日本人男性のSEXが女性の6割以上を性嫌悪にさせている

自民党の都議会議員・古賀俊昭氏が、東京都足立区の区立中学校で行われた性教育の授業を「問題ではないのか」と都議会文教委員会で指摘し、都の教育委員会が区の教育委員会に指導すると決めたことが波紋を広げています。

朝日新聞の報道によると、都の教育委員会は区の教育委員会を通して授業内容を調査し、「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」という言葉を使って説明した点が、中学生の発達段階に応じておらず不適切と判断。
不適切な授業を行わないように指導し、来月の中学校長会でも注意喚起することを決めたとのことです。

区の教育委員会や、授業を実施した中学校の校長は継続の意思を表示しており、足立区の子供たちが性のリスクについて知る機会が奪われることは一応避けられそうではあるものの、広域の行政を担う都によってこのような口先介入が起こるケースがあると分かれば、自粛する自治体も考えられることから、大いに問題でしょう。一刻も早く都の教育委員会は介入をやめるべきです。

日本の性教育をズタズタにした七生養護学校事件


古賀都議と言えば、2003年にも「七生養護学校事件」という性教育への介入を引き起こした都議の一人であり、2013年に「教育に対する不当な支配」として他の2名の都議や都の教育委員会とともに最高裁で敗訴が確定しています。

それにもかかわらず、懲りずにまた介入を始めた都議や都の教育委員会の神経を疑うのですが、この七生養護学校事件は当時国政レベルにまで波及し、安倍晋三幹事長代理(当時)を座長、参議院議員の山谷えり子を事務局長とする「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が2005年に発足。この「バックラッシュ」以降、性教育は各地で自粛が相次ぎ、「冬の時代」を迎えました。

では、その結果、日本の性を取り巻く状況はどうなったのでしょうか?

日本人女性は性嫌悪がデフォルトという異常事態


インターネットメディアの「しらべぇ」が2017年7月に全国でアンケート調査を行ったところ、「SEXが嫌い」もしくは「あまり好きではない」と答えた女性は6割以上に及ぶ結果になったとのことです。男性は22%なので約3倍にもなります。
あまりに異常な数字です(※日本家族計画協会による「男女の生活と意識に関する調査」でも、「まったく関心がない」「嫌悪している」と回答する女性の割合は近年高い水準を保っています)

以前、社会活動家の仁藤夢乃さんが朝日新聞女子組のインタビューで、「セックスに前向きな気持ちになれない」と発言しており、実名で顔出しの人物がこのようなことを正直に語ることはとても珍しいことだと思うのですが、これこそ日本人女性の多数派の感覚なのでしょう。

実際、この「しらべぇ」の記事をTwitterでシェアしたところ、女性アカウントと思われる方々から同調の声をたくさん頂戴しました。ここに一部紹介したいと思います。


・「何が嫌かってコミュニケーションゼロの独りよがり傲慢SEXが嫌。AVで学ばれてもこれっぽっちも気持ち良くないし、やりたくないことをしつこく「やりたい」って言われて渋々やらせて、傷つけないよう演技しなきゃいけない重圧とか。私はお前の性玩具か!って思わざるを得ないやり方。


・経験前はSEXへの憧れが強かったですが、実際に経験すると、独りよがり・不衛生・嫌だと言っても内心喜んでいると勘違いする、という男性が多過ぎてSEXが大嫌いになりました。恥ずかしながら性欲は強い方ですが、それでもSEXしたくないですから。性欲にも勝る嫌悪感を抱いてしまう状況って異常です。

・今の時代、セックスに対するイメージが悪すぎる。愛し合う手段ではなく、欲望を満たす手段・誰かに被害を為す行為、そんなイメージばかり。

・今の恋人に出会うまでキスが大嫌いだったっけ。
理由は明白で、したくないのに強要されたから。それから汚いもの気持ち悪いものとずっと思ってきた。今は大好きだけどね。相手次第でこんなにも好悪が変わるんだなと思った。

・だから女友達が最も大事になる。性的搾取なしで、私を愛してくれる。


・嫌い嫌いも好きのうちっていう言葉を信じているクズ男が多すぎなんです。

・射精主義の自己中だからそうなるんだよね。相手ありきじゃない。ジャンクセックスばっかり。だから女性は嫌になってくるんだよ。

・下手くそに当たるとこうなるよね。
AVはファンタジーだっつーの。それ分からない男が多過ぎ。なんで嫌いかって?独り善がりにされても気持ち良く無いからだよ

・私は彼氏との幸せな性との出会いよりも、痴漢や露出狂などの性暴力との出会いの方が先だった。コンビニのエロ本もだけど、性が幸せなもの嬉しいもの、というように感じられなかった。ずいぶん大人になったけど自分の中にまだ性への嫌悪が残っているかもしれない。

・性のファーストコンタクトが恋人との平和な結びつきではなく、初潮前の性暴力経験だったので、四半世紀以上たった現在でも、へドロのように性嫌悪が残っている。
2次元・3次元の創作物では男女・男男・女女問わず萌えられるのに、自分が対象だとわかるや恐怖しかない。

・言ってないだけで、性被害にあっている人って世の中にはたくさんいる。「言ってもムダ」と思わせる風潮があるし、何より言うことによってさらなる加害を招くことがあるということを分かっているから、言わないんだよね。

・女の子側も、男に都合よく作られた性ファンタジーばかりに触れるしかなく、まともに性を学べない。それ以外だといきなり卵子がどうので早く産めとか言い出すし、日本の社会は女子に、身体を商品化するか、出産のためのモノになれとしか言わない。


女性の性嫌悪に無自覚な日本の男性たち


これらの声を分類すると、日本人女性が性嫌悪を抱くのは、【1】性暴力の蔓延、【2】ジャンクSEXの蔓延、【3】女性性消費文化の蔓延という3つの原因があることが分かるかと思います(※本記事の最後に分類をまとめてみました)。

では、これらの声を聞いて、男性の皆さまはどう思ったでしょうか? とりわけジャンクSEXが横行しているという声をどう受け止めたのでしょうか?

「自分はAVをお手本にしていない!」「ジャンクSEXはしていない!」と思っている人もたくさんいるかもしれません。でも、SEXが嫌いな女性は6割以上で男性の約3倍という実態を、大半の男性は知らなかったはずです。確かにパートナーや友人の女性が言わないという選択をしている場合も多いわけですが、それは彼女たちから“男性性”を信頼してもらっていない証です。

本当に男性性に対する信頼を寄せていて、「他の男性違ってジャンクSEXじゃない」と女性が思っていれば、「今までセックスが好きではなかった」という本音を伝えて来るはずです。SEXが好きではない女性は6割以上に及ぶわけですから、通常であれば6割の確率でそのような発言を聞く機会に遭遇します。性交経験が2人以上あるのに、性嫌悪の話を聞いたことが無いのであれば、自分もジャンクSEXをしている可能性は高いと疑う必要があるでしょう。

そもそも、日本のAVのほとんどがレイプを描いていると思います。それを指摘すると、「違うだろう」と思う人も多いと思うのですが、その感覚がセックスとレイプを混同していることの証左です。

たとえ言葉による合意ではなくとも、女性が笑顔で自分から相手の腰に手を回したり、服を脱いだり、何度もキスをする等の「継続的な意思表示」が無く、性器接触に突入するものは、全てレイプです。意思表示が言わされている場合もあるので、意思表示さえあれば良いというわけではありませんが、「平和的で相互的なセクシュアルコミュニケーション」においては頻出するはずの意思表示があまりに少ないことは明白です。


女性の性嫌悪に無自覚な男性のSEXはデートDV


結局、日本人男性の多くが、日本人女性の抱える性嫌悪に無意識で無自覚のままSEXをしているわけですが、それは女性を傷付けることや女性の古傷をなぞることであり、ある種の「デートDV」をしていることと同義ではないでしょうか?

性教育バッシング時に首相だった小泉純一郎氏も、「知らないうちに自然に一通りのことは覚えちゃうんですね」と答弁しましたが、日本のポルノのどこか問題なのか分からないまま、ポルノで性を覚えてしまうということは、セックスではなくデートDVを覚えていると言っても過言ではないと思うのです。

「セックスは包丁だ」と私は常々言っています。それは二人で美味しい料理を作ることもできる素晴らしいツールであると同時に、相手を傷付けることもできてしまうものです。年齢とともに性嫌悪の女性は増える傾向にありますが、日本人男性による「ジャンクSEX」や「デートDVセックス」によって、女性が性嫌悪を蓄積していることや傷を増やしていることを全ての異性愛男性は自覚すべきだと思います。

前述の朝日新聞女子組の続編では私のインタビュー記事を掲載して頂きまして、ここでも述べたのですが、やはり男性は自分の「性欲」と「男性性のあるべき姿」と真摯に向き合い、正さなければならないと思うのです。男性性を有していること自体に罪ではありませんが、男性が女性の性嫌悪に対して無自覚なことと、悔い改めて精進しようと自己研鑽を行わないことは罪だと思います。


性教育の重要度と頻度を何倍も上げるべきだ


性教育では既に暴力的な価値観に染まっている人たちを食い止めることはできないため、決して全能ではありません。ですが、女性が可能な範囲で自分の身を守るための知識を手に入れることや、男性が加害者やジャンクSEXの提供者にならない確率を高めることができるはずです。

だからこそ性教育は本来もっと充実させなければなりません。都の教育委員会は「中学生の発達段階に応じておらず、不適切」と述べていますが、むしろ中学生では遅過ぎです。性暴力やジャンクSEXやポルノに出会ってしまう前にすべきことなのです。教育は子供たちの生きる力を育むもののはず。人生を左右する性について学ぶ性教育は、重要度と頻度を何倍も上げて、徹底的に行っていくべきでしょう。

そして未成年だけの話ではなく、大人になってからも学び続ける必要があることだと思います。特に男性は、「日本人男性は女性をどんどん性嫌悪に追い込むほど、まともな性的コミュニケーションできないような、世界一のセックス下手」という現実を受け止めて、子供たちのお手本になれるような「女性に対してフラットでフェアな男性像」を築いて欲しいと思います。


~日本人女性をSEX嫌いにさせている主な3つの理由~

【1】性暴力の蔓延
・”Chikan”で通じるほどの痴漢大国であり、13人に1人の女性もレイプに遭うような日常的に性暴力が溢れている社会であること
・それらの体験が「性的なことに対するPTSD」を引き起こしているにもかかわらず、ケアの仕組みや文化が皆無であるばかりでなく、被害に遭った女性たちが「自衛しないお前も悪い」等のセカンドレイプやVictim Blaming(被害者叩き)に晒されて、泣き寝入りを強いられること。
・性暴力対策が被害者への啓発ばかりに偏り、加害防止対策がほとんどなされていないこと(前回の記事「13人に1人がレイプ被害に遭う性暴力大国『日本』は政府の啓発もお粗末」も参照)。
・男子によるスカートめくりが「いたずら」として扱われるように、至る所で女性に対する性暴力が矮小化されていることや、「男はオオカミ」のように性暴力の加害性を免除するような言説が蔓延っていること等によって、社会的な抑止が効いていないこと。


【2】ジャンクSEXの蔓延
・性教育はほぼ皆無の中、性に対するリテラシーや倫理観が欠如した状態で、「射精のみを目的とした独りよがりなAV・漫画」や、「明確な同意の意思表示が無い暴力的なAV・漫画」が男子の教科書代わりになっており、セックス自体がある種の「デートDV」になっていること。
・ジャンクSEXに応じないことを「愛情が無いからだ」と判断する男性がいて、事実上強要されていること。
・それらの体験が「性的なことに対するPTSD」を引き起こしているにもかかわらず、性の話は常に「下“ネタ”」扱いであり、自己責任とされるため、セックスコミュニケーションを真面目に捉え直せる機会が社会に存在しないこと。


【3】女性性消費文化の蔓延
・女性の身体を性的なモノとして大量に消費し、「自分の女性性に対する自己肯定感」「自分の身体は自分のものという身体感覚や自己コントロール感」を女性から奪い続ける社会であること。
・性的に見られる自由はあるのに、性的に見られたくない自由がほとんど確立されていないこと(以前の記事「なぜ、日本人女性はキャミソールを着ないのか?」も参照のこと)。
・ルッキズム(外見至上主義)やエイジズム(若さ至上主義)で「女の価値」をジャッジし、評価の低いと判断した女性性を否定するセクハラが、メディアや学校でも蔓延していること。
・ロリコン文化が浸透し過ぎていること。

(勝部元気)