不定期連載『みんなマンガで強くなった』 宮市亮(後編)

 マンガに影響を受けたアスリートは、少なくない。ただ娯楽として楽しむ人もいれば、キャラクターのひと言を胸に刻み、ケガやスランプの日々を乗り越える力に変えた人もいる。

この連載では、トップアスリートを支えてきたマンガを、本人の言葉でたどっていく。初回に登場するのは、横浜F・マリノスの元日本代表FW宮市亮。マンガとの出会いから、欧州でマンガが最高のコミュニケーションツールになった日々まで、笑顔で語ってくれた。

宮市亮のアーセナル時代の同僚ウォルコットは『ドラゴンボール』...の画像はこちら >>

「チームメイトたちからマンガやアニメの話はたくさん聞きましたね。『NARUTO』を知っていてよかったなと。特にフランス人選手に『NARUTO』好きが多いんです。一方でテオ・ウォルコットやキーラン・ギブスは『ドラゴンボール』が大好きで、当時僕が日本からアニメのDVDを買っていって彼らに渡した記憶があります」

 欧州では日本のサッカーマンガも非常に人気がある。特に『キャプテン翼』は広く知られていて、アトレティコ・マドリーなどで活躍したオリベル・トーレスのファーストネームは主人公・大空翼のスペイン語名「オリベル」から取られている。

 リオネル・メッシフェルナンド・トーレス、アンドレス・イニエスタ、ティエリ・アンリ、フランチェスコ・トッティなど錚々たるレジェンドたちが『キャプテン翼』の大ファンを公言しており、ジネディーヌ・ジダンは同作品をきっかけにサッカーを始めたという。元イタリア代表のアレッサンドロ・デル・ピエロも日向小次郎の大ファンで、少年時代は真似をしてユニフォームの袖をまくってプレーしていたそうだ。

 宮市自身は「サッカーマンガには疎かった」と言うが、欧州でプレーするにあたって「周りと話を合わせるために、キャラクターの必殺技の名前は覚えた」。

「(ルーカス・)ポドルスキは日向小次郎をデザインしたレガース(すね当て)をつけていましたし、左足で豪快にシュートを決めて『タイガーショット!』と言いながら喜んでいたこともありました(笑)」

【ドイツ代表ニャブリは『NARUTO』と『ONE PIECE』が好き】

 日本のマンガはチームメイトとの関係を深めるのに欠かせない、最高のコミュニケーションツールだった。欧州ではどこに行っても「マンガ」が適応を助けてくれたという。

宮市は「日本のマンガには、皆さんが想像している以上に半端ない影響力があります。(『ONE PIECE』のモンキー・D・)ルフィの麦わら帽子や、うずまきナルトのタトゥーを入れている選手がいるくらいなので」と語り、過去のエピソードを次々に明かしてくれた。

「アーセナル時代に一緒だったフランシス・コクランは『NARUTO』が大好きで、毎朝クラブハウスで僕と(忍術を発動するための)印を結び合っていました。セルジュ・ニャブリは『NARUTO』と『ONE PIECE』が大好きでしたね(注:負傷により北中米W杯を欠場したニャブリは6月中旬に来日し、宮市と再会を果たした)」

 ザンクト・パウリ時代にチームメイトだったドイツ人のクリストファー・アヴェヴォーという選手は、『死ぬまでに尾田栄一郎先生(『ONE PIECE』の作者)に会うのが俺の夢だ!』と言っていました。特に若手選手にマンガやアニメが人気で、みんな『日本人が来たぞ! これでアニメの話ができる!』みたいな感じで話しかけてくれるので、コミュニケーションの面ではめちゃくちゃ助かりました」

 宮市の元チームメイトには、マンガやアニメへの関心がきっかけのひとつとなってJリーグでプレーするようになり、日本人の女性と結婚した選手もいる。川崎フロンターレに所属するGKスベンド・ブローダーセンである。

「ブローダーセンも『遊☆戯☆王』が大好きだと言っていたし、時間があればいつも携帯電話で『遊☆戯☆王』のゲームをやっていました。マンガやアニメは日本が誇るべき文化だなと思います」

 人間関係を築くだけでなく、自らと向き合う日々においてもマンガの存在は宮市を大いに助けた。

「欧州に移籍してからは、マンガは電子書籍で読んだり、一時帰国の際にまとめ買いして持っていったり、アニメで見たりしていました。ひとりで海外にいてもマンガという楽しみがあったのは大きかったですね。ケガをしていた時も、マンガから何かを得ようというよりも、マンガを読むことで気晴らしになった。コミュニケーションのためだけではなく、リフレッシュするツールのひとつとしてマンガには本当に救われました。

読むだけで前向きになりますよね。『俺も頑張るか』と。当時よく読んでいたのはやはり『SLAM DUNK』で、もう何周したかわからないですし、結局毎回同じところで泣くんですよね(笑)」

【自分の人間形成にも影響】

 マンガが宮市を強くした。「今の若い子たちはマンガのことをどう思っているかわからない。電子書籍が増えてきて、紙で読むことが減っているし、もしかしたらマンガよりもNetflixやYouTubeなどの動画コンテンツの視聴が中心で『読む』ということが少なくなっているかも......」と危惧するトリコロールの背番号23は、今だからこそオススメしたいマンガ作品についても語ってくれた。

「敵を倒した爽快感とストーリーの奥深さの両方を楽しみたいなら、オススメは『BLEACH』と『NARUTO』ですね。この2作品は間違いないです。もし落ち込んでいるなら、『SLAM DUNK』を読んでもらえると、気分がすごく前向きになると思います。

 ここで挙げた3つは世界に誇れる作品だと思いますし、世界に出るとマンガをきっかけにコミュニケーションが豊かになるので、海外移籍を目指しているなら押さえておくべきです。

 最近は『ワンパンマン』や『HUNTER×HUNTER』も読みましたし、『地獄楽』や『怪獣8号』も面白かった。特に『怪獣8号』はめちゃくちゃ面白いので、皆さんもぜひ読んでみてください!」

 では、宮市にとっての「マンガ」とは? 最後に直球で聞いた。

「マンガは青春に寄り添ってきたものであり、自分の人間形成にも関わっていて、リフレッシュのためのアイテムとしても大事な存在です。

マンガには人間として大切なものをたくさん教えてもらいました。正義は最後に勝つというか、実直にやっていれば最後にはいいことが起こると、ナルトや黒崎一護の姿を見ていると感じます。

 スポーツとも親和性がありますよね。スポーツはみんなが勝利を目指していて、マンガでは主人公が何かしらのゴールを目指していて、どちらも最終目標にたどり着く過程でいろいろな困難にぶつかって、それを1つひとつ乗り越えていく。そこはマンガとアスリートに共通している部分だと思います。そうやって考えてみると、もはやマンガを教育にも取り入れるべきだなと思いますね。道徳の時間に『SLAM DUNK』を読むのもいいのではないかと、本気で思っているくらいですから(笑)」

(了)

>>> (前編)横浜F・マリノスの宮市亮を育てた『NARUTO』と『SLAM DUNK』 中京大中京の同級生・木原龍一は"ジャンプ係"だった

宮市亮(みやいち・りょう)/横浜F・マリノス
 1992年12月14日生まれ、愛知県出身。183センチ、79キロ。中京大中京高時代にアーセナルと正式契約を交わし、2012年2月にはローン先のボルトン・ワンダラーズで日本人最年少となる19歳1カ月28日でプレミアリーグに初出場した早熟の高速ウイング。欧州ではそのほか、ウィガン・アスレティック(イングランド)、トゥエンテ(オランダ)、ザンクトパウリ(ドイツ)でプレーした。度重なる負傷を克服し、近年は横浜F・マリノスの顔のひとりとして、活躍している。

取材・文●舩木渉 Wataru Funaki

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