日本で人気のEVは軽規格の車両なのだとか。最近ではBYDのRACCOが発売されて注目されているジャンルです。
なぜ「N-ONE e:」?
驚異の省エネ性能と専用アプリのルート案内
今回、試乗車に選んだのは満充電時に約295km走行できるというHondaの軽EV「N-ONE e:」。「なんで日産サクラじゃないんだ?」というと、サクラは満充電時の航続距離が約180kmと短いうえに、HondaからN-ONE e:をベースにした普通車「Super-ONE」が登場したから。
このSuper-ONEがEVとしては異例なほど好調なセールスを記録しているそうで、すでに1年近い納期になっているという報道も。きっとSuper-ONEユーザーも遠出するでしょうから参考になるのでは、と思った次第です。
まずは街乗りの電費をチェックしてみました。Hondaのお膝元である和光市駅あたりから表参道までの約21kmを下道でシングルペダルコントロールを使って走ってみました。
するとメーター読みで9.3km/kWhと驚きの好電費を記録。不肖が過去、色々な電気自動車に乗ってきましたが、こんな数字は見たことがありません! これがどれだけすごいかというと、メルセデス・ベンツの大型SUV「EQE SUV」の約2倍。同じ軽規格のEVである日産サクラがWLTCモードで約8.1km/kWhですので、それを上回っているというわけです。もちろん道の状況や走り方によって大きく異なりますから、ご参考までに。
では、長距離走行をしてみましょう。スタート地点は首都高速3号渋谷線・用賀出入口近くにあるローソン世田谷瀬田五丁目店。
さて、ガソリンエンジン車と異なり、電気自動車で気になるのは充電スポットでしょう。Hondaは専用のスマホアプリによって、経路のどこで充電するのが良いかを事前に案内してくれます。
今回の場合、「駿河湾沼津SA(下り線)」「掛川PA(下り線)」「刈谷PA(下り線)」の3ヵ所を提示されました。「片道約350kmで、約295km走れるなら1回じゃないの?」と思っていたので、3回という数字にちょっと驚きます。
この結果をナビに転送することもできます。車両側のナビに反映されるまで、1分ほど時間はかかりますが、手元からルート設定できるのはとても便利です。ということでスタートしましょう。
東名高速に乗ったらクルーズコントロールをオン。あとは法定速度にセットして走り続けるだけです。車内騒音は適度にロードノイズが響く程度。
約1時間後、御殿場に到着。電費は7.1km/kWhを記録しています。そのまま新東名へ。120km/h区間に入ってクルーズコントロールの設定速度を上げるのですが、ここで115km/hまでしか設定できないことが判明! 120km/hを出そうとするなら、アクセルを踏み続けないといけないうえに、ハンドル支援も使えないわけで、これはちょっと面倒。
さらにタイヤの細さゆえか、100km/hを超えると車両の挙動に不安を覚えることも。とりあえず115km/hで中央車線を巡航するのですが、追い越し車線で速いクルマが通り過ぎるたびに、車が揺られることも……。これらはN-ONE e:だからではなく、軽自動車あるあるでしょう。
最初の充電ポイントは、スタート地点から約100km先の駿河湾沼津SA(下り線)へ。なのですが、ナビを見ても駿河湾沼津SAで充電するように、という指示は出ません。いちおうルートとしてのピンは立っているようですが、このサービスエリアに立ち寄るということを示してくれた方が親切だと思います。
ということで、30分間の充電。20%から83%まで回復しました。アプリの当初予定値が16%から72%でしたので、省エネで走っていることになります。その差分は何かというと、おそらく120km/hではなく115km/hで巡航したことではないかと推測します。
なぜかというと、100km/hを超えたあたりから、電力の消費が不安になるほど速く感じるから。これは国産ハイブリッド車にも言える話なのですが、どうも100km/hが1つの壁のように感じます。
120km/h巡航は厳しい?
高速道路での電費の壁と横風の恐怖
再び新東名120km/h区間に入り、115km/hで巡航。次は約90km先の掛川PA(下り線)を目指すのですが、横風がとても強く、車体は振られてかなり怖い状態に。新清水JCTあたりでついに心が折れて100km/h巡航へと変更。たった15km/hの差ですが、その差は歴然です。したがって、横風が強い時は速度を落としましょう。
そうこうして、静岡SAを抜けて掛川PA(下り線)に到着し、充電。18%から81%まで回復しました。ちなみに充電量は16.283kWhとのこと。スマホアプリだと20%から76%まで回復すると言っていたので、予想より多く充電できました。
続いて約110km先の刈谷PA(下り線)へ。ここでも充電して24%から81%まで回復。当初予定が16%から72%でしたので、やはり120km/h区間を100km/hで走行している効果があると言えそうです。
あとは知多半島道路を40kmほど走行し、中部国際空港(セントレア)を目指します。知多横断道路は最高速度が80km/hなので、きちんと守って無事到着。残量は50%以上ありました。
さて、編集担当から「復路も測るように」と鬼のような指示が出ているので、そのまま復路の走行距離も計測することにしましょう。
車中泊も快適! N-ONE e:の美点と惜しいインターフェース
復路の前に、N-ONE e:で長距離ドライブをして感じた、良かった点と気になった点を紹介しましょう。まずは気になった点から。
まずはスマホトレイについて。助手席側に置く場所があるのですが、この奥行きが浅いうえに引っ掛かり部分がないため、急ブレーキをかけたりするとスマホがすっ飛びます。
次に純正ナビ。スマホからのルート転送で、経路にある高速道路の充電スポットがピンでしか表示されないというのは前述のとおりですが、ほかにも不満が。まずスマホとナビを接続するためには、USB Type-Aのケーブルが必要なこと。Apple CarPlayはワイヤレスでつながりますが、Android Autoはワイヤレス非対応。ここは最近のクルマなのですから、対応してほしかったところです。
「ありがとうハザード」を使うのに便利なハザードスイッチですが、ナビの下にあるのは良いものの、ダッシュボードトレイと位置が近すぎて、財布やスマホを取ろうとしたらうっかり押してしまった、ということが多々ありました。この位置は考えた方がいいかなと思います。
次に車内にAC100V電源が用意されていないこと。充電ポートに専用のアダプターを使えばAC100Vが使えるのですが、いちいち外に出ないといけないですし、何より走行中は利用できません。そして外で充電していたとして、雨が降ってきたら……。
最近マイナーチェンジした日産サクラには、ラゲッジと車内の2ヵ所にAC100V電源コンセント(メーカーオプション)を用意しているので、これは欲しいところです。
走行面ではシングルペダルコントロールの動作条件が気になりました。シングルペダルコントロールとは、アクセルだけで加減速ができる、いわゆるワンペダル動作なのですが、他社のそれと違い、アクセルを抜いた時の減速(回生)が緩やかなのが好印象。つまり酔いづらいといえます。
一方で、車両の電源をオフにして再起動すると、普通のペダル動作に戻ってしまうのはイマイチ。そしてクルーズコントロール動作中に押すと、クルーズコントロールが解除されるばかりか、アクセルを踏んでいないと急減速することに。クルーズコントロール中は押しても反応しない状態にした方がよいと思いました。
続いてN-ONE e:の良いところ。これはN-ONEにも言えることですが、クルマとしての使い勝手がとても良いのです。
今回、何度か車内で就寝したのですが、後席の座面がチルトアップするので前席の背もたれを思いっきり倒せるのは美質。倒した時にボストンバッグを下に入れておくこともできるので、スペースの有効活用ができます。実際に寝てみると、他のクルマよりも背もたれが倒れるので、寝やすかったです。
感心したのはシートの出来栄え。つなぎ目のない形状で、しかもサイドサポート(脇腹あたりのクッション)などがあまり張り出していません。一見ホールド感が弱いのかなと思ったのですが、そんなことはなく適度な形状。長時間座っていても、寝ていても体のどこかが痛くなるようなことはなく、何より乗り降りがしやすいのも美点です。
また荷室側に照明があり、寝る前に車内で荷物整理をしたりスマホをいじったりするのに重宝しました。ちょっと手を伸ばすだけで点灯できるのも良いです。
後席の床面がフラットなのも◎。床に置いた荷物を引っ張り出したり、席間移動がとてもラクです。
運転席側もウォークスルーができる点も見逃せません。雨の日など車内を移動したい時には実に便利でした。
軽自動車としては荷室が広い印象。スーツケースが2個くらい余裕で入りそうです。ただ荷室に12VアクセサリーソケットやAC100V電源がないのはちょっと残念です。
復路で直面したインフラの壁
充電器の「相性問題」と時間との戦い
それでは復路、つまりセントレアから東京へ戻る際の充電状況をご紹介しましょう。バッテリー残量は62%からスタートです。まずはアプリで立ち寄る休憩施設をチェック。すると今度は岡崎SA(上り線)、遠州森町PA(上り線)、駿河湾沼津SA(上り線)、足柄SA(上り線)の4ヵ所を提示しました。
ここで問題が発生。e-Mobility Powerのサイトによると遠州森町PA(上り)に設置されている新電元工業製の急速充電器とN-ONE e:の組み合わせで充電できない事象が報告されています(ニュースリリース)。
この手の「急速充電器によっては充電できない」という問題はN-ONE e:に限った話ではなく、ほぼすべての電気自動車に起こりうる話で、不肖はEVで遠出する際、e-Mobility Powerの不具合リストを必ずチェックしています。
ちなみにN-ONE e:が新東名および東名で充電できないSA/PAは、遠州森町PA(上り線)だけでなく、海老名SA(上下線)、長篠設楽原PA(上下線)の計5ヵ所(ただし順次修正されるかもしれないので、事前にチェックしましょう)。
さて、この「不具合リスト」。なんとPDFで公開しているため、スマホからだと見づらい&検索しづらいのです。10ページにわたる672ヵ所の不具合箇所の中から、自分が立ち寄りそうな場所を、検索機能を使わずに調べろというのは、利用者のことをまったく考えていないとしか言いようがありません。あわせて、充電できない場所をルート候補として提示してくるHondaのスマホアプリもどうかと思いますが、ともあれ事前に調べておいた自分にGJです。
ともあれ岡崎SA(上り線)に行くことに。クルマは電気を、人間は食事を欲していたので、充電中に食事をすることにしましょう。
名古屋といえば矢場とん。なのですが、これが並んでいるではありませんか! 30分以内に出庫するのがEV充電のお約束ですので、並ぶ→注文する→でき上がる→食べる→戻って出庫する、を30分で済まさなければなりません。
でき上がったのは充電開始して18分後。10分で食べて走って戻って残り1分。なんとか時間内に出庫できました。矢場とんを食べるも、ゆっくり味わうことはできず……。30分という充電時間は、食事をするには短く、ほかのことをするには長いのです。
問題は遠州森町PA(上り)の手前で充電するか、それとも先まで頑張るか。ここで考えたのが「往路は清水から先は100km/hで巡航したので、帰りも清水までは100km/hで走れば、記事的に整合性がつく」というもの。120km/h巡航しなければ電費も稼げるというわけで、遠州森町の先、掛川PAか静岡SAまで行けると考えました。
結果、着いた場所は静岡SA。残量は32%でした。ここで充電をして、次へ。なのですが、岡崎SAで食べた矢場とんにより睡魔が……。30分寝る予定が、気づけば4時間! うっかり爆睡で元気になったところで、次の充電スポットに向かいます。
新清水JCTの少し手前から115km/h巡航へアップ。やはり接地感が薄れて少し怖さを覚えますが、駿河湾沼津SAの先までそのまま巡航。結果たどり着いたのは……。
鮎沢PA(上り線)。さっそく充電して、電池残量は23%から84%にまで回復して東京料金所へ向かったのでした。
東京に到着。用賀出入口を出て、今度はニトリの近くにあるセブン-イレブンへ。N-ONE e:で約700kmを走破しました。充電回数は6回。残量は十分に残っており、家に帰ることができました。詳しい残量と電費は写真のキャプションをご覧ください。
ガソリン車より高い!?
長距離移動で浮き彫りになった充電コストの現実
さて、ここからは計算の時間です。充電料金はいくらかかって、ズバリ、ガソリン車とEV、どっちが得なのでしょうか。
e-Mobility Powerの充電料金は月額4180円の会員価格の場合、27.5円/分。1回あたり30分ですので825円。これが6回で4950円。これをリッターあたり160円のガソリンに換算すると30.93Lとなります。走行距離を700kmとすると、単純計算で燃費は22.63km/L。かなり燃費がよいように思います。
ですが、これは「月額4180円を支払えば」というエクスキューズがつきます。月額料金を支払わないビジター料金の場合、1回の充電が2310円(143円/kWh)と大幅に跳ね上がり、6回充電したので1万3860円! ガソリンに換算すると86.6L分に相当し、8km/Lの燃費と同値となります(充電料金は定期的に改訂されるので、記事作成時の5月末から変更になっている可能性もあります)。
4180円の会費を加えた6回分の充電料金を算出すると、どうなるでしょう。答えは9130円。ガソリンに換算して57.1L分、12.3km/Lとなり、一般的な軽自動車よりもコスト面で劣るといえます。ちなみに、月に3回以上急速充電を利用するなら、会費を支払った方がトータルの出費は安くなります。ともあれこの会費の高さ、何とかならないでしょうか……。
【まとめ】「N-ONE e:」自体は良いクルマ
長距離移動をするなら、事前に充電ポイントの確認を
そろそろ記事をまとめましょう。まずN-ONE e:そのものについては、使い勝手はよいですし、疲れにくいクルマであると感じました。高速道路だって100km/hまでなら、全然平気です。それに100km/h以上を出すと急激に電池が減るので、おそらく出さないようになるでしょう。
次に電気自動車での長距離移動について。片道3回、計6回の充電は多いなぁと思われるでしょうが、普通に行っても1回(30分ほど)は休憩をするわけですから、いつもより1時間余計にかかった、と思えばよいでしょう。バッテリーの小さな軽自動車だから充電回数が多い、というのはあるにせよ、他の電気自動車でも2回は充電すると思います。
気になったのはインフラです。まず車両と急速充電器の相性問題。充電できないのは百歩譲っても、充電できない場合のサポートはユーザーフレンドリーであるべきです。あと月額の会費が高すぎるように思います。トータルの燃料費がガソリン車より安くならないと、人々は電気自動車に目を向けないでしょう。刈谷PAで充電をしながら、朝の光を浴びて、そんなことを思いました。
■関連サイト
N-ONE e:ギャラリー

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