電子書籍が普及するなか、紙の書籍を主体に手掛ける老舗出版社を中心に、「出版業」の倒産(負債1,000万円以上)が急増している。
 2026年1-7月の「出版業」の倒産は21件(前年同期比90.9%増)で、2019年同期の21件以来、7年ぶりに20件を超えた。

現在のペースをたどると、年間では2011年の41件を抜く可能性がある。
 出版業は厳しい業績が続いている。東京商工リサーチ(TSR)の企業データベース(約440万社)よると、2025年度(2025年4月期~2026年3月期)を最新期とする5期連続で売上高・利益が比較可能な648社の売上高は1兆3,000億円超で概ね横ばいだが、最終利益は2021年度の1,127億円から最新期の2025年度には655億円と、4期で41.8%減少した。

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出版業の倒産急増、利益も悪化傾向 ~ 存続に向けた書店との直取引、目指す姿と課題 ~
出版業の業績推移

本の街から漏れる悲鳴

 学生や研究者が集まり、専門書や洋書を扱う書店が多く誕生した「神保町(千代田区)」。学生や研究者が集まる過程で、古書店などの書籍小売だけでなく、出版社や印刷業者も集まった。しかし、この地域の多くの出版社に苦境が押し寄せている。神保町エリアを回る金融機関の担当者は「出版社の多くから、経営が苦しいと相談される」と漏らす。背景は、「紙の価格や製本の外注費が高騰しているほか、この地域の老舗出版社は電子書籍での販売を行わない企業も多く、電子書籍の台頭による需要減の影響もある」(前出の担当者)という。
 さらに、「業績が低迷するなかで少しでも資金繰りを改善するため、取次からの回収サイトをなるべく短期にしたいが、大手による寡占状態にあるため、声をあげるのは困難だ」(同)という。

取次も直面する現実

 取次にも逆風が吹く。紙の書籍市場の縮小に加え、燃料費や人件費(ドライバーなど)高騰による輸送費上昇が採算を直撃する。
 そのため、取次各社は業界内における協業や物流拠点の再編による輸送の効率化などの構造改革を進めている。しかし、物価高が続き、構造改革によるコスト削減がコストの増加分を賄うには時間を要している。こうしたなか、出版社に輸送費の負担増を求める動きもある。

逆に出版社は取次から早期サイトでの回収を希望している。外部環境が大きく変化するなか、両者とも商慣習の見直しを探る。

出版社と書店の直取引

 こうした状況を打開すべく、出版社と書店が取次を介さず直接取引する試みが立ち上がった。主導するのは、2023年10月に設立された(株)ブックセラーズ&カンパニー(TSRコード:698991788、以下BS&Co.)だ。紀伊國屋書店新宿本店の入居ビルに本社を置き、(株)紀伊國屋書店(TSRコード:290039118)、「蔦屋書店」などのカルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)(TSRコード:293774102)、さらに取次大手の日本出版販売(株)(TSRコード:130976210)が株主として名を連ね、出版社・書店の直取引契約の仲介、出版社と直取引を行う書店の仕入代行、書店の販促支援などを手がけている。
 2026年6月17日、BS&Co.に加え、直取引の拡大を目指す書店運営企業など15社は、書籍流通の合理化に向けた共同声明を発表した。
 共同声明では、目指すビジョンとして「高利益商材、ロングセラー商品を中心に直取引の拡大」「出版社と書店の協働での販促プロモーションの推進」「仕入、販売、在庫のデータを分析する共通基盤の機能強化と、直取引拡大を目指す書店・出版社への基盤の提供」「書店の自助による物流合理化の推進」などを掲げた。
 2028年3月までに「契約出版社の既存店売上を直取引開始前の2024年度から10%以上の成長」「仕入抑制や過剰在庫を発生させずに参加書店の平均返品率を20%に削減」「書籍仕入の5割を直仕入に切り替えて書籍販売における粗利率30%の実現」を目指している。

取次が直取引の枠組みに参画

 直取引を主導するBS&Co.には、取次大手の日本出版販売も出資する。日本出版販売の担当者はTSRの取材に対し、取次として直取引の枠組みに参画する意義について、次のように説明する。


 昨今、出版流通を取り巻く環境が大きく変化するなか、持続的な出版流通を維持するには、従来の流通スキームだけでなく、多様な流通の選択肢が必要。出版社と書店の直取引は、その選択肢の1つと考え参画した。ドイツなど海外の直取引では、書店が主体となって仕入数を決定し、それに基づいて出版社が生産を行っているが、このモデルを日本でも実現したい。ただし直取引では、請求・精算や物流に関する業務が煩雑になりやすく、取次として保有する、システムなどの関連インフラを利活用することで、円滑な直取引を促進できる。


 また、BS&Co.の担当者はTSRの取材に、「直取引を促進すれば、これまで取次が担っていた業務を出版社や書店が自社で行わざるを得なくなり、受発注や物流、在庫管理などの業務負担が増える」と課題について説明する。共同声明でも掲げられた、複数の出版社・書店が共通して利用できるシステムやデータ基盤を整備していくなかで、取次は流通に関するノウハウを直取引に提供するという新たなビジネスモデルを模索しているのかもしれない。

小規模の出版社での直取引

 現時点では、BS&Co.が主導する直取引に参画するのは大手を中心に、中堅以上の出版社・書店にとどまっている。共同声明では「高利益商材、ロングセラー商品を中心に直取引の拡大」が掲げられたが、中堅以上と比較してそうした書籍が少ない小規模の出版社にも直取引は普及するだろうか。
 この点についてBS&Co.の担当者は、次のように説明する。


 小規模の出版社が多数の書店と直接取引するには、中堅以上の出版社と比較して受注・出荷・請求・物流などの負担が大きくなる。だからこそ、BS&Co.が出版社と書店の間に入り、共通の仕組みを提供する意義があると考えている。現時点では限られたリソースの中で運営しているため、直ちに対象を大きく拡大することは難しいが、今後、受発注や物流などの共通基盤を整備し、規模を問わず出版社や書店が参画しやすい環境を整えていきたい。将来的には、独立系書店や地域書店も含めた、より開かれた仕組みにしていくことを目指している。


 小規模の出版社は、中堅以上が扱わないニッチなテーマを題材とし、特定の客層に基盤を有しているケースもある。以前は特定の顧客への販売で成り立っていたが、電子書籍の競合はこうした分野も浸食し始めているほか、近年の円安・物価高局面で原材料価格の高騰分を販売価格に転嫁するのが困難な状況が続く。
 直取引が普及すれば、これまでよりも柔軟に価格転嫁や販売数量などが交渉可能になる可能性もある。

逆に負担が増す恐れもあり、効果的な仕組み作りも必要だ。
 BS&Co.の担当者は、直取引の推進について「出版業界は、書店減少や市場縮小、物流コスト上昇など、大きな転換点を迎えている。こうしたなか、直取引は誰かに負担を押し付けるのではなく、直取引と従来の取引を適切に組み合わせ、返品や物流の無駄を減らしながら、書店が多様な出版物を扱い続けられる構造をつくり、書店の収益性の改善とビジネスの持続可能性を高めるための取り組みだ」と説明する。
 出版物の流通改革は避けて通れない。出版社、取次、書店のそれぞれの経営改善につながり、業界全体の浮上のきっかけになるか、注目が集まっている。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2026年9月4日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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