採用チャネルが多様化し、売り手市場が進むなか、「採用データは溜まっているが、どう見て、どう活かせばいいかわからない」という声が人事の現場から上がっています。
データを集めても、なぜ採用は変わらないのか。
●「集めている」のに「使えていない」。採用データの二つの落とし穴
曽和:採用データが活用できない理由は、大きく二つあると思っています。一つは、そもそも判断に必要なデータが揃っていないことです。たとえばキャリア採用の場合、自社が「こんなパーソナリティの人に来てほしい」と考えていたとして、実際にそういう方に入社いただけたのかを振り返りたいとします。それを知るには適性検査のデータが要りますが、多くの会社は適性検査を最終面接の直前に実施しているんですね。すると、途中で辞退された方やお見送りした方のデータは残らず、最後まで残った方の分しか手元にありません。
これが、後から振り返るときに効いてきます。採用がうまくいかない理由は、突き詰めると三つしかありません。
- 来てほしい人がそもそも応募してきていない
- 応募はあったが、選考の途中で辞退されてしまった
- 見極めを誤って、お見送りしてしまった
応募の段階で全員の適性検査データを取っていれば、辞退された方の中に本来来てほしかった方が何%いたか、まで見えます。でも最終面接の手前で取っていると、途中で離れた方のデータがないので、三つのどれが起きているのか判別できないんです。
もう一つは、応募から内定までにかかる日数──「いつ面接を設定し、いつ合否を伝えたか」という時間の記録です。私はこれを「スピードデータ」と呼んでいます。
対応が遅くなるとその間に、応募者は他社で内定をもらってしまいます。つまり、辞退率にかなり影響するんですね。ところが「応募から内定まで平均どれくらいですか」と聞いても、即答できる会社はほとんどありません。
森田:私の実感でも、多くの会社は「分析」ではなく「集計」で止まっているように思います。何人採用できたか、そこに至る採用プロセスの数字は、毎年シーズンの終わりに振り返って昨年と比べている。ただ、そのデータで自社の課題はどこか?と検証したり、可視化したりするところまで進んでいる会社は、多くありません。
理由は「何のために分析するのか」というゴールが定まっていないからだと思っています。私は、そのゴールは「入社した方が活躍できたか」に置くべきだと考えています。採用はゴールではなく、入社後に活躍して初めて成果と言える。しかも、採用時の見極めが正しかったかは、その人が実際に活躍したかどうかでしか検証できません。
逆に言えば、活躍を起点に振り返らないと、何を直すべきかも見えてこない。にもかかわらず「何人採用する」がゴールになっていて、その先まで見据えられている会社は稀です。
●すべては「求める人物像の定量化」から始まる
曽和:そもそも、まずは「基準づくり」が必要だと思います。判断の基準がないと、どんなデータを集めればいいのかが決まらないんですね。よくあるのは、応募者のデータは持っているのに、肝心の「自社で活躍している社員」のデータを持っていないケースです。すでに活躍している社員にも応募者と同じ適性検査を受けてもらえば、自社で成果を出す人の傾向が見えてきます。あとは応募者の集団にその傾向を持った方がどれくらいの割合でいるかを見ればいい。これで、採用がうまくいっているかを測る物差しができます。
これまで「求める人物像」づくりは、「こんな人がいいよね」と感覚で語り合って終わり、ということが多かった。ただ、せっかくデータで分析できる環境が整ってきたのですから、その感覚を分析に使える形まで定量化しておいたほうがいいですよね。「この検査でこのスコアが高い人」というように、誰が見ても同じように判断できる基準に翻訳していくわけです。
森田:基準が先にあって、はじめてデータが意味を持つ、ということですね。
曽和:基準が決まれば、集めるべきデータが決まります。
森田:そうですね。その物差しを持つために、就職白書など世に出ている市場のデータと照らし合わせる方法もあると思います。私も、各社が公開している新卒採用の調査データはよく見るので。比べることで、自社の数字が高いのか低いのか意味づけができます。
曽和:ええ。ただ、平均とズレていたら即ダメ、という単純な話でもないですよね。
以前、ある生命保険会社の採用をお手伝いしたときのことです。採用するのは2名なのに、応募が1万人も集まってしまった。普通のやり方では受験者が膨れ上がり、選考だけで現場がパンクします。
平均とのズレは「ここをチェックすべきだ」という論点を教えてくれるだけで、それ自体が良し悪しを意味するわけではありません。そのズレが意図したものか、想定外の異常か。そこを見極めて初めて、打つべき手が決まると思います。
株式会社人材研究所 代表取締役社長、Thinkings 組織再考ラボ フェロー 曽和 利光 氏
●採用は「サプライチェーンマネジメント」である
曽和:データを揃えて基準を持ったとして、もう一つ大事なことがあります。いまその瞬間の生のデータ——応募者数や選考中の人数——をそのまま眺めても、実はほとんど何もわからない、ということです。「いま応募が何人で、選考中が何人」という数字を見ても、このまま進んで採用目標を達成できるかは読み取れません。選考中の方も状態がバラバラですから。本当に必要なのは「このまま進んだらどう着地するか」を予測すること。毎日、できればリアルタイムで見られる状態にしておかないと採用のかじ取りはできません。終わってから「応募が足りなかった」と気づいても、手遅れです。
これは製造業の「サプライチェーンマネジメント」と同じ発想です。ある部品を作りすぎても、別の部品が足りなければ完成品は少ないほうの数しか作れない。いまの採用は、ちょうどそのボトルネックが見えていない状態に近いなと。
応募はたくさん来ているのに、面接へ呼び込む人手が足りず、100人応募があっても20人としか会えていない。それなのに残り80人を放置して、「応募をもっと増やそう」と新たな募集にお金をかけてしまう。本当はその80人に連絡を取るほうが先なのに。
森田:それは私も、支援する立場で痛感してきました。前職で企業の採用に伴走するRPO(採用代行)をしていたのですが、まさに「このまま進むと何人で着地します」という予測を毎週レポートしていました。全体目標に対してどこが足りないかを定期的にモニタリングして、こまめに手を打つ。これを採用担当の方が自分たちだけで回しきるのは、なかなか難しいんですよね。
曽和:そこに重なるのが、「本当に追うべき指標は何か」がわかっていないという問題です。よくあるのが内定辞退率をとても気にされるケース。
優秀な方ほど、いろいろな会社から声がかかります。そういう方に最終面接まで進んでいただいても、ほかにも内定を持っているので結果的に辞退される。これはむしろ、難しい採用に挑んだ証かもしれない。それを「辞退率が高いのはダメだ」と評価すると、現場は「内定を出せば来てくれそうな人にだけ出そう」と動きます。志望度の高さで合否を決めるようになってしまうんです。
でも、いまは企業から学生に声をかける「スカウト型」の採用が広がっています。こちらから声をかけておいて「志望度が足りない」とお見送りするのは、筋が通りません。志望動機は、選考でジャッジするものではなく、採用担当者が高めていくものなんです。
森田:そこは、システムでも支えられる部分だと思いますね。採用管理システムの良さは、誰が担当しても一定の水準を保てる仕組みをつくれることです。たとえば応募経路によって、最初のお礼メールの文面を変える。スカウトに応じてくれた方と、ご自身で求人を見て応募してくれた方とではかけるべき言葉が違います。
ほんの少しの差ですが、応募者は「自分のアクションに応えてくれているか」を見ています。こうした「誰でもできること」を仕組みに任せれば、人は人にしかできない後押しに集中できる。それだけで、数字は確実に変わります。
●意味を理解してこそ、AIも、データも活きる
森田:データの話をするうえで、やはり切り離せないのがAIだと思います。曽和:AIはデータを渡せば解析も統計処理も得意にこなしてくれますから、とてもいい道具です。ただ一つ気をつけたいのは、本来は自分でも理解できるはずの中身を飛ばして使うと、中で何が起きているか見えない「ブラックボックス」になり、かえって判断を誤らせる危険があることです。
よくあるのが、相関と因果の取り違えです。二つの数字に相関があっても、片方を上げればもう片方も動くとは限りません。けれど中身を理解しないと、「相関があるからこちらを高めよう」と動いてしまう。
たとえば「内定辞退率こそ追うべき指標だ」と思い込んだまま、それと相関する要素をAIに探させ、「志望度」が出てきたら「では志望度の低い人をお見送りしよう」となりかねない。先ほどお話ししたとおり、これはまったく逆の打ち手です。中身を理解しないまま自動化すると、間違ったことを効率よく再生産し続けることになる。だからこそ、まず人が数字の意味を理解することが先なんです。
森田:本当にそのとおりですね。逆に、意味をきちんと理解したうえで、過去の自社データを蓄積してAIに尋ねていく使い方ができれば、可能性はとても大きい。やはり、順番が大事なんだと思います。
では最後に。こうしたデータ活用を一度きりで終わらせず、組織に根づかせていくには何が大切だと思いますか。
曽和:そんなに難しく考えなくていいと思うんです。求人倍率にしても内定率の推移にしても、世の中にはいろいろな市場データが出ています。まずはそれを日々眺め続けること。たとえば財務諸表も、最初はわからなくても、見続けるうちに読めるようになる。採用の数字も同じで、見ていれば相場の感覚が育ちます。
それに「うちはできていなかった」と気づくのは、落ち込むようなことではありません。コンサルティングの現場でも、すでにできている会社のほうが、かえって伸びしろがなくて難しいくらいです。できていないところは、考え方を少し変えるだけで伸びる余地があるということ。むしろ「ラッキーだ」と捉えていただきたいくらいです。
森田:もう一つ大切なのは、データをオープンに共有することです。公開すると「あら探しをされるのでは」「ここができていないと指摘されるのでは」と身構えて、情報を閉じてしまう人事の方もいらっしゃいます。でも目に見える課題の原因は、その担当者一人の問題ではないことのほうが多いので、どんどん共有すべきだと思います。
誰が悪いという話ではなく、みんなでフラットに議論できる関係性や場をつくっていく。それこそが、データを本当に活用するということではないでしょうか。
そして、その第一歩として「自社の数字を、世の中の相場と照らし合わせてみる」ことから始めてみてほしいんです。
採用管理システムの利点の一つは、採用にまつわるデータが一気通貫で蓄積されていくこと。私たちThinkingsは、いま提供しているsonar ATS内のデータをもとに、新卒採用活動の実態を可視化し、採用担当者のみなさんの意思決定を支援するレポートを、曽和さんと一緒に作成しています。2026年秋の発行を予定していますので、ぜひご期待ください。
Thinkings株式会社 事業開発室 新規事業開発責任者、Thinkings 組織再考ラボ フェロー 森田 徹
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