「衛生兵!」
銃弾が飛び交う戦場で兵士が倒れ、仲間が必死に衛生兵を呼ぶ。戦争映画ではよく描かれるシーンです。
現在の戦場では、上空に偵察ドローンが常時飛び交い、発見された目標にはFPV(一人称視点)自爆ドローンが突入してきます。救護活動自体が二次被害を招く危険が極めて高くなっています。
こうした環境下で急速に存在感を増しているのが、無人地上車(UGV)です。FPVドローンが敵を攻撃するための無人化技術だとすれば、UGVは味方の命を救うための無人化技術といえるかもしれません。その象徴的な事例として、ウクライナ軍が公表した「マクシム救出作戦」があります。
ドネツク州の前線で、マクシムという兵士が地雷によって重傷を負いました。上空から敵ドローンが監視する地域で孤立し、動くこともできません。部隊の仲間1人が彼の救護と護衛のために残りましたが、敵ドローンをかいくぐって周辺から水や食料をかき集めるのが精一杯です。救出は困難に見えましたが、ウクライナ軍第1独立医療大隊は彼らを見捨てませんでした。
潜伏場所の位置情報は共有され、ドローンによって食料や医薬品が投下されます。
しかし送られた救出用UGVは、地雷やFPVドローンによって次々と破壊されていきます。6回失敗し、7回目でようやくUGVはマクシムが潜む廃墟に到達します。夜間にマクシムは患者用装甲カプセルに収容され、後方へ向けて搬送が始まります。しかし、脱出行も決して安全なものではありませんでした。移動中に車両は爆発に見舞われています。
「2回の爆発を感じました。1回目は車両の近くで、2回目は地雷を踏んだようでしたが、車両はそのまま進み続けました」
「途中で車両が破壊されて停止し、取り残されるのではないかと恐れていました」
「疲れを感じ始めました。エンジンのせいで車内は信じられないほど暑かったんです。無線からは『まだ先が長い、まだ先が長い』という声が聞こえていました。とにかく早く着いてくれと祈り続けました」
マクシムはこのように搬送時のことを振り返ります。
UGVは約40kmの距離を5時間58分かけて走破し、ついに後方の野戦病院に到着しました。UGVは4輪のうち1輪を失っていたといいます。使用されたのは「Maul UGV」の最新型です。
電動ではなくガソリンエンジンで駆動するのが特徴。電動が最高35km/h程度なのに対し、ガソリンエンジン式は70km/hになります。高速の方が生存性が高いという戦訓から、ガソリンエンジンを採用しているそうです。もっともこの作戦のように実際の救出行では地雷や敵ドローンを警戒しながらの走行であり、平均速度は約6.7km/hに過ぎないのですが、瞬発力は必要です。
地上は空中と違い、建物や樹木、起伏などの障害物が多く存在します。通信も途切れやすく、遠隔操縦は決して容易ではありません。そのため、敵と交戦する突発的で複雑な判断が要求される最前線の戦闘任務よりも、比較的定型化した補給や輸送といった支援任務の方が運用しやすいのです。
「Maul UGV」には光ファイバー通信回線、低軌道衛星インターネット、LTE、Wi-Fiなど通信チャンネルが複数用意され、相互にバックアップします。
ウクライナ戦争では、ドローン(無人機)といえばFPV自爆ドローンなどの攻撃兵器が注目されがちです。一方で物流業界のいう「ラストマイル」に相当する区間の前線から10~15km程度の範囲は特に危険な地域とされ、救護や補給などの後方支援任務は急速にUGVに置き換えられています。ウクライナ戦線では実際、2026年4月にはUGVによる物資輸送任務が1万回を超えたとも報じられており、戦場の無人化は急速に進んでいます。
戦場では今も「衛生兵!」という叫びが響いているはずです。それに応えるのは、もはや人間とは限りません。負傷兵の前に現れるUGVは、冷たい機械ではなく帰還への希望を乗せた「機械の天使」として映っているかもしれません。無人機に攻撃され、無人機に助けられる。でも戦闘を最終的に決するのは地面に足を着けている生身の兵士です。戦場の主役がロボットになっているように見えますが、その意味を与えているのはやはり人間です。

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