なかなか寝つけない時はどうすればいいのか。東京科学大学医学部臨床教授の加藤浩晃さんは「ベッドの中で目をつぶって無理にでも眠ろうとしがちだが、それはあまりお勧めできない。
科学的に効果が期待できる対策がある」という――。
※本稿は、加藤浩晃『疲労回復学BEST100』(総合法令)の一部を再編集したものです。
■寝る前に足湯に入ると、寝つきがよくなる
「最近、寝つきが悪い」「ベッドに入っても足が冷たくて眠れない」、そんな悩みを持っていませんか。
特別な道具も時間もかからず、家にあるものですぐ実践できる古典的な方法があります。それは「寝る前に足を温める」ことです。なんとなく気持ちよさそう、というイメージだけではなく、足を温めることが睡眠の質を改善することは、複数の臨床試験で実証されています。
2025年に発表された最新の分析では、950名の高齢者を対象とした18件の研究を統合したところ、就寝前に足湯に入ると、主観的な睡眠の質が改善することが示されました。つまり、足湯に入ったらよく眠れるようになったと感じた人が多かったのです。
特に効果があったのは、水温40度前後のお湯に10分以上足を浸し、それを1週間以上続けた場合でした。
ただ、入眠時間や睡眠段階そのものに大きな変化はありません。どうやら足湯は、客観的に見ると睡眠の量や質を劇的に変えるわけではありませんが、寝つく前のリラックス感や主観的な眠りの満足度を高める作用があるといえそうです。
■睡眠効率が7.6%改善する“快眠アイテム”
足湯を用意するほど時間がとれない夜には、ベッドソックス(寝るときに履く靴下)も同様の効果が期待できるといいます。

ソウル大学校のイェリン・コー博士とジュヨン・リー博士が2018年に発表した研究では、靴下をはいて寝た場合、はかずに寝た場合と比較して入眠までの時間が平均7.5分短縮され、総睡眠時間が約32分長くなり、睡眠効率が7.6%改善したことが報告されました。
被験者がわずか6名の若年男性という限定的な研究なので一般化には慎重を期す必要がありますが、簡単で安全に試せる選択肢として価値があるといえるでしょう。
足湯やベッドソックスがなぜ睡眠を改善するのか。その理由は体温の調整にあります。
人間が眠りに落ちるとき、深部体温が下がり、体温の変化が睡眠のシグナルになります。なかなか寝つけない人の体内ではこの温度変化が起きにくくなっています。冷え性で手足が冷たい方、緊張しやすい方は、末梢の血管が収縮して熱の放出ができていない状態にあり、深部体温が下がりにくくなっているのです。
そんな状態にあっても、足を温めると足の血管が拡張し、血液が足の先まで流れやすくなります。血流が増えると体内の熱が末梢から外へ放出されやすくなるので、足を温めることにより身体の深部の熱を冷ますことができます。
■就寝30分~1時間前が最も効果的
寝る前に足湯に入る場合は、就寝の30分~1時間前がもっとも効果的とされています。足湯で温まった体が、ちょうど寝る頃に深部体温が下がりはじめるからです。水温は40度前後で、10~20分を目安にするといいでしょう。
熱すぎると交感神経が刺激されてかえって覚醒してしまうため、ぬるめのお湯が理想です。
ベッドソックスをはく場合は、締めつけの強くない、通気性のある天然素材(綿、絹、ウールなど)を選んでください。寒い冬の夜や、エアコンが効いた涼しい寝室では特に効果が期待できます。逆に夏の暑い夜に分厚い靴下をはくと、深部体温の低下を妨げる可能性があるため、薄手のものを選ぶか、はかないでおきましょう。
注意点として、糖尿病の方や末梢神経障害がある方は、お湯の温度に対する感覚が鈍くなっていることがあります。やけどに注意しましょう。心臓病・高血圧で治療中の方は、主治医に相談してから始めることをおすすめします。
■眠れない夜は、ベッドから出たほうがいい
ベッドに入ったのに何時間も眠れなかったり、一度目が覚めるとそれからずっと眠れないという方が年々増えています。
令和6年「国民健康・栄養調査」では、日本人の成人のうち、男性の36.2%、女性の38.9%が1日の平均睡眠時間が6時間未満と報告されています。厚生労働省のホームページに掲載されている記事によると、不眠症状を持つ人は成人の3~4割と推計されており、もはや日本人にとって不眠は珍しい悩みではありません。
眠れないと、ベッドの中で目をつぶって無理にでも眠ろうとしがちです。しかし科学的には、眠れないなら、いったんベッドから出たほうが、結果的に眠れるとされています。

フライブルク大学(ドイツ)のリサ・シュタインメッツ博士らが2024年に発表した研究では、睡眠制限、刺激制御、認知療法、リラクゼーションなどのうち、不眠の重症度がもっとも改善したのは「睡眠制限療法」であり、「刺激制御療法」はそれに次ぐ効果が確認されました。
■「ベッド=眠れる場所」という認識を再構築
睡眠制限療法とは、ベッドにいる時間を実際の睡眠時間に合わせて意図的に短縮し、睡眠の質と効率を高める治療法のこと。軽い睡眠不足を意図的につくり出すことで、眠気を強め、中途覚醒や熟眠障害(眠りが浅い・眠っても疲れが取れない状態)を改善する狙いがあります。
一方、刺激制御療法とは、寝床を睡眠のための場所として再学習させ、不眠を改善する認知行動療法の一種です。眠気がないのに寝床に入る、眠れず悩むといった不眠の習慣を断ち切り、「ベッド=眠る場所」という条件づけを取り戻します。
ほかの認知療法やリラクゼーションには明確な効果が確認されませんでした。これらの結果からは、不眠への有効な対処法は行動を変えることだとわかります。特に刺激制御療法による「ベッドと睡眠の関係」を再構築する方法が、有力な選択肢の一つとなります。
ところで、なぜ眠れないときにベッドから出るといいのでしょうか。
ベッドの中で長時間眠れない状態を続けると、「ベッド=眠れない場所」「ベッド=不安・焦りの場所」という認識が脳に定着してしまいます。これが、ベッドに入った瞬間に脳が覚醒する条件反射をつくってしまうのです。
眠れないならベッドから出て、別の部屋で静かに過ごし、本当に眠くなってからベッドに戻る。
これを繰り返すことで、「ベッド=眠れる場所」という認識を再構築し、悪い認識の定着を防ぐことができるのです。

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加藤 浩晃(かとう・ひろあき)

デジタルハリウッド大学大学院 特任教授

東京科学大学医学部臨床教授、東京大学応用資本市場研究センターフェロー、アイリス株式会社共同創業者・取締役副社長CSO、THIRD CLINIC GINZA 共同経営者。著書に『休養ベスト100』『医療4.0』(ともに日経BP)、編著に『医療×起業』『デジタルヘルストレンド』(ともにメディカ出版)など多数。

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(デジタルハリウッド大学大学院 特任教授 加藤 浩晃)
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