年齢を重ねても心身を健康に保つには何をするといいか。医師の和田秀樹さんは「心身にさまざまな影響が出て、一気に老化してしまうため、うつ病には気をつけなくてはいけない。
うつ病は脳内の幸せホルモンであるセロトニンが不足することで起こるが、このセロトニンを室内にいても増やすことができる1日たった5分の習慣がある」という――。
※本稿は、和田秀樹『60歳からの 世にも愉しい「ひとり時間」の過ごし方』(永岡書店)の一部を再編集したものです。
■「ぽっちゃり小太り」が最強体形
「ぽっちゃり小太りがいちばん長生き」という事実を、あなたはご存じですか?
これは世界中のさまざまなデータが示しています。
日本でも厚労省の補助金を受けて行われた大規模な調査の結果、40歳の時点で平均余命が最も長かったのは、BMI値(適正体重の指標)が25~30未満の人でした。
適正体重のBMI値は22とされていますから、要は「太り気味」の人、身長170センチの人であれば72~86キロの人が最も長生きするわけです。
重度の糖尿病など、治療のためにダイエットを必要としている人は違うかもしれませんが、ほとんどの高齢者にとって「食べすぎ」よりも「食べなさすぎ」の方が危ないというのが私の見解です。
にもかかわらず、日本ではいまだにメタボを気にして、「太ってはいけない」と思い込んでいる人がたくさんいます。
若い頃であれば多少栄養が足りなくても体力でなんとか乗り切れます。ところが、歳を取ってから栄養不足になると「フレイル」の危険性があります。
フレイルとは、体や心の元気が少しずつ弱っていく手前の状態のことで、身体的フレイル(筋力が落ちる、歩くのが遅くなる、疲れやすくなるなど)、精神・心理的フレイル(気力が出ない、もの忘れが増えるなど)、社会的フレイル(人と会いたくなくなる、外出が減るなど)といったように、さまざまな方面に悪影響を及ぼします。
ましてや歳を取ってからのダイエットなど論外です。代謝を悪くし、老化を進行させます。
体重を減らすために、炭水化物、タンパク質、脂肪などを制限すると、性ホルモンや細胞膜の材料となるコレステロールが不足して体がしぼみ、肌も弾力を失ってどんどんと老け込んでいきます。
良いことは何もありません。
BMIなどの数値を気にして食べたいものを我慢するのではなく、高齢者はどんどん食べましょう。体重維持が健康維持につながるのです。
■コレステロール値が高い人ほど免疫活性が良い
「コレステロール値は低い方がいい」と思い込んでいませんか?
たしかに狭心症や心筋梗塞はコレステロール値が高いほど起きやすくなります。けれども、「正常値とされる値よりも少し高めのほうが長生きする」という疫学的データが世界中でいくつも報告されていて、コレステロール値が高い方が免疫力は高く、がんになりにくいことがわかっています。
どういうことか? 人間の体にはNK細胞(ナチュラルキラー細胞)と呼ばれる細胞があります。免疫の最前線にいる自然免疫のエースと言うべき存在で、ウイルス感染細胞やがん細胞の素を見つけ次第、即攻撃してくれます。
そして、悪者扱いされがちなコレステロールこそが、このNK細胞の材料なのです。具体的には、NK細胞の細胞膜の材料となり、免疫細胞が標的(がん細胞のもととなる細胞)にくっつくための足場となり、免疫シグナルの伝達にも必須です。
ひと言でいえば、コレステロール値が高い人ほど免疫活性が良いのです。
■低いとあらゆる老化症状が出る
また、コレステロールは、性ホルモンの原料そのものでもあります。
男性よりも女性の方が分泌量の多いホルモンを総称して「女性ホルモン」と呼びます。代表格であるエストロゲン、プロゲステロンなどが低下すると、骨密度が下がったり、イライラ・不安が募ったり、さまざまな症状が現れます。
一方、女性よりも男性の方が分泌量の多い「男性ホルモン」(テストステロン)が低下すると、筋肉量が減り、意欲が衰え、人付き合いが億劫になります。つまり、コレステロール値が低いとあらゆる老化症状が出るのです。
特に男性は要注意。男性ホルモンが減ると、女性とは比べものにならないほど老化が進みます。
コレステロール値が低いとうつ病になりやすいというデータもあります。「コレステロール抑えめ」は意識せず、おいしいと思うものを食べてください。
■塩分・糖分は「控えすぎ」が危ない
血圧が高めの人は、医師から「塩分をなるべく控えるように」と指示されます。また、「糖質オフ」や「糖質ゼロ」のロカボ(ローカーボ)商品が市場に出回るようになり、「糖質制限は体に良い」という認識も広まっています。
その結果、「塩分や糖分はなるべく控えた方がいい」と思っている人が多いようです。
けれども、高齢者にとっては「摂りすぎ」よりも「控えすぎ」の方が心配です。

まずは、塩分について解説します。
塩分を摂りすぎると高血圧になるリスクはありますが、歳を取ると腎臓が塩分をためておく能力が落ちるため、実際のところ「摂りすぎ」という状態まではいきません。それなのに塩分を控えると、塩分不足で低ナトリウム血症を起こす可能性があります。
低ナトリウム血症は、血液中のナトリウム濃度が低下し、体内の水分とナトリウムのバランスが崩れた結果、疲労感、吐き気、頭痛から、重症化すると意識障害やけいれん、昏睡に至ることもある病態です。
次に、糖分について解説します。
糖分を控えすぎると、糖尿病になるよりも、低血糖によって体に受けるダメージのリスクの方が高まります。また、低血糖になると意識がぼんやりとして、うっかりケガをしたり、行動を起こそうという意欲が失われていったりします。
高齢者の自動車運転事故がニュースで取り沙汰されていますが、私自身は「事故の主要原因の1つは低血糖ではないか?」と疑っています。
現代医学では「糖尿病の人はアルツハイマー型の認知症になりやすい」と言われていますが、これにも異を唱えます。
私が勤めていた浴風会病院は血糖値を下げる治療を原則的に行わなかったのですが、糖尿病でない人の方が、糖尿病の人の約3倍の確率でアルツハイマー型認知症になっていたからです。
■うつ病を防ぐ、1日たった5分の習慣
認知症も、血圧、血糖値、コレステロール値もそれほど気にしなくて大丈夫ですよという立場の私ですが、「うつ病だけは気をつけましょう」とお伝えしています。心身にさまざまな影響が出て、一気に老化してしまうからです。

うつになる原因は、「心因性」と「身体因性」の2つに大別できます。
心因性は、配偶者やペットに先立たれたなど、心の拠りどころを失った状態。身体因性は、体に由来する場合で、こちらは自らの行動でなんとかできます。
そこで私がおすすめするのが、「5分日光浴」と「栄養のある食事」です。
「5分日光浴」を推奨するのは、太陽の光を浴びてほしいからです。うつ病は、セロトニンという、心と体を安定モードに整えるホルモンが不足することで起こるとされています。
1日たった5分太陽を浴びるだけで、脳内のセロトニンを増やすことができますから、「朝、カーテンを開けて朝日を浴びる」「近所を5分散歩する」など、ご自身にとってやりすい方法で日光浴をしてみてください。
■粗食は、うつ病の天敵
「栄養のある食事」に関しては、特にタンパク質を意識してください。セロトニンの材料はトリプトファンというアミノ酸ですから、タンパク質の摂取が重要なのです。私がよく目にしたのは、「夏場にあっさりした麺類ばかり食べた結果、うつ病を発症した」というケースです。
粗食は、うつ病の天敵なのです。
なお、認知症とうつ病の症状は、見分けがつきにくい面があります。
見極めのポイントは、食事と睡眠です。
●睡眠:「夜中に何度も目を覚ます」

●食事:「何を食べてもおいしくない」「食が細くなった」
といったことが両方同時に見られるようなら、うつ病の可能性があります。その場合はためらわず、精神科などで専門医に診てもらってください。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。


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(精神科医 和田 秀樹)
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