木村和司伝説~プロ第1号の本性
連載◆第20回:川勝良一評(2)
JSL(日本サッカーリーグ)の日産自動車、Jリーグ発足後の横浜マリノス(現横浜F・マリノス)で活躍し、日本代表の攻撃の柱としても輝かしい実績を残してきた木村和司氏。ここでは、そんな稀代のプレーヤーにスポットを当て、その秀逸さ、知られざる素顔に迫っていく――。
第19回◆わがままを自認する川勝良一が「初めて見る人種だった」と唖然>>
川勝良一はユース代表、あるいは全日本学生選抜などの合宿や遠征を通じて、文字どおり、木村和司とは同じ釜の飯を食う間柄となった。
そんな川勝が、今でも強く印象に残っているのは、当時の合宿で「朝からもう相当な量の練習をやらされた」こと。そして、「和司は『ワシゃ、もう帰りたい』ばっかり言ってた」ことだ。
「アイツ、日本を離れるのが嫌いなんですよ。海外遠征に行く日から『もう帰りたい』とか言ってて、『おまえは子どもか!』みたいな(笑)。
それに和司は好き嫌いも多いんで、東南アジアとかへ行くと、『ワシゃ、これ食えん』ってことが多かった。まあ確かに、オレもあんまり食ってなかったけど、アイツはそれ以上に食わない。持参したカップ麺なんかを食ってましたね。
まだ(遠征地に)着いたばかりなのに、『あと何日か......』って数えて、会いたいからって今の奥さんに電話したり、まあ、そういうかわいいところもあるんですよ。だから、同じ部屋になると、『コーラ買ってこい!』って言われるし、『はぁ?』みたいな感じにはなるけど、個人的には仲がいいっていうか、アイツのことは好きだったし、気が合ったしね」
ただし、それは同級生のふたりの間だから成立していた関係だったのかもしれない。川勝いわく、「年下の選手からは、たぶん一目置かれてるけども、逆にちょっと怖がられてるっていうか......」という面もあったようだ。
「広島弁でズケズケ言うからね(笑)。
やっぱりサッカーは、うまいヤツが一番――。
それを木村がピッチ上で証明したのが、1977年に旧ユーゴスラビアのリエカ(現クロアチア)で開かれた国際ユーストーナメントでのことである。
「対戦相手はみんな、体がデカいプロ予備軍でしたけど、和司はそれをもうチンチンに抜いて、きれいにクロスを上げてた。だから、とりあえず和司にボールを渡しとけば、必ずゴール前にボールが入ってくる、みたいな感じでした」
当時の日本サッカーは、まだまだ発展途上。川勝の表現を借りれば、「できたり、できなかったりというヤツのほうが多かった時代」である。ウイングの選手にしても、「足が速いだけのヤツはいっぱいいた」。
だが、「和司はそうではなかったよね」。川勝が続ける。
「昔、ユーゴスラビアにドラガン・ジャイッチっていうスーパースターがいて、その選手が左ウイングだったんで、現地ではウインガーがすごく人気があったんですよ。当時の和司は右ウイングで、アイツがボールを持つと小さいのがちょこちょこ抜いていくので、スタジアムもかなり盛り上がりました」
そのときの木村の背番号は16番。小さなドリブラーがボールを持つたび、スタンドは沸き上がり、あちらこちらから「シックスティーン!」の声がかかったという。
「和司は、日本の選手のなかでもちっちゃかったけど、あの遠征では一番評価が高かったと思うんで。そのプレーは、当時からものすごく新鮮だったし、ちょっと他とは違いがありました」
同じチームで中盤を務めていた川勝にしてみれば、体の大きな強敵を相手にしたとき、「パスを出しても、(ボールを)取られそうな人にはあんまり出したくないっていう発想はありました」。実際、「パスを出しても『誰かサポートに来てほしい』みたいな雰囲気を出す人が、ユース代表でもいましたからね」。
川勝が、「でも」とつないで続ける。
「和司はまったく逆で、『(パスを自分に)出せ、出せ』って。それでボールを渡すと、独特の間合いで抜いていくし、クロスやシュートまで当然持っていく。あんまりサポートを必要としないウインガーで、ひとりで勝負できましたね。そういう完全な形を持っていて、それはヨーロッパでも通用していました」
(文中敬称略/つづく)
木村和司(きむら・かずし)
1958年7月19日生まれ。広島県出身。広島工業高→明治大を経て、1981年にJSL(日本サッカーリーグ)の日産自動車(横浜F・マリノスの前身)入り。チームの主軸として数々のタイトル獲得に貢献した。その間、日本代表でも「10番」を背負って活躍。
川勝良一(かわかつ・りょういち)
1958年4月5日生まれ。京都府出身。京都商業高(現京都先端科学大附高)を経て、法政大に入学。卓越したテクニックを誇り、大学在学時に日本代表に選出された。大学卒業後、1981年にJSLの東芝(北海道コンサドーレ札幌の前身)入り。1983年に読売クラブに移籍。

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