人口減少や価格上昇が進む国内清涼飲料市場を、まだ伸ばせる市場と見るトップがいる。
今年3月にサントリービバレッジ&フード(サントリーB&F)の社長に就任した木村穣介氏だ。
木村社長は国内清涼飲料市場について、「伸ばせない理由はいくらでも言える」としたうえで、「創意工夫をすれば、ちゃんと伸ばせるカテゴリー、市場だ」と語る。重視するのは、値上げによる金額成長だけではない。「会社だから金額は大事だが、一番はお客様との接点である数量」とし、「数量から逃げない」攻めの姿勢を示した。
木村社長は1983年にサントリーへ入社した。大阪大学基礎工学部卒の理系出身で、最初に携わったのはウイスキーの製造プロセス開発だった。蒸留条件や蒸留釜の形を変えることで酒質がどう変わるかを、当時出始めたコンピューターでシミュレーションしたという。
ウイスキーは蒸留後、長期熟成を経なければ品質を評価できない。木村社長は「いろいろな条件でつくり、12年後に官能評価をしていたら、人生で数回しか実験できない」と振り返る。
そのため、蒸留釜の中で起きる成分の動きを解析し、重いタイプ、軽いタイプなど、多様な原酒づくりにつなげた。この成果は、山崎蒸溜所の設備改修にも生かされた。
この「条件を見極め、仮説を立て、今ある道具で可能性を広げる」という研究開発出身者らしい視点は、現在の市場認識にも通じている。
■ 会社だから金額は大事だが、一番は数量
国内清涼飲料市場について、木村社長は「容器も中味も進化の歴史だ」と見る。瓶から缶、PETボトル、大容量、紙パックへと容器は広がり、機能性やおいしさも進化してきた。人口減少などの課題はあるものの、「創意工夫が制限されているわけではない」とし、メーカーが意思を持って新たな価値をつくり続けることが重要だと強調した。
重視するのは、金額成長だけではなく数量成長である。価格上昇により販売金額が伸びても、販売数量が減っていれば、生活者との接点は細っていく。木村社長は「会社だから金額は大事だが、一番は数量」とし、「一人でも多くのお客様に、一回でも多く、私たちが自信をもってつくった商品やブランドを味わってきただき、少しでも幸せな気持ちになっていただくのが仕事」と語った。
飲料事業の原体験として、自身の子どもが幼いころ、遊び回った後にジュースを飲む姿を見た経験を挙げる。飲料は百数十円で買える身近な商品だが、喉を潤すだけでなく、飲む本人や周囲の人の気持ちを楽しくする力があると感じたという。木村社長は「これが我々の考える生活文化の創造」とし、数量成長にこだわる理由を説明した。
■ すべての市場で戦うのではなく、価値を発揮できる領域を見極める
国内事業では、「勝ち筋を磨き直し、市場変化を先読みする」方針を掲げる。市場シェアについても、「25%で守りという意味が分からない」と述べ、守りの経営ではなく、戦うべき領域を明確にして攻める考えを示した。一方で、すべての市場で戦うのではなく、自社が価値を発揮できる領域を見極めることが重要だとする。
ブランド育成では、自身の経験から「ザ・プレミアム・モルツ」の「神泡」プロジェクトに触れた。当初は「泡はビールの本質価値ではない」との意見もあったが、生活者にまず興味を持ってもらうため、見た目で価値を伝えることを重視した。
木村社長は「飲んだことがない人に、いくらおいしいと言っても飲まない」とし、思い込みを排して商品価値を伝え切ることの重要性を強調した。
新価値創造については、既存ブランドの革新と新ブランド・新商品の開発を両輪で進める。「コアブランドは強い。考えるべきはコアブランドのイノベーション」としながらも、既存ブランドだけでは対応できない価値については、新たなブランドや商品で挑戦する必要があるとした。成熟市場では飲料業界だけの発想に限界があり、他業界や外部企業との連携も進める考えだ。
■ 長年の信頼に基づくチャネル「自動販売機」の価値
自動販売機事業については、「今後もなくならないし、なくしてはいけない」と位置づける。木村社長は、自販機の価値を単なる販売機能ではなく、長年の信頼に基づくチャネルだと見る。
オフィスの中に外部の人が自然に入れるケースは限られるが、自販機オペレーターは長年の関係性によって入ることができる。その信頼こそが、自販機事業の基盤だとした。
今後は、通信機能などを備えた自販機の高度化に加え、オフィスや工場での水分補給、熱中症対策など、社会課題への対応でも役割を広げる。木村社長は、自販機を「自分たちのチャネル」とし、サントリープラスなどのサービスとも組み合わせながら、さらに進化できる余地があるとみている。
■ 現場の「やらせてくんなはれ」を経営が後押し
人材面では、サントリーの強みとして、変化を前向きに捉える企業文化を挙げた。「やってみなはれ」という言葉については、その前提に「やらせてくんなはれ」という現場の思いがあると説明する。現場が考え抜いて挑戦したいと声を上げ、経営が背中を押す。
人材育成では、ジョブ型にも合理性があるとしながら、同社はメンバーシップ型を基本に据える。さまざまな仕事を経験し、専門性を組み合わせることで価値を生み出す人材を育てる考えだ。
木村社長自身も研究開発、マーケティング、営業、サプライチェーンと異なる領域を経験してきた。「多くの仕事は努力すれば身に付く」とし、経験を次の仕事に生かす重要性を語った。
■ インフレと資源制約を分けて考える
サステナビリティやコスト上昇については、「インフレ」と「資源制約」を分けて考える必要があるとした。物価上昇と賃金上昇を伴う「インフレ」は社会全体で受け止めるべきものとする一方、コーヒー豆や茶葉など、「資源制約」に起因する原材料高は全員の創意工夫で取り組むべき問題だと指摘する。
木村社長は、「資源制約」に対しては、代替原料の活用や技術開発、商品設計、売り方の工夫など、バリューチェーン全体で対応する必要があるとする。「仕方がない」と諦めるのではなく、調達、商品開発、技術、営業、販促が一体となって乗り越えることが競争力につながるとの考えを示した。
■ 海外事業は双方向で学び合う
海外事業については、日本を「バリエーションの先進国」と表現する。日本には多様な容器、味わい、機能性の商品がそろい、その商品開発力は強みである。一方、海外では砂糖税導入や健康意識の高まりなど、日本とは異なる変化も先行している。木村社長は、日本から海外へ一方的に展開するのではなく、各国の市場や生活者の変化を捉え、双方向で学び合うことが重要だとした。
AIについては、「電動工具」に例える。
■ 見たくない現実を見て、それが何を意味するかを洞察する
木村社長は、古代ローマの政治家ユリウス・カエサルの言葉とされる「人は自ら欲する現実しか見ない」という言葉を大切にしている。見たい現実だけを見るのではなく、見たくない現実を見て、それが何を意味するかを洞察することが知性だとする。
人口減少や原材料高、価格上昇は避けて通れない現実である。しかし、そこで市場縮小を前提にするのではなく、何を変えれば生活者との接点を増やせるのかを考える。研究開発からキャリアを始めた木村社長の経営観は、そうした姿勢に表れている。
こうした経営観の背景には、同氏が歩んできた多彩な現場経験がある。1992年に飲料事業へ移って以降、サントリーフーズ広域営業本部長、「ザ・プレミアム・モルツ」のマーケティング、SBFジャパンCEO、そしてホールディングスのSCM部門統括を歴任。「研究からサプライチェーンまで」を横断した異色のキャリアが、現在の経営判断の土台になっている。
研究開発出身のトップとして、木村社長は市場を悲観的に見るのではなく、条件を見極め、仮説を立て、創意工夫で可能性を広げる。









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