武田一浩に聞くMLBの日本人投手たち 前編

 トレードで最強左腕タリク・スクバルを獲得し、投手陣の厚みが増したロサンゼルス・ドジャース。一方、左膝に不安を抱える大谷翔平の次回登板は白紙の状態が続いている。

今後、ドジャースは投手陣をどのように運用していくのか。

 また、同じナ・リーグでプレーオフ進出を目指すシカゴ・カブスの今永昇太も、シーズン終盤で調子は上向きだ。そんなドジャース投手陣と今永の現状について、15年の現役生活で4球団を渡り歩き、最多勝やセーブ王などのタイトルを獲得し、現役引退後は第1回WBCで投手コーチを務めた武田一浩氏に聞いた。

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【投手復活へ動く大谷の、左膝よりも気になる点】

――スクバル投手が加わり、ブレーク・スネル投手が8月11日(日本時間12日)のカンザスシティ・ロイヤルズ戦に先発して戦列に復帰。タイラー・グラスノー投手の復帰も近づいていますが、先発陣の序列はどうなっていきそうですか?

武田一浩(以下:武田) コンディションがいいことが条件ですが、ベストの先発ローテーションは、山本由伸、スクバル、佐々木朗希、スネル、グラスノー、大谷だと思うんです。ただ、大谷はもう投げないかもしれませんし、投げても9月に投げ始める感じじゃないですか。

 左膝に不安を抱えているのはわかっていますが、それよりも、7月上旬に上腕二頭筋が痛くなったことのほうが気になっていて......。痛める前の3試合くらいは、けっこう腕が横振りになっていたんです。強引に変化球を投げていて、そのあたりの投球が腕の張りにつながったんだろうなと思っていました。僕はそっちのほうが心配なんですよね。

――最近になって、キャッチボールでの調整を始めているというニュースも出てきました。

武田 少し投げ始めましたね。でも、スクバルを獲れたから、もう投げなくてもいいんじゃないですか。

チームはこのまま地区優勝するでしょうし。不安を挙げるとしたら、キャッチャーのウィル・スミスがいつ復帰できるかということ。

 ただ、それほど慌てて戻る必要もない、といえばそうかもしれません。近年のドジャースは開幕からずっと全開という感じではなく、8月の終わりからポストシーズンが終わるまで調子がよければいいという起用になっていますからね。

【バッターとしての起用も慎重】

――そう考えると、大谷選手も無理をする必要はない?

武田 ないですね。繰り返しになりますが、スクバルも獲れましたし、慌てずに打つほうに専念してもらったほうがいいと思います。ただ、打つほうも膝が痛いなら、そんなに無理はできないでしょう。

 9月に入ったら投げ始めるかもしれませんが、ポストシーズンで6人の先発ピッチャーはいらないんですよ。短期決戦は1回やられるとダメなパターンが多いので、使えるピッチャーをどんどん使っていく。だから、大谷は昨年の山本みたいな起用法になるかもしれません。
 
 いずれにせよ、ポストシーズンの先発は4人で回すんでしょうから、2人目までは山本とスクバルで大丈夫。3人目、4人目に誰が入るかという感じですよね。無理ができるのは、ワールドシリーズの最後のほうだけ。

今の時点で、ケガを抱える選手に無理をさせる必要はあまりないですね。

――ここ数試合で好投が続く佐々木投手も、ポストシーズンを見据えて重要な存在になってきますね。

武田 佐々木は昨年にリリーフを経験していますし、今年もリリーフで投げさせる可能性は十分あると思います。

――大谷選手の腕が心配というお話がありましたが、左膝についてはどう見ていますか?

武田 僕も現役時代に膝をケガして、手術もしました。右膝の半月板と軟骨を損傷したのですが、水を抜いたり、痛み止めを打つ治療をやりながらだと、なかなか治らないんですよ。その繰り返しですし、無理をするとけっこう長引きます。

 半月板あたりの損傷であればそれほど時間がかからないと思いますが、僕みたいに軟骨も損傷してしまうとなかなか治りません。軟骨は再生しないですからね。僕の場合は大谷と逆で右膝でしたが、(右投手は)投げる時に右膝が体の内側に入るんです。その瞬間が痛かったですね。痛みで足が地面からパっと離れてしまうので、ボールに力がなくなりましたし、制球が難しくなりました。

――仮に膝が悪化して、バッターとしても出られなくなることは避けたいですね。

武田 それがドジャースとしては一番痛いと思うんです。ピッチャーはある程度いますが、大谷の代わりになるバッターはなかなかいないので。そこは慎重になりますよね。

【今永が復調した理由】

――そんなドジャースに対して、8月5日(日本時間6日)の試合で勝利したのが今永昇太投手(シカゴ・カブス)。大谷選手に先頭打者ホームランを打たれながらも、5回1失点、与四球0で今季8勝目を挙げました。チームはナ・リーグ中地区2位でプレーオフ進出を目指していますが、現状をどう見ていますか?

武田 今永は昨年、左太もも裏の故障をして以来、本来のボールが投げられていなかったんです。かばいながら投げていた部分もあったと思いますし、そういう癖がついちゃったのもあるのかなと。ピッチャーは1回壊れると、そういうところがあるので。

 ただ、今永はだいぶ戻ってきています。彼がよくない時はよくホームランを打たれるんです。高めのボールで空振りを取れていたのが取れなくなって、ホームランにされていましたが、そういう場面が少なくなってきていますよね。あと、スプリットの精度も上がってきています。

――高めのフォーシームとの相乗効果で機能している?

武田 そうですね。腕がよく振れているのでバッターはフォーシームと同じ感覚で振りにいっていますが、フォーシームよりボールがこないですし、手元でちょっと沈むのでなおさら効果があるんでしょう。チェンジアップみたいな感じですね。変化が大きいわけではないのですが、低めに丁寧に投げています。高めのフォーシームでバッターの目線を上げ、同じ腕の振りでスプリットを投げるから効果的なんです。

 いずれにせよ、復調してきた一番の要因は、高めのフォーシームでまた空振りが取れるようになったこと。真っすぐがよければ、曲がり球や落ち球の精度が多少低くても抑えられるんです。今後も期待していいと思いますよ。

(中編につづく>>)

【プロフィール】

武田一浩(たけだ・かずひろ)

1965年6月22日、東京都生まれ。明大中野高を経て明治大に進み、六大学通算20勝8敗という成績で、1987年にドラフト1位で日本ハムに入団。1991年に18セーブを挙げて最優秀救援投手に輝く。その後、先発に転向して1993年には10勝をマーク。

1995年オフにトレードでダイエーに移籍。1998年に13勝で最多勝のタイトルを獲得した。同オフにFA宣言をして中日に移籍し、1999年のリーグ優勝に貢献。2002年には巨人に移り、史上3人目となる全球団からの勝利を達成した。同年限りで現役を引退。2006年の第1回WBCで投手コーチを務めた。そのほか、プロ野球、メジャーリーグ中継で解説を務めるなど幅広く活躍している。現役時代の通算成績は341試合、89勝99敗31セーブ、1008奪三振、防御率3.92。

浜田哲男●取材・文 text by Tetsuo Hamada

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