女優・吉永小百合(81)が浅田次郎原作の映画「母の待つ里」(前田哲監督、小山薫堂脚本)に主演することが27日、決まった。映画出演125本目を飾る記念作で、39年ぶりの東宝作品となる。

浅田氏、前田監督とも初めてのタッグ。岩手・遠野を中心に5月から撮影は始まっており、今冬クランクアップ。来秋公開の予定だ。

 吉永が39年ぶりに東宝に帰ってくる。映画出演100本目となった「つる―鶴」(88年、市川崑監督)以降、東映と松竹が配給の大半を占めたが、125本目の節目を東宝で迎える。「15歳で映画俳優になり、幸運に恵まれて今日まで歩いてきました」とコメントにも感謝を込める。

 「母の待つ里」は、都会で孤独、喪失感を抱えてそれぞれ暮らす3人の“子供”が田舎に住む“母”を訪ねる家族小説。映画化は最初、吉永のスケジュールが合わず、実現不可能とみられた。しかし、製作サイドの粘り強いやり取りが実った。

 吉永は主人公・ちよを演じる。初の浅田作品に「嬉しくて舞い上がっています」と興奮気味。「ちよさんに憧れましたが、一度お断りしました。

その時、プロデューサーが『待つ』と。嬉しかった。改めて台本を読み、出演を決めました」といきさつを明かす。役に関しては「前田監督の若々しいエネルギーをしっかり受け止め“心の母”をひたむきに演じたい。力を尽くします」としている。

 前田監督は「九十歳。何がめでたい」(24年、草笛光子主演)などで知られる。初顔合わせだが、大女優相手にも妥協しない演出に定評がある。「ご一緒して感じたのは、吉永小百合さんは心の中にいつも他者へのギフトを持っておられる方」とコメント。これが役にも生きているという。

 ミステリーファンタジー的な要素も濃く、浅田小説の中でも異色の作品。浅田氏は吉永主演への思い入れも強い。

代表作「鉄道員」(99年、東映配給)の高倉健さん主演での映画化も振り返りつつ、「昭和の時代に生まれ育ったひとりの小説家として望外の幸せ」といい、「ちよさんは私たちにとって、虚も実もない、あらたかな自然そのもの」と話す。

 岩手・遠野を中心に移りゆく四季も追って撮影。来秋の公開に向け、すでに春夏は撮り終えており、秋冬を残す。ちよが発する方言の味わいも注目される。

2024年、宮本信子主演でドラマ

 〇…「母の待つ里」は24年にNHKでドラマ化されている。ちよを宮本信子、3人の“子供”たちを中井貴一松嶋菜々子佐々木蔵之介が演じた。第15回「衛星放送協会オリジナル番組アワード」でグランプリを受賞した。関係者は「映画は作品全体の世界観もかなり違うものになる。期待してもらいたい」と自信を見せている。

脚本は「おくりびと」の小山薫堂氏

 〇…脚本は米アカデミー賞外国語映画賞を受賞(08年)した「おくりびと」も担当した小山薫堂氏。「原作は敬愛する浅田次郎先生、主演はまさかの吉永小百合さん! この作品は都内の暮らしに疲れた大人たちを癒やす現代のおとぎ話」といい、「夢のような座組で映画に携われること自体が、自分にとっての一番のおとぎ話です」と話している。

久々の東宝で「新たな流れ」生まれること期待【プラスα】

 久々だからといって今回配給の東宝と吉永は没交渉だったわけではない。

映画界には成就せずに終わる企画はたくさんある。巡り合わせ、タイミング、本人の思いが複雑に絡み合う。岡田裕介氏(20年死去、享年71)、高井英幸氏(85)がそれぞれ、東映と東宝の社長になるのは同じ2002年のことだった。

 高井氏は吉永が出演した「細雪」(83年)に携わっていた。これから両社による吉永作品の“量産”を想像したが、そうはならなかった。高井氏が社長時代の後半、東宝で吉永作品が遠のいている背景を問うと「それを聞かれるのが私自身つらい」と返ってきた。さまざまな理由があるのだと察した。

 吉永にとって、浅田氏との初タッグだけではなく、製作、宣伝に至るまで初顔合わせの人ばかりだろう。そこに思い切って飛び込んだことをたたえたい。撮影現場で生まれた新鮮で濃密な「気の流れ」が、作品に良い影響を及ぼすと信じたい。(内野 小百美)

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