「重回帰法は頼もしい」藤田田・日本マクドナルドのデータドリブ...の画像はこちら >>



藤田田は、生来の動物的カンだけではない。数字にも鼻が効いた。

日本マクドナルドでは、データから新店舗の売り上げを予測する〝重回帰法〟を40年前に導入、成果を著書で喧伝していた。データドリブン経営やAIによる需要予測の先駆けともいえる、藤田田のマーケティング論を『殺されない社長の心得』(ベストセラーズ)より抜粋して紹介する。





■ビジネスは科学だ



 私は重回帰法を現在、日本マクドナルドで活用している。重回帰法というのは、どんなものかというと、いくつもの要因から売り上げを予測していく方法である。



 半径1キロメートル内の人口は何人か。2キロメートルでは何人か。その中に、スーパーマーケットはあるか。駅はあるか。劇場はあるか。そういったビジネスの要因になるものを、まず調査する。



 駅については、1日の乗降客の数は何人か。北のほうへいく人は何人か。

南のほうへいく人は何人か。スーパーについては、年間に休業日が何日あるかといったことを調べる。そしてそれらをもとにして、そこに店をだした場合の売り上げ金額をコンピューターではじきだす。



 それが重回帰法である。この重回帰法を導入するまでは、売り上げ金額の予測は、常にカンだけでやっていた。だから、店をだしたものの、売り上げが予測を大幅に下まわって撤退する羽目になったこともある。



 新しく、未知の町に店をだすときに、いちいちそこに住んでみて、売り上げを予測するわけにはいかない。住んでみたところで、従来はカンに頼るほかはなかった。まして、1日だけいってみたのでは、なにひとつわからない。



 しかし、重回帰法では、かならず、売り上げを予測する数字がでてくるのである。



 私は、半径500メートル、1キロメートル、2キロメートル、3キロメートル……と半径16キロメートルまでのデータを取らせ、そこのインカムの状態、男女の人口、小中学校、高校、短大、大学の数と学生生徒数、町がどの程度進歩しているかをすべて計算させる。



 1985(昭和60)年時点で、マクドナルドは日本に500店がある。

500店のデータがあれば、重回帰法で新しく開く店の売り上げが、瞬時にはじきだされるのである。しかも、その予測が当たる確率は95パーセントの高率なのだ。



 残る5パーセントは、周辺の公団アパートが初期の建物で家賃が安く可処分所得が多い層の住人だったために売り上げが予測を上まわったり、逆に、新しいアパート群ばかりで家賃が高く、可処分所得が少ないために予測を下まわったりした場合である。



 そういった予測がはずれた原因をつきとめるたびに、プログラムを修正していく。そうすると確率は、ますます高くなっていく。



 95パーセントの確率も、最初からそんな高率だったわけではない。初期には的中率が50パーセントだったこともある。1000万円の売り上げ予測が、ふたをあけてみたら2000万円あったということもあったが、現在ではそんなことはなくなった。



 以前は、新しく店を出したいと思っている町に足を運んでみて、たいしたことはなさそうだとカンで取りやめたこともある。重回帰法では、そういった場合でも、コンピューターの計算が「GO」とでれば、安心して店をだすことができる。



 この日本マクドナルドが導入した重回帰法は、プログラミングがすばらしいという評価を得て、現在では世界じゅうのマクドナルドが採用している。



 新しく店をだす前に、95パーセントの確率で売り上げが予測できるということは、非常にたのもしいことなのである。





■失敗した「つくば科学万博」の教訓



 ただ、この重回帰法による新店舗の売り上げ予測も、1985年の「つくば科学万博」でははずれた。



 科学万博の会場では、東店、中央店、公園店、西店の4店舗をだした。



 重回帰法による各店の売り上げ予測は、全期間を通じて、東店2億5000万円、中央店3億1000万円、公園店1億2000万円、西店1億8000万円である。全店の合計が8億6000万円。



 ところが、実際には、東店1億4000万円で予測の56パーセント。中央店2億4000万円で77パーセント。公園店1億8000万円で151パーセント。西店4億5000万円で250パーセント。トータルでは10億1000万円、117パーセントである。



 4店舗合わせれば、予測を上まわる成績が達成できたものの、個々の店舗では大きくはずれたといわざるを得ない。



 予測がこれほど大きくはずれた原因の一つは、人の流れがつかめなかったことにある。われわれは、メインゲートを重視して、どこのゲートの入場者がもっとも多いか、ということばかりに気を取られていた。



 ところが、入場した直後にレストランに入ってくる客はほとんどいない。だから、入場者のもっとも多いメインゲートに近い店は売り上げが予測を下まわった。



 売り上げが予測の250パーセントに達した西店は、団体客の集合場所の西ゲートにもっとも近い場所にある。つまり、入場者は会場に入ると、思い思いの場所に散っていくが、帰りに団体客は集結する。西ゲートをでたところは団体バスの駐車場だから、いきおい西ゲートは団体客の集結場所になる。それを見落としていたのだ。



 帰りには空腹になっているし、お金を使い果たしても安心である。そういった入場者の心理も売り上げ増につながったものと思われる。



 予測がはずれたもう一つの原因は、人気パビリオンがわからなかったことにある。人気のあるパビリオンの近くのレストランは売り上げが伸び、人気のないパビリオンに近いレストランは閑古鳥が鳴いた。



 しかし、パビリオンの内容の善し悪しや人気の有無は、万博の当事者にもわからなかった。まして、レストランの経営者であるわれわれに、わかるはずがない。



 こうした予測の狂いは、教訓として、つぎの機会にいかしたいと思っている。





■高速道路網の発達がビジネスを変える



 1971(昭和46)年には、わが国の高速道路の延長は710キロメートルにすぎなかった。



 以後、年々、高速道路の延長は確実にふえて、81(昭和56)年には、2860キロメートルと10年間で4倍以上になっている。



 82(昭和57)年には、3010キロメートル。84(昭和59)年には3435キロメートルになった。高速道路は、これまで鉄道のなかったところに鉄道ができたようなもので、人間の生活を大きく変えた。



 この高速道路は、90年には、総延長が7600キロメートルに達する予定になっている。そうなったときには、われわれの生活は、さらに大きく変わっていくことが予想される。高速道路網が日本国じゅうに張りめぐらされたときにどうするか。そのことも21世紀対策の一つとして考えておく必要がある。



 高速道路とマクドナルドの売り上げには、直接の関係はなさそうだが、たとえば、75(昭和50)年、高速道路の延長が1888キロメートルのときに、日本マクドナルドの売り上けは年間100億円だった。79(昭和54)年、高速道路の延長が2579キロメートルになったときに、日本マクドナルドの売り上げは4倍の400億円に達した。

さらに、高速道路が3435キロメートルに延びた84(昭和59)年には、ついに1000億円を突破した。



 しかし、売り上げ1000億円を突破したからといって満足したわけではない。



 そもそも、私が年間売り上げ1000億円のアドバルーンをあげたのは、売り上げが100億円に達したときだった。そのときに、1000億円を売る産業にするといったのだから、荒唐無稽なことをいうと笑われたものだ。



 1000億円の売り上げを連成すると、今度は5年後には2000億円の売り上げをあげるとつぎの目標を立てた。西暦2000年には5000億円の売り上げをあげるとつぎのつぎの目標も発表した。



 そうやって、目標を掲げ、自己暗示をかけて仕事をしていくことが大切なのである。そういった自己暗示をかけて、自分も社員も引っ張っていくべきなのである。しかも、その目標はどうしたら達成できるかを計算し、予測しつくしたうえで、あくまでも実現可能なものを打ちあげなければならない。



 高速道路網の発達は人間の生活をめまぐるしく変えていくが、それに押し流されないように、目標を立て、それに挑戦する姿勢が大切である。





ラジオも捨てたものじゃない



 盲点といえば、テレビ万能主義の時代だからマクドナルドの広告は、テレビのほうがいいと思っていたら、ラジオも意外に効果があることが判明した。



 博報堂が、600万~700万円かけて、ドライブスルーにきた客に、ラジオとテレビのどちらの宣伝で知って店にきたかを調査したのだ。



 テレビを見てきたお客さんと、ラジオをきいてきたお客さんは、両方にまたがっている人もいるが、そうではなくテレビだけ、ラジオだけでは、お客さんの数に大差がないというのが、その結果だった。しかも、かけている宣伝費は10対1でテレビのほうが圧倒的に高い。



 宣伝費が安いラジオでも、テレビと同じぐらいお客さんを動員できるのであれば、ラジオも広告媒体として捨てたものではないと思う。とくに今後、高速道路網が発達すれば、車に乗ってラジオをきく人も増加することが見込まれる。そうなるとラジオの広告媒体としての需要はこれまで以上に高くなるものと思われる。



 テレビ、ラジオにくらべると、活字媒体は値段が高い。



 関東地方のテレビ台数は約800万台。1台のテレビを見ている人の数が5人とすると、800万台のテレビの視聴率が100パーセントのときには、4000万人がテレビを見ていることになる。視聴率10パーセントの番組を買うと、400万人の人が見ている計算になる。



 400万人の人にマクドナルドのメッセージを伝えるために活字媒体を使うとなると、関東地方で発行部数400万部の新聞、雑誌をさがさなければならない。雑誌はせいぜい関東地方で、30~40万部だから、そういった雑誌に広告を掲載するのは不可能である。



 活字媒体の宣伝は残りはするが、400万人に一度でマクドナルドのメッセージを伝えるとなると、テレビにくらべると圧倒的に高くつく。テレビは瞬時に消えはするが、1回の費用が、50万円、100万円なら、視聴者一人についてかかる費用をはじきだすと非常に安い。



 活字媒体もある特定の層だけにメッセージを伝えたいというのであれば安い場所もあるが、マクドナルドのように赤ん坊から老人まで、すべての層に訴えたいときには、テレビがもっとも安いといえる。



 マクドナルド以外でも、風邪薬などのように全年齢層が対象なら、テレビがいちばん安い。テレビのCFはゴールデンアワーにこだわらない。あくまでもこだわるのは視聴率である。視聴率のいちばん大きいところを狙う。



 GRP──グロス・レイティング・ポイントというのがあって、GRP数字で250とか300とかで、メッセージが何人に到達したかがわかるが、それを重視する。



 午後2時のよろめきドラマの視聴率10パーセントと夜の10時の10パーセントでは、見ている人の質はちがうが、メッセージが到達する相手の数は同じである。その安いところで宣伝をする。



 GRP数字があり、高速道路の総延長がはっきり数字ではじきだされている時代に、ビジネスだけ、カンに頼っていたのでは仕方がない。カンで儲かるのはギャンブルの世界だ。



 ビジネスは今や科学なのである。重回帰法で、売り上げの98パーセントを予測するような科学的なビジネスをしなければならないのだ。



 とくにこれだけ社会が複雑になると、カンだけでビジネスをするのは不可能である。原始時代同様のカンだけに頼るビジネスでは成功はとてもおぼつかない。



 ビジネスはコンピューターを活用し、科学的に数字をはじきだし、それをにらみながらおこなってこそ、21世紀を迎え撃つことができるのだ。



文:藤田田





《『殺されない社長の心得』より構成》

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