日本も「酷暑日」なんて言葉も登場し、毎年厳しい夏が続いているが、ヨーロッパの夏も確実に高温化が進んでいるようだ。
日本ではおなじみの昆虫、カマキリだが、ヨーロッパでも昔から生息はしていた。
ところが今、アジアからやってきた大型のカマキリ2種が急速に勢力を広げ、在来種を含む生態系への影響が問題になっている。
これも気候変動の影響なのか、それともほかに理由があるのかはまだはっきりとはわからないが、高温化が彼らの生息域を広げる原因となったのは間違いない。
この研究は2026年2月9日、学術誌『Journal of Orthoptera Research[https://doi.org/10.3897/jor.35.165233]』で発表された。
ヨーロッパに広がるアジア原産の大型カマキリ
この2種のカマキリとは、日本にも生息しているハラビロカマキリ属のハラビロカマキリ(Hierodula patellifera)と、インド原産のインドオオカマキリ(Hierodula tenuidentata)という種類である。
ハラビロカマキリは、日本では本州から沖縄にかけて生息している在来種だが、ヨーロッパでは本来の分布域外から持ち込まれた外来種だ。
研究を率いたイタリアのG・ザンナート考古学・自然科学博物館のロベルト・バッティストン氏によると、この2種は約10年前からヨーロッパで生息しており。存在自体は以前から知られていた。
だが、在来種や生態系にどの程度の影響を与えているかは、これまでほとんど調査されていなかった。
近年になって、この2種はイタリア北部やバルカン半島南部を中心に安定した個体群を形成し、都市部や公園、民家などでも確認されるようになったそうだ。
そして今回、研究チームがその繁殖力や捕食行動を調べたところ、在来種を含む生態系に無視できない影響を与えていることが明らかになったのだ。
「死の誘惑」に誘われた在来種のオス、交尾の末に捕食される
この2種は主に低木などの樹上で暮らす大型の捕食者で、侵入先への適応力に加え、高い繁殖力を持つのが特徴だ。
研究チームが北イタリアで採取した卵鞘15個を調べたところ、合計3133匹の幼虫が孵化し、卵鞘1個当たりの平均は209匹だった。
ヨーロッパ在来種のウスバカマキリでは、卵鞘1個当たりの平均が約127匹と報告されており、1回の産卵で生まれる幼虫の数にはかなり差があることがわかる。
さらに研究チームが在来のウスバカマキリのオスを使い、同種のメスと外来種のメスのどちらに惹かれるかを実験したところ、驚くべき結果が出た。
オスたちは自分の仲間であるウスバカマキリのメス(39.6%)だけでなく、外来種のメス(34.2%)にも、同じくらい引き寄せられることが判明したのだ。
そこでウスバカマキリのオスと外来種のメスを直接接触させてみたところ、実験に使われたオス5匹はすべて捕らえられ、食べられてしまったのである。
野外でも、イタリアの民家の庭でウスバカマキリのオス2匹が外来種のメスに交尾を試み、1匹は逃げたものの、もう1匹が捕食される事例が記録されている。
このように外来種との繁殖行動によって、在来種のオスの命が失われる現象はニュージーランドでも報告されており、「死の誘惑」と呼ばれている。
在来種の交尾相手が減ることで、受精率や個体数の低下につながる懸念もあるが、研究チームは繁殖への影響について、さらに調査する必要があるとしている。
昆虫だけでなくカエルやトカゲまで餌食に
このように、外来種のカマキリたちは、高い繁殖力を持っているだけでなく、「死の誘惑」で在来種のオスを呼びよせて食べてしまう。
さらに彼らの食欲は、在来種のカマキリだけに向けられるわけではない。昆虫はもちろん、身体の大きなカエルやトカゲまで、幅広く捕食してしまうという。
この外来種2種と他の生物との関係を調べた結果、ミツバチやスズメバチ、チョウ、セミ、バッタなどさまざまな昆虫を捕食していることが確認された。
さらにヨーロッパカベカナヘビやペランアマガエルといった脊椎動物を捕食している事例も報告されている。
こうした幅広い食性や高い繁殖力に加え、在来種の繁殖への干渉が確認されたことから、研究チームはこの2種を侵略的外来種に該当すると結論づけた。
今後は特に固有種の多い地中海の島々などで、詳しいリスク評価と、彼らの分布拡大を抑える対策が必要だとしている。
在来のカマキリも気候変動による温暖化で北上を開始
ヨーロッパには、今回問題となった外来種がやってくる以前からカマキリが生息していた。その代表が、『ファーブル昆虫記』にも登場するウスバカマキリだ。
もともとは主にヨーロッパ南部から中央部に分布していたが、近年はこのウスバカマキリも、その生息域を北へ広げているという。
ドイツでは地中海地域から中央部へと分布が拡大。リトアニアでは、2008年に初めてウスバカマキリが確認されたが、その後は国内全域で見られるようになった。
つまり、暖かい環境を好む在来種たちも、気候の変化とともに、これまで生息できなかった北へ進出しはじめたのだ。
研究者らは、年間平均気温の上昇や冬の温暖化など、近年の気候変化が分布拡大に関係しているとみている。
EUのコペルニクス気候変動サービス(C3S)が出した「欧州気候報告2025[https://climate.copernicus.eu/esotc/2025]」によると、ヨーロッパは世界で最も温暖化が進む大陸で、過去30年間の気温上昇率は世界平均の2倍を超えているそうだ。
さらに都市部ではヒートアイランド現象で、冬でも暖かい日が続くようになった。さらにインセクトホテル(昆虫ホテル)[https://sin-rin.jp/forescope/fun/8478]などが置かれるようになり、人間が作り出した環境もその拡大を助けているという。
日本でも外来カマキリが在来種を圧迫
これはヨーロッパだけの話でもない。日本にも近年、外来種のムネアカハラビロカマキリ(Hierodula chinensis)が侵入している。
このムネアカハラビロカマキリは、近年日本に侵入した外来種だが、現在は日本各地で確認されるようになった。
多摩森林科学園の研究[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjeez/27/2/27_53/_pdf]では、侵入後に在来のハラビロカマキリがいなくなったことも記録されている。
さらに2025年には、大阪公立大学などの研究者が、野外でムネアカハラビロカマキリと在来のハラビロカマキリが異種間交尾する様子を確認した。
彼らの侵入地域では、ハラビロカマキリの減少や完全な置き換わりが報告されているそうだ。
一方で、外来カマキリにも天敵はいる。今回の2種のカマキリに関しては、ヨーロッパスズメバチや猫、フクロウ、キツツキなどによる捕食が確認されている。
その半数近くは家猫によるものだったというが、猫は外来種と在来種を区別して食べてくれるわけではないので、外来カマキリ対策として当てにできるわけではなさそうだ。
今後も注意深い監視が必要
生物が本来の分布域外へ運ばれるのは、主に人間の活動が原因だが、その土地で定着し、さらに分布域を広げられるかどうかには、気候条件も大きく関係する。
ヨーロッパでは急速な温暖化と都市化が進んだことから、アジアからやってきた大型カマキリがさらに北へ進む条件が整いつつあるようだ。
これまで冬を越せなかった外来生物が、温暖化によって生き残れるようになったなら、侵入後の被害が他の地域にまで広く拡大する可能性もある。
何でも捕食する大型のカマキリがその場所の生態系に入り込めば、昆虫類はもちろん、爬虫類や両生類も大きな影響を受けるリスクがある。
今回の研究は、外来カマキリの影響がヨーロッパ全域で同じ規模に達していることを示したものではない。
だが研究チームは、今後は固有種や希少種が生息する地域での重点的な監視を行い、専門家の指導に基づく防除へと進む必要があるとしている。
References: Scientists warn invasive Asian mantises are threatening Europe's wildlife[https://www.sciencedaily.com/releases/2026/07/260710003540.htm] / DOI: 10.3897/jor.35.165233[https://jor.pensoft.net/article/165233/]











