ジーコインタビュー(前編)

 参加48チーム、全104試合、大会期間39日。史上最大規模のワールドカップが幕を閉じた。

その長く巨大な舞台で、日本サッカーは確かな爪痕を残した。多くの人がその戦いぶりを称賛し、「もっと日本のサッカーを見ていたかった」と敗退を惜しんだ。日本は見る者の心を動かすサッカーを見せた。

 しかし、日本が目標に掲げてきた「新しい景色」を見ることはできなかったのも事実である。日本サッカーはいま、世界のどこにあるのか。そして「あと一歩」を超えるためには何が必要なのか。いまこそその現在地を冷静に見つめる必要がある。

 それを語るのに、ジーコ以上にふさわしい人物はいないだろう。世界トップクラスのサッカー人であり、長年にわたり日本サッカーの歩みを見つめ、その発展に深くかかわってきた人物だからだ。

 今大会の日本をジーコはどう見たのか。率直な評価を尋ねた。

【ワールドカップ】ジーコが語る日本代表2026 「チームワー...の画像はこちら >>
「日本代表はこの数年で本当に大きく成長した。
それは誰が見ても明らかだし、私はその進歩を強く感じている。世界の強豪を相手にしても、自分たちのサッカーを堂々と表現できるようになった。以前なら難しかった相手にも互角に渡り合い、決勝トーナメント進出も特別なことではなくなった。だから私は、日本サッカーは間違いなく正しい方向へ進んでいると思っている」

 成長を認める一方で、ジーコは日本が長く抱えてきた課題にも目を向ける。それは、大舞台で勝利を手にしかけながら、最後の一線を越えられないことだ。

「日本には昔から変わらない課題がある。それは、あと一歩のところで勝利を逃してしまうことだ。2018年のベルギー戦もそうだった。日本には試合を決められるチャンスがあったにもかかわらず、それを生かしきれなかった。2022年のクロアチア戦はPK戦で敗れた。日本の選手のキックを見た時、『ワールドカップではPKが勝敗を左右することも多いのに、その準備を十分にしてこなかったのだろうか』とさえ感じた。そして今回の2026年大会でも、似たようなことを感じた」

【ブラジル相手に最もやってはいけないこと】

 なかでもジーコが問題視したのは、ブラジル戦の後半に見せた日本の変化だった。

「ブラジル戦、日本は本当にすばらしい試合をしていた。

組織だった守備、テンポのいい攻撃、そして先制点。内容を見ても、日本は自信を持ってプレーできていた。ところが後半になると、それまでとはまったく違うチームになってしまった。必要以上に自陣へ引き、ブラジルにボールを持たせ、自由を与えてしまったんだ。ブラジルのような相手に、それは最もやってはいけないことだ。

 ブラジルは前を向いてプレーできれば、必ずリズムをつかむ。そうすれば日本は苦しくなる。日本がやるべきだったのは、最後までブラジルがプレーしにくい状況を作り続けることだった。

 もちろん、森保一監督やスタッフには考えがあったはずだ。人数をかけて守り、カウンターから勝負を決めようと考えたのだろう。しかし現実には、ブラジルは日本にそのカウンターすら許さなかった。実は、この傾向はブラジル戦だけではない。

スウェーデン戦でも終盤になると、日本は同じように守備へ重心を移し、あと少しで勝利を逃しかけていた。現代サッカーでは、守り続けるだけで勝ちきるのは簡単ではない」

 日本はなぜ、それまで貫いてきた攻撃的な姿勢を手放してしまったのか。ジーコが惜しんだのは、単に守備的になったことではなかった。

「何より私が一番残念に感じたのは、日本が試合の途中で大きく自分たちのスタイルを変えてしまったことだ。前半は高い位置からプレッシャーをかけ、速くボールを動かし、自分たちから試合を支配していたチームが、後半になると守ることだけを考えるチームになってしまった。私は、その変化がとても残念だった。

 日本は大会を通して、魅力的なサッカーを見せていた。選手同士がよく連係し、全員が最後まで走り、体を張り、ゴールを目指して戦っていた。相手にとって非常に危険なチームだったし、戦術の引き出しも多かった。特に私が一番評価した点は、日本が常に勝つためのサッカーをしようとしていたことだ。時間を使うためではなく、ゴールを奪うためにプレーしていた。

 だからこそブラジル戦は、それまで積み上げてきた日本らしさが消えてしまったように感じた。

私は、日本は試合開始から終了まで、自分たちのサッカーを貫くべきだと思っている。もちろん状況によって戦い方を変えることは必要だ。しかし、これは哲学の問題だ。ひとつの試合のなかで、自分たちの哲学まで変えてしまってはいけない」

【必要なのは「世界を変える才能」】

 では、日本がその「あと一歩」を超えるためには何が必要なのか。ジーコの答えは明確だった。

「日本が世界の頂点へ進むためにはどうしても必要なものがある。それは、試合を決められる特別な選手だ。強いリーダーシップを持ち、ひとりで試合の流れを変えられる選手。苦しい時間帯でも、『彼なら何とかしてくれる』と、仲間もサポーターも信じられる存在だ。

 これまでワールドカップを制した国には、必ずそういう選手がいた。今のアルゼンチンにはリオネル・メッシ、フランスにはキリアン・エムバペ、かつてのブラジルにはロナウドやロナウジーニョがいた。チームワークだけで世界一になった国はひとつもない。

 もちろん、日本にも優秀な選手は数多くいる。

技術も高く、戦術理解もすばらしい。しかし、世界の頂点に立つには、そのうえに『世界を変える才能』が必要なのだ。日本にはそういう選手を育てる環境も、人材も十分にあると信じている。だから悲観する必要はない。今、日本が積み重ねているものは決して間違っていないのだから」

 特別な才能の持ち主がまだ現れていないからといって、日本の歩みそのものを否定する必要はないということだろう。一方、日本が決勝トーナメントで勝てない理由を、「勝者のメンタリティの欠如」に求める見方にも、ジーコは異を唱える。

「私はその考えには賛成できない。むしろ、この数年間の日本代表を見れば、日本は確実に勝者の意識を身につけ始めている。ワールドカップ予選では安定して結果を残し、本番では世界の強豪国とも堂々と渡り合えるようになった。今では海外の監督や選手、メディアも、日本代表を軽く見ることはない。『日本相手なら楽勝』などと思う者はいない。いや、逆に『できれば当たりたくないチーム』かもしれない。

日本はすでに世界中から尊敬されるチームになっている。

 私は、日本に勝者のメンタリティがないとは思わない。まだチームが完成の域に達していないだけだ。サッカーの成長には時間がかかる。国の文化も、サッカーの文化も、一夜にして変わるものではない。今トップにいる国だって、一気にその地位にたどり着いたわけではない。だから焦る必要はない。日本は着実に経験を積み重ね、そのたびに強くなっている。その歩みを止める必要はまったくない」

【「森保監督の功績は大」】

 日本は勝つことを求められるチームになった。だからいま問われているのは、これまでの積み重ねを手放すことではなく、その先へどう進むかだ。その意味でも、ジーコは森保監督が築いてきたものを高く評価するという。

「この8年間、日本代表は一貫した考え方のもとでチームづくりを続けてきた。目先の結果だけに左右されることなく、日本サッカー全体の成長を考えながら、代表を強化してきた。それは決して簡単なことではないと思う。監督という仕事は、勝てば称賛され、負ければ批判される。それでも森保監督は、自分の哲学を持ち続け、日本代表を世界と互角に戦えるチームへと育て上げた。私は、その功績は非常に大きいと思っている。今の日本は、組織的で、スピードがあり、規律があり、誰が出場しても同じレベルのサッカーができる。それは偶然ではない。長い時間をかけて積み上げてきた成果だ。

 だから私は、できることなら森保監督にはこれからも日本代表を率いてほしいと思っている。もちろん失敗もある。ブラジル戦のように、あとから振り返れば『違う選択もあった』と思える試合もあるだろう。しかし重要なのは、そこから何を学び、次に生かせるかだ。そして森保監督なら、それができると私は信じている」

 評価は森保監督だけに向けられたものではない。日本サッカー協会が長年築いてきた育成とリーグの土台についても、ジーコはその方向性を支持している。

「協会は正しい仕事をしていると思う。これまでJリーグを発展させ、J1、J2、J3までしっかりと整備し、日本サッカー全体の土台を築いてきた。男子だけではなく、女子サッカーにも力を入れ、年代別代表も充実している。こうした土台があるからこそ、日本はこれほど短期間で世界トップレベルまで成長できたのだ。だからこそ、この方向性を変えてはいけない。育成年代への投資を決して惜しまず、クラブを支え、指導者を育てる。そして、子どもたちがサッカーを楽しみながら成長できる環境を守り続けることが何よりも大切だ。

 日本の選手はすでに高い戦術理解を持ち、技術も高い。フィジカルも以前とは比べものにならないほど向上した。チームとして戦う力も世界レベルだ。だからこれから本当に必要になるのは、その土台から世界を驚かせるような才能が生まれることだ。ひとりのスター選手が現れることで、日本はさらに大きく飛躍する。そして私は、その日は決して遠くないと信じている」

(つづく)

リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon

編集部おすすめ