさんは、こういったトンデモ健康法が抱える問題をどのように捉えていますか?
「やり方そのものは、健康な人がやったところで問題はないレベルのものがほとんどです。ただし、うたわれている効果効能に医学的根拠が一切なく、荒唐無稽な主張になってしまっているのが問題です。なので、疾患に悩んでいる人が克服する手段として取り入れて深みにハマってしまうと、標準医療を受ける機会を逃して、深刻な健康被害につながる危険性があります」
――近年のトンデモ健康法は、ただ眉唾なだけではなく、「子宮の声に耳を傾けよ」などスピリチュアルがかっていることが特徴だと指摘されていますね。
「科学的に説明のつかないことは全部、『科学では解明できない世界』としてスピリチュアルな精神論を持ち出せばいいので、トンデモ界にとっては大変便利なんですよ。そんなトンデモ健康法に、キャッチーなキラキラ演出が施されて、オシャレな流行ケアのように広められている。だから、女性が試してみやすい雰囲気になってしまっているんです」
女性誌はなぜトンデモを取り上げる?
――『呪われ女子~』でも紹介されている「生理用の紙ナプキンからダイオキシンが発生して子宮に蓄積される」といった主張は、ほとんどの人が「おかしい」と感じると思います。しかし、そこまでではないライトなトンデモは結構カジュアルに女性誌で取り上げられている印象です。
「今年は、女性向けメディアで“膣ケア”が頻繁に取り上げられました。おそらく『ちつのトリセツ 劣化はとまる』(著:原田純、監修:たつのゆりこ、径書房)という本が話題になった影響だと思います。いろいろな妊婦雑誌やプレママ雑誌が『膣の劣化は万病の元』のように紹介していましたが、そんなわけありませんよね」
――女性誌の現場では、どういうふうにトンデモ健康法の企画が通るんでしょう? 編集者が「これは広めるべき!」と心の底から信じて提案しているのでしょうか?
「ぶっちゃけ、ほとんどの現場は、『こんなのがあるって聞いた』程度で深くは考えていないと思いますよ。裏付けするデータを持っている専門家がいればOKという基準は一応設けていたとしても、その“専門家”は別に医師ではなくて、なんとかセラピストを自称しているだけの人物だったり、裏付けのデータというのも『10人に実験した結果です』でしかなかったり……。『長期間断食しろ』みたいなダイレクトに命に関わる情報でなければ、結構カジュアルに取り上げられてしまうんですよ。冷え取りのために専用の靴下を何枚も重ね履きするなんて、実際効果はなかったとしても、別に健康被害が即発生するようなことでもないじゃないですか。だから、雑誌で紹介してもいいだろうと判断されているんじゃないでしょうか」
――トンデモ健康法の流行に対して、女性誌の責任は大きそうですね。
「女性誌を始めメディアの罪は相当重いです。『目新しくてキャッチーで、読者のニーズに合っていて、そこまで激しい内容じゃなければOK』程度のゆるい基準で、カジュアルにライトに、しかもオシャレっぽくトンデモな健康情報を取り上げてしまう。
トンデモにハマるのは「一部のバカ」ではない
――「トンデモ健康法にハマるのは、一部のバカな人」というイメージを持っている人も多いかと思います。いろいろ取材を重ねてみて、ノジルさんから見た“ハマる人の傾向”のようなものはありますか?
「むしろ、真面目でよく勉強する人がハマるケースが多い印象です。あと、医療、とくに西洋医学に不信感を抱いているような人もですかね。私はなんでも手軽な方が好きだから、薬ひとつで治るならありがたいって考えですけど(笑)。でも、彼女たちは違うんですよ。『手間暇かけて、体をいたわりたい。しくみがいまいち理解できない薬は怖いから、できるなら自力でコントロールしたい』といった思いが少なからずあるので、本で読んだ健康法を忠実に再現したり、高額のセミナーにこつこつ通って、勉強しようとするんです」
――なんだかオウム信者に高学歴の人が多かったのを彷彿させるものが……。
「トンデモ健康法、なかでも子宮系スピリチュアル界隈は、カルト宗教とやり口に共通点が多いですね。とくに今はSNSを通じて同志がつながりやすいぶん、コミュニティが成立しやすいですから、あっという間に盛り上がります。仲間同士で『これは食べちゃダメ』といった禁止事項を守って、修行っぽいことをして、まやかしの達成感を得る。特殊なことをしている内輪のコミュニティって、楽しくはありますよね。
――タイトルに“呪い”というワードを使ったのは、なぜでしょうか?
「ファッションから立ち居振る舞いに至るまで、根拠なく、女性に対して『女なら、こうすべき』という価値観を押し付ける圧力がたくさん存在します。本書で紹介した『子宮が冷えていると感情が制圧される』といったことを主張する子宮系スピリチュアルであれば、『子宮に意識を傾けない女はレベルが低い。女としての意識が足りない』と暗に言ってくるようなもの。そして、女性が抱える不安感につけこみ、『そうしなければいけない』と強く思わせてしまう。暗示にかけて女性たちの行動を操るようなその流れは、もはや災厄ですから、“呪い”という言葉を使いました。だから、不安感が強い、自己肯定感の低い女性もハマりやすいと思います。本来、布ナプキンでも子宮ケアでも、おかしな効果効能にこだわらず、ほどほどの距離感で嗜好品的にたしなむのであれば、そこに呪いは生まれません。『呪われ女子~』をきっかけに、スピリチュアルや健康情報の体(てい)をとって女性を振り回すものの実態について知っていただければ幸いです」
(原田イチボ@HEW)