8月7日、後楽園ホールで“世にも不思議なタイトルマッチ”が行なわれた。セミファイナルにラインナップされたのは、女子プロレス団体『Rose』が認定するワールドチャンピオンシップ。
初代王者のRIKOに若手の急成長株・叶ミクがチャレンジする好カードなのだが、じつはチャンピオンのRIKOも、チャレンジャーの叶ミクもRoseの所属選手ではない。それだけでなく、この日の興行はROSE主催ではなく、男子団体・プロレスリングZERO1の大会。チャンピオンもチャレンジャーも、さらにはリングすらも「所属外」のタイトルマッチというのは異例中の異例。他団体に流出したベルトを奪還する、というシチュエーションならよくあるが、その形にすらなっていない。まさに「世にも不思議なタイトルマッチ」なのである。

【写真】観客を熱狂の渦に巻き込んだRose王座戦の様子【3点】

ただ「真夏の怪談」ではない。こういう形式になってしまったのには、ちゃんと理由があるからだ。

今年4月に旗揚げしたRoseだったが、そのタイミングで選手や練習生の欠場、負傷が相次ぎ、エースの真白優希ひとりでの発進となった。翌月には王座も新設され、真白の戴冠が期待されたが、結果はマーベラス所属のRIKOの勝利。さらに真白が首の負傷により、無期限の欠場を発表したため、この時点でRose所属選手による奪還が事実上、不可能となった。そんなカオスな状況下で挑戦権をゲットしたのがT-HEARTS所属の叶ミクだったのが、これまでコンスタントに開催されてきたRoseの興行がストップ。7月には一度も開催されず、現時点で8月以降の大会予定についてのアナウンスはない。
ある意味、活動停止寸前?なのだ。

それでもチャンピオンがいて、次期挑戦者も決まっている以上、タイトルマッチはおこなわなくてはいけない。結果、RoseのGMである元・女子プロレスラーの工藤めぐみが並行してGMを務める兄妹団体のZERO1の後楽園ホール大会で執り行われることが電撃決定。所属選手がまったく絡まず、別団体のリングで開催されるという真夏のミステリーの真相はこれだった。

この日の後楽園ホール大会は真夏の最強決定リーグ『火祭り2026』の決勝戦がおこなわれるとあって客席もなかなかの盛況ぶり。まだ後楽園大会を開催できていないRoseにとって、プロレスの聖地でベルトのお披露目ができるのはむしろラッキーなことかもしれないが、決勝戦の前のセミファイナルという試合順はなかなかの鬼門。というのも、その前の試合には決勝進出を逃した火祭り参加全選手による時間差バトルロイヤルが組まれていたから。前年優勝者のハヤブサや黒潮TOKYOジャパンなどの人気者が続々、登場してくるメインイベンターだらけのバトルロイヤルは大いに盛りあがりまくった。

このあとに試合をするのは、なかなかハードルが高い。ほとんどの観客はZERO1のファンであり、彼女たちというか、女子プロレスにまったく興味がない人も多そうだ。知っている選手ばかりのバトルロイヤルの直後に、知らない選手同士のシングルマッチ。せめて試合順が逆だったら、と思う反面、ベルトの格を高めていくには、やはりセミファイナルの看板はほしい。
チャンピオンのRIKOも「まったく客層がわからない。盛り下がってしまったら、どうしよう」という不安を抱えながらリングへと向かっていった。

だが、不安は一瞬で吹き飛んだ。

ベルトを賭けての大熱戦に客席のボルテージは上がりっぱなし! 強くて悪いチャンピオンに、全力ファイトでぶつかっていく若きチャレンジャーという図式は非常にわかりやすく、初見のお客さんにも刺さりやすかったようだ。それだけでなく、このところ上昇気流に乗っている叶ミクの奮闘ぶりが観客の熱狂にさらなる火をつけた。何度となく王座奪取か?という局面を作る大健闘! 最後はRIKOのムーンサルトプレスに散ったが、叶ミク史上最高の闘いといっても過言ではない試合となった。

女子プロレスの会場にしか足を運ばない人たちは惜しくも見逃してしまったかもしれない「幻のベストバウト」。この名勝負のおかげでRoseのベルトはグッと価値があがったのではないか? 工藤めぐみGMも「セミファイナルを任せてよかった」とこの試合を高く評価している。

初防衛に成功したRIKOは「真白優希が復帰するまで、このベルトを守る!」と宣言した。Roseのエースである真白優希とのタイトルマッチで勝利するまで、このベルトは本当の意味で完成しない。さまざまな団体、さまざまな選手にベルトが移動することで、タイトルに箔がつくのでは、という考え方もあるが、RIKOは「誰の挑戦でも受ける』と自分ひとりでベルトの格をあげることを決意した。

欠場中の真白優希も来場していて、この試合を真剣な表情で見つめていた。
現状、復帰の時期は未定。誰よりも本人がいちばん焦ってしまうところだろうが、いまはとにかく治療に専念して、ベルトの行方を見守るしかない。どんどん価値があがって、その王座に挑戦ができることになれば、禍を転じて福となす、かもしれないのだから。

さて、肝心のRoseであるが、左ヒザ前十字靭帯断裂で一度は決まっていたデビュー戦が延期となっていた練習生の七世真理子が10月17日に国立代々木競技場第2体育館にて開催される『工藤めぐみ40周年記念大会―邪道姫伝説―』で待望のデビュー戦をおこなうことが発表された。なんの予定もなく新人をデビューさせるはずもなく、おそらく10月か11月には興行が再開されると思われる。そのときベルトはどうなっているのか? 誰かに移動してしまっているのか? それともRIKOが防衛を重ねて、彼女なりの色と価値でベルトを塗り重ねているのか? タイトルマッチがベストバウトになったことで可能性は大きく広がってきた。

世にも不思議なタイトルマッチの翌日、ホームリングであるマーベラスの後楽園ホール大会に出場したRIKOはRoseのベルトを誇らしげに掲げながら入場してきた。心なしか、昨日よりも輝きが増したように見えた。チャンピオンベルトとはこうやって価値を高めていくものなのである。

(写真提供・プロレスリングZERO1)

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