コンプリート・シングル・コレクション『POWERS OF TEN』リリース。10年の想いを語る
| SPITZ JAMBOREE TOUR 2009 “さざなみOTR カスタム” | 2009.01.18(SUN) at さいたまスーパーアリーナ |
さいたまスーパーアリーナ最寄駅である、さいたま新都心駅がスピッツのファンに占拠されている状況に驚く。しかし、キャパシティの大きな公演にありがちな攻撃的なムードは微塵もない。これまで観たくても観られなかったファンの為に、なんと結成22年目にして決断された初のアリーナ公演である。それこそ、「ロビンソン」や「空も飛べるはず」といった名曲群をポップソングとして愛している人もいれば、誰にも心を開けなかった時期以来、スピッツの曲をお守り代わりに大切にしていた人もいるだろう。普段のライヴでは感じられないファンの心のグラデーションを感じてしまい、開演前から何か込み上げてくる。
本編は、新作『さざなみCD』の中でも自らの生き方を揶揄しながらも誇り、これからも歩き続ける意志を伝える「ルキンフォー」で幕を開ける。セットはホールツアー同様だが、さすが巨大キャパに配慮して、メンバーの姿が分割スクリーンに映し出される。だが、これは必要最低限の演出だ。スタンド最後方で観たからこそ言えると思うのだが、ライヴで最も届いてくるのは草野マサムネの声だ。金字塔的ナンバー「チェリー」での歓声にも埋没することなく、真っ直ぐ遠くまで届いてくる彼の声の威力を再認識する場面に何度も出くわす。「高い声なんて30歳ぐらいで出なくなるかと思ってたけど、こうなったら小田和正さんのように60歳とか70歳になっても歌っていたいなぁ」と、将来の展望を話すマサムネ。鍵盤メインのシンプルな「P」での歌の力や、ハンドマイクを握ってない方の右手のやり場もサマになってきた「砂漠の花」にツアーというものの進化を感じたり、ドラムの崎山のタイトなビートが決まりまくる「メモリーズ・カスタム」ではバンドのフィジカルの強さを痛感。そして今も心の柔らかい部分に触れると即座に温度が上がりそうな「恋のうた」や「ロビンソン」…と、新作にこだわらず、気持ちが温かくなる練られた選曲でアリーナは束ねられていった。
ベースの田村の暴れっぷりが「トンガリ’95」から増幅し、いつものスピッツらしさを見せながら、だからといってラストまではアッパーに盛り上げるベクトルで走りきらないのがスピッツらしい。『さざなみCD』から自身のロック少年の成長物語とも思えるナンバー「漣」が、この日の本編ラスト。そしてそれぞれの感動を表す拍手や歓声に応えて、早々にアンコールに登場。改めて個々に紹介された時、ギターの三輪テツヤが正月にインフルエンザにかかり、真っ直ぐ立っていられない奇妙な作りの公園でライヴすることになるという悪夢を見た話が飛び出す。熱のせいもあるけど少なからずプレッシャーはあったのだろう。マサムネも珍しく「一生忘れられない夜になりました。たくさん、パワーを頂きました、ありがとう」とてらいなく感謝を表明していた。まさに、バンド、そして曲に対する誇りが素直な言葉を導き出した瞬間。こちらこそ、人と比べることの出来ない、“いばらの自由”に向かう勇気をありがとう、と言いたい。
(取材・文/石角友香)