認知症にならないためには、どんなことに気をつけたらいいか。内科医の本間良子さんは「毎日のように食べている食材が、神経や免疫のシステムを乱し、認知症や難病のリスクを高めることがある」という――。
(第5回)
※本稿は、本間良子『小麦抜きのすすめ』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■腸から毒素が漏れ出す
みなさんは、「リーキーガット」という言葉を聞いたことがありますか?
英語でガットは「腸」、リーキーは「漏れる」を意味します。つまり、日本語に訳すと「腸漏れ」。最近では、英語の情報だけでなく、日本語でも「リーキーガット症候群」とインターネットで検索すれば、多くの情報が得られる状況になってきました。
「腸漏れ」とは、腸の粘膜の細胞が傷ついて炎症を起こし、その細胞と細胞の間に隙間ができることで、腸壁(ちょうへき)にごく微細な穴があいたような状態を指します。
微細といえども、隙間は隙間。腸壁に隙間ができると、そこから腸内にいる細菌や毒素、未消化の食べものなどがどんどん「漏れ出て」しまうのです。
本来は、腸の細胞と細胞の間はしっかりと閉じられており、この状態を「タイトジャンクション」といいます。
ただ、そもそも人間は食べものから必要な栄養素を吸収しなければならないので、腸壁の細胞と細胞の間は開くようにできています。しっかりと栄養を吸収できるように、細胞と細胞の間をオープンにする働きが備わっているのです。
■腸漏れを引き起こす物質
そして、この腸壁の細胞と細胞のつなぎ目の部分をオープンにするのが、「ゾヌリン」と呼ばれる物質。ゾヌリンは、小麦を食べたときに、グルテンを構成するグリアジンによって分泌されます。

ゾヌリンが分泌されると、細胞と細胞の間が開いて、食べもの(栄養素)の吸収がよくなるため、本来はとても重要な働きを持つ物質です。
しかし、ここで小麦が問題を引き起こします。小麦を毎日食べていると、ゾヌリンが大量に分泌され、腸の細胞と細胞の間が開きっぱなしになってしまうのです。
小麦に含まれるグリアジンは、体のいたるところでエラーや炎症を引き起こす「やっかいもの」。このグリアジンが腸壁の細胞に結合して刺激し、ゾヌリンを分泌し続けるのです。
すると、どうなるでしょうか? まるで鍵をかけずにドアが開けっぱなしの家みたいに、悪い泥棒がそこから次々と入ってきてしまうような状態になります。
つまり、本来ならタイトジャンクションで守られているのに、細胞の間が開きっぱなしのため、毒素や未消化の食べものまで入ってきてしまうのです。
■腸から脳へ連鎖する「漏れ」
小麦に含まれるグリアジンによって分泌されるゾヌリンは、血流に乗って脳にいたる場合がよくあります。
でも、脳には本来「血液脳関門(のうかんもん)」と呼ばれる、脳の血管に不必要なものが入るのを防ぐためのバリアが存在します。ただし、その血液脳関門のつなぎ目にゾヌリンが作用すると、タイトジャンクションが開きやすくなってしまうのです。
つまり、小麦によって脳がダダ漏れしてしまうということ。そうして、そこから細菌や毒素などが入っていく「脳漏れ」と呼ばれる状態が引き起こされます。
私の臨床経験からすると、「腸漏れ」の症状がある人は、ほぼ漏れなく「脳漏れ」の症状が見られます。
腸の状態が悪い人は、脳の状態も悪いといえるのです。
■小麦が脳を狂わせる
小麦に含まれるグリアジンは、血液脳関門のタイトジャンクションを開いて、脳を「もれ」させるだけではありません。
小麦自体が、神経と免疫システムにエラーを起こします。
これはどういうことでしょうか? 体内には、脳細胞や、脳内の「シナプス」(※)のあいだの伝達を担う物質や、血液脳関門のバリア機能を担う細胞をはじめ、グリアジンと似た構造(アミノ酸の配列)を持つ物質がたくさん存在します。
そして、それらと似ているグリアジンがやってきた場合、見た目はちがうのに、体は似たものとして反応してしまうのです。
つまり、いつも小麦を食べていて、しかも腸内環境が乱れていると、免疫システムはグリアジンを異物ととらえて、抗体をつくりはじめます。
やがて血中の抗体が脳内に侵入すると、先のグリアジンに似た部分(脳細胞やシナプス間の伝達を担う物質)に対しても、抗体をつくって攻撃をしてしまうのです。こうして神経伝達機能を低下させていき、アルツハイマー型認知症などに関わっていくわけです。
※ニューロン(神経元)と、ニューロンとの接合部。興奮がシナプス前部線維の末端までくると、化学伝達物質が放出され、それがシナプス後部膜の膜電位(まくでんい)を変化させて興奮が伝えられる。
■脳の配線が傷つく恐怖
もうひとつ、これは少し専門的な話になりますが、小麦が神経に悪影響を及ぼし、認知症などの難病にかかる可能性を高めることが報告されています。

神経には「ミエリン」と呼ばれる、情報をスピーディーに伝達させるための絶縁体が巻かれています。これは、わかりやすくいうと、電線をビニールで巻いて、電気信号がもれないようにするのと同じようなもの。
神経も同じく電気的な信号です。このミエリンが傷ついてしまうと、電気的信号がすばやく通らなくなり、余計な部分が発火するなどして、脳にさまざまな悪影響を与えます。
そして、ミエリンもまた、グリアジンと構造が似ています。そのため、小麦が体内に入り続けると、体はグリアジンが適切な容量ではないと判断し、それに対して抗体をつくって防ごうとします。
もちろん、それ自体は正常に免疫システムが働いているということです。しかし、グリアジンとミエリンが似ているため、グリアジンを攻撃しようとした抗体は、間違ってミエリンのほうも攻撃してしまうのです。
■脳のバリアがこじ開けられる
それでも、通常は血液脳関門が脳を守っているため、抗体が神経を傷つけることはありません。
でも、もしグリアジンによって分泌されるゾヌリンが原因で血液脳関門のタイトジャンクションが開いていれば……自己抗体が侵入し、容易に神経を傷つけてしまうでしょう。
近年、アメリカでは神経系の難病が増えており、「神経免疫系(神経と免疫のシステム)」に異常が起きると、結果として難病が引き起こされると考えられるようになってきました。
認知症をはじめ、ひと昔前には病名がなかったような難病も、実は神経免疫系になんらかの変性が発生し、引き起こされると考えられています。
そして、脳や免疫システムに関する詳細な研究も進むなか、いかに「タイトジャンクションをしっかりさせるか」に着目した治療が広く行われています。
■小麦を食べ続けるとどうなるか
少し専門的な話になりましたが、これはつまり、脳や神経にとっていかに「小麦を食べないことが大切か」ということを表しているといえるでしょう。
ここまで、小麦によって引き起こされた「腸もれ」の症状が、血流に乗って脳にいたり「脳もれ」を起こすことと、脳の炎症が認知機能を低下させるケースを見てきました。
また、小麦そのものが神経と免疫のシステムを狂わせて、結果的に認知症など脳や神経の難病を引き起こすメカニズムも紹介しました。あえて手っ取り早くいえば、こういうことです。
小麦を食べ続けると認知症になりやすくなる。

*参考文献

1.グルテンフリーによる抗炎症作用、インスリン抵抗性の改善、減量効果

論文名: Gluten-free diet reduces adiposity, inflammation and insulin resistance associated with the induction of PPAR-alpha and PPAR-gamma expression

掲載誌: J Nutr Biochem 2013 Jun; 24(6):1105-11

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23253599/

2.グルテンフリー・カゼインフリーによる自閉症スコアの改善

論文名: The ScanBrit randomised, controlled, single-blind study of a gluten- and casein-free dietary intervention for children with autism spectrum disorders

掲載誌: Nutr Neurosci 2010 Apr;13(2): 87-100

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20406576/

3.グルテン関連する疾患のカテゴリー グリアジンのアミノ酸配列

論文名: Spectrum of gluten-related disorders: consensus on new nomenclature and classification

掲載誌: BMC Med. 2012 Feb 7: 10: 13

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22313950/

4.非セリアックのグルテンに関連する疾患

論文名: Non-Celiac Gluten Sensitivity: The New Frontier of Gluten Related Disorders

掲載誌: Nutrients. 2013 Sep 26; 5(10): 3839-3853

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24152744/

5.グルテン不耐症の症状など

論文名: An Italian prospective multicenter survey on patients suspected of having non-celiac gluten sensitivity

掲載誌: BMC Med. 2014 May 23: 12: 85

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24885375/

6.グルテンフリーによる免疫反応

論文名: Effect of gluten free diet on immune response to gliadin in patients with non-celiac gluten sensitivity

掲載誌: BMC Gastroenterol. 2014 Feb 13: 14: 26

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24524388/

7.グルテン関連疾患の分類およびグルテン不耐症に関する臨床症状など

論文名: Non coeliac gluten sensitivity - A new disease with gluten intolerance

著者: Grażyna Czaja-Bulsa

掲載誌: Clin Nutr 2015 Apr; 34(2):189-194

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25245857/

8.消化器症状、過敏性腸症候群とグルテン不耐症

論文名: US perspective on gluten-related diseases

掲載誌: Clin Exp Gastroenterol. 2014 Jan 24: 7: 25-37

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24493936/

9.アルツハイマー型認知症とグルテン不耐症

論文名: Diet Associated with Inflammation and Alzheimer's Disease

掲載誌: J Alzheimers Dis Rep. 2019 Nov 16; 3(1): 299-309

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31867568/

10.グルテン不耐症の症状、自己免疫疾患などの関連性

論文名: Extra-intestinal manifestations of non-celiac gluten sensitivity: An expanding paradigm

掲載誌: World J Gastroenterol. 2018 Apr 14; 24(14): 1521-1530

URL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29662290/

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本間 良子(ほんま・りょうこ)

医師、スクエアクリニック院長

米国発達障害児バイオロジカル治療学会フェロー。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大学病院総合診療内科入局。副腎疲労の夫をサポートした経験を活かし、米国で学んだ最先端医療に基づく栄養指導もおこなう。また、日本で唯一、副腎疲労、グルテンフリー外来を開設している。

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(医師、スクエアクリニック院長 本間 良子)

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