「美容外科」と聞くと、どうしてもインパクトや価格重視の広告が思い浮かんでしまう。しかし、大切な自分の顔や身体に関する領域であるにも関わらず、そこから医療機関が持つべき理念や技術力、安全性などを判断することは難しい…。


1995年、繁華街ではなく住宅街である自由が丘に開業した「自由が丘クリニック」はCMや雑誌広告に頼ることなく、地域密着型の美容医療を広めてきた。そして、今日も理事長・古山登隆先生のもとには国内外から多くの患者が訪れる。大学病院における美容外科を本格的にスタートしてから30有余年。“メスを使わない若返り治療”の権威と称される氏が考える「美」、そして哲学について話を訊いた。
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多忙な合間を縫ってインタビューに応じてくれた古山登隆理事長。確かなバックグラウンドに裏打ちされた、明確な「美」への哲学をたっぷりと語ってくれた。
|“住宅街の美容クリニック”が誕生するまで

──────古山先生は美容業界のパイオニアとして、35年以上この業界を牽引されています。また、近年は国外へも赴いて技術指導を行なっていらっしゃいます。

●古山理事長(以下、「古山」と記載)──ええ。でも、実を言うと…北里大学病院勤務時代は「美容外科」というジャンルから逃げ回っていたんです。当時の美容外科と言えば、患者様が人目を忍んで行くイメージがありましたし、アルコールのにおいがする繁華街のある駅の近く、雑居ビルの薄暗い一角で開業しているクリニックばかりでしたから。どうしてもポジティブな印象が持てなかったのです。



──────「美容外科」に対するお気持ちが変化したきっかけは何だったのでしょうか。

●古山)──恩師である北里大学形成外科(当時)・塩谷教授からの強い勧めがあり、欧州を中心とした海外の美容外科の視察へ行かせてもらったんです。そこで、まるでカフェのような明るい印象を持ったクリニックを見たり、ある老夫婦が「誕生日プレゼント」として奥様のシワを取る施術を行っていたりするシーンに出会いました。そういった中で美容医療に対する視点が大きく変わっていきました。

──────当時の日本では想像できない、素敵なエピソードですね。

●古山)──ええ。
「美容医療は、誰かの人生を明るくすることができるかもしれない」と思いました。それに、塩谷教授から「今後、必ず美容に対する医療の重要性は増す」とも言われていました。そうして、これまでとは真逆の『繁華街ではなく、お酒の匂いのしない住宅街』で『一切の宣伝はしない』というポリシーのもと、1995年に当院を開業しました。

──────そこからの25年は順風満帆だったのでしょうか。

●古山)──いえ、特に最初の頃は厳しい時期もありました。しかし、ケミカルピーリングや、ボトックスなどの注入療法といった時代性をうまく取り入れることで、広告とは違った形でメディアに取り上げてもらうことができました。
それに塩谷教授に厳しく鍛えられた確かな技術、そして「自分たちはあくまで“定期的に通える町医者”である」というマインド、それらが合わさった結果として地域に根ざした今があると思っています。

|美しさを決めるのは何か?

─────今では「プチ整形」といった言葉に顕著なように、美容外科は一般化してきています。美容の最前線にいらっしゃる先生の感覚として「流行の美」はあるのでしょうか?

●古山──美に流行はあまりないと思います。しかし、日本の美容医療では「目」の手術が最も多いのですが、トルコのアンカラでは「鼻」の手術が多いのです。「流行」というよりも、そういった国民性や民族性による「特徴」はありますね。だけど、例えば中国出身のモデル・アンジェラベイビーを見たら、欧米人でもアフリカ人でも、おそらく「美しい」と感じるはずです。

つまり、みんなが綺麗だと感じる顔はあるんですよね。「では、それが何なのか?」ということに対しては、とても興味があります。

─────誰が見ても「美しい」と思う顔の定義とは何なのでしょう。

●古山──私が重要だと考えているのは「曲線」と「バランス」です。フェイスラインやエステティックライン(鼻の先端とあごの先端を結んだ線)などの三次元的な凹凸が描く曲線で、美しさは決まってきます。そして、多くの人は平均値の高いところ、つまり正規分布でいう真ん中の部分を「良い(=綺麗)」と感じる傾向があります。
このバランス感覚は極めて直感的、本能的なものです。

─────確かに「美しい」は直感的な感覚と言えますね。

●古山──そして、このバランスや曲線が徐々にアンバランスになっていくことが老化なんです。ですから「魅力的な老化」はあれど「美しい老化」というのはありえないんですよ。私は美には「内・外・心」という概念が重要だと考えていて、それらは連動すると感じています。つまり、前向きな気持ちになれば、それが内面や外見にも影響してくるのです。

─────美容クリニックは「外」を担当する場所だと思っていました。

●古山──「美」に限らず「気持ちや心」は大切な要素だと思います。だから私は、来院した患者さんが美容医療についてポジティブになれるよう、そして、自身の治療へのモチベーションが上がるように、クリニック内の雰囲気や設備にもこだわりますし、カウンセリングでも時間をかけてお話をするようにしています。

なぜ日本の美容医療がアジアで注目されるのか?ジャパンビューティーの伝道師が初めて語った、人生100年時代を魅力的に生きる「内・外・心」の処方箋
広い院内を丁寧に説明してくれた古山理事長。すべての部屋に、そして設備に患者ファーストの意図があり、それらがアップデートされ続けている。|日本人だから可能な「美」の提案

─────オリンピックイヤーの2020年がはじまりましたが、先生個人、またはクリニックとしての展望や目標などについて教えて下さい。

●古山──実は…さきほどお話した『美のバランス』は、これから私たちが世界へ向けて提案していこうと考えているテーマ『ジャパン・ビューティー』にもつながることなんです。

─────ジャパン・ビューティー、ですか?

●古山──コリアンビューティーは、韓国の国策として成功しました。ですが、綺麗な人はみんな同じような顔に見えたりしますよね? 日本人は和食において顕著なように、素材の良さを大事にし、丁寧に扱う特性があります。これは美容にも活用できると思うのです。ガラっと変身するのではなく、もともと持っている良さを活かした、ナチュラルルッキングな美しさを追求・提案していきたいと考えています。

─────日本らしく、日本人らしい美ということですね。

●古山──ええ。それに、日本人の仕事の特性としては確実性や安全性、勤勉性が挙げられますが、これも日本の強みです。実際、当院にはそれらを期待してアジア諸国からたくさんの患者さんがいらっしゃいます。また、「おもてなし」ではありませんが、患者さんがリラックスできることはもちろん、より前向きな気持ちになれるように院内環境もアップデートし続けています。

─────大切な自分の顔や体を安心して任せられるクリニックや先生を訪ねるのは当然ですね。

●古山──そう言ってもらえるのはありがたいのですが、時間とお金をかけてわざわざ海を渡って来てくれるわけですから、期待以上の安心と満足を提供したいですよね。だから私は使用した薬品のロット番号まで、すべて患者さんにお渡ししています。

─────それは信頼されますね。でも、そこまでする必要は…

●古山──「期待以上」「ここまでしてくれるんだ」と、心から満足していただいた患者様がリピーターになってくれる、あるいは口コミを広めてくれるのです。そうした患者ファーストの地道な努力を怠るわけにはいきません。

─────そのストイックな姿勢によって現在のポジションを確立されたのですね。

●古山──日本は多くの領域で世界のトップでしたが、技術やプロダクトは必ずキャッチアップされてしまいます。だからこそ、私たちも現在のアドバンテージに慢心することなく、今後は独自性や芸術性といったプラスαが必要だと思っています。

─────なんとも頼もしい限りです。それでは、最後の質問です。先生にとって『美容医療』とはどういったものなのでしょう?

●古山──美容クリニックは、患者の命を救ったり身体機能を回復する場所ではありませんが、その人のクオリティ・オブ・ライフを向上させることはできます。患者さんを綺麗にするのはもちろん、自信を持つことで得られる幸福感や、活動寿命を延ばすことでイキイキ生活できるようなお手伝いをすることも、私たちの重要な役割だと思っています。もちろん我々も登場しますが、主人公は患者さんです。だから、本当は院内の入り口にレッドカーペットを敷きたいと考えているんですよ(笑)

─────それは良いですね(笑)。本日はありがとうございました。

●古山──こちらこそ、ありがとうございました。

 


古山理事長へのインタビューは、美に関する話題のみならず、人生やビジネスにまで及んだ。「高齢化・晩婚化」する日本において、美容が次のフェーズに移行しつつあること、そして人生100年時代の「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)」を高める有力な選択肢であることは間違いなさそうだ。

これまでも美容業界を牽引してきた自由が丘クリニックが、今後は「ジャパン・ビューティー」をキーワードとした「新しい美」をどのように牽引していくのか、楽しみでならない。