“熱中症”危険感じたら“勝手に”仕事中断OK? 死傷者が9年で約3.6倍に急増…酷暑の職場で労働者が“身を守る”方法とは
気象庁は4月、最高気温が40℃以上の日の名称を「酷暑日」と新たに定めた。近年、40℃を超える気温が毎年のように観測される状況を受けた措置だという。
今年の夏(7月~8月)も、全国的に気温が平年より高くなる見通しだ。
夏の気温が災害級に深刻化するなかで、職場における熱中症による死傷者数は増加傾向にある。2025年には、統計を取り始めた2005年以降で過去最多の1681人(うち死亡者は15人)を記録している。
2025年6月には、改正労働安全衛生規則が施行され、事業者に対し、単なる予防措置だけでなく、万が一発症した際の「体制整備」や「救護手順の作成」が明確に義務付けられた。しかし、すべての職場で適切な対策が講じられているとは限らない。
事業主は熱中症対策についてどのような義務を負うのか。また、職場の熱中症対策が不十分な場合に、そこで働く人は、自分の身を守るため何ができるか。

職場における「熱中症対策の義務付け」進む

職場における熱中症の死傷者数は増加傾向にあり、2025年には過去最多の1681人を記録した。これは9年前の約3.6倍にあたる。特に建設業や製造業、そして50歳以上の労働者に被害が集中している(【図表】参照)。
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【図表】職場における熱中症による死傷者数の推移(2025年12月末速報値)(出典:厚生労働省)

厚生労働省の分析によれば、死亡災害のほとんどが「初期症状の放置・対応の遅れ」に起因する。重篤な状態で発見された、異常時に適切な対応が取られなかったなどの事例の背景には、報告・対処の体制が整備されていないという問題がある。
こうした状況を受け、2025年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行。
これにより、事業者には、熱中症の疑いがある場合に速やかに報告させる体制の整備と、作業の中断や身体の冷却といった具体的な措置手順を作成し、労働者に周知することが法的に義務付けられた。
熱中症リスクの評価には、気温だけでなく湿度や輻射熱なども考慮した「暑さ指数(WBGT)」が用いられる。作業の強度によって危険とされる基準値は異なり、今回の規則改正もこのWBGT値(28℃以上など)を作業環境の基準の一つとしている。

対策が不十分な職場で、労働者はまず何をすべきか

熱中症対策が義務化されたとはいえ、すべての職場で十分な対策が実施されているとは言えない。
2025年の死亡事例を見ると、「発症時・緊急時の報告体制の整備及び周知していたことを確認できなかった事例が2件」「熱中症予防のための労働衛生教育の実施を確認できなかった事例が8件」存在していた。規則改正の施行後も、こうした不備が繰り返されないとは言い切れない。
また、休憩の機会が確保されない、水分補給の時間が取れないといった現場は依然として存在する。
そうした環境に置かれた場合、労働者はどのような対応をとることができるのか。
労働問題に詳しい松井剛弁護士は、まず前提として「単に主観的に暑いというだけではなく、WBGTや気温など客観的な条件が基準を超えているという状況であることが重要」と指摘する。その上で、対応のステップを次のように説明した。
松井弁護士:「最初のステップとしては、上司や現場責任者に対して、できるだけ記録に残る形で、休憩や水分補給の機会をしっかり確保するよう求めることが考えられます。
それでも改善されない場合は、社内にコンプライアンスやハラスメントの相談窓口があれば、そちらへの相談も選択肢になります。
それでもだめなら、労働安全衛生法違反の疑いがあるとして、労働基準監督署(労基署)に申告するという手段があります」
「記録に残る形で」という点は重要だ。
メールや書面での要請はもちろん、客観的な証拠として、日時、場所、その時の気温や「暑さ指数(WBGT)」を記録しておくことが有効である。
暑さ指数は、職場のWBGT計で確認するほか、環境省の「熱中症予防情報サイト」でも確認できるため、スマートフォンのスクリーンショットなどで残しておくとよい。
加えて、「どのような作業を何時間行ったか」「休憩や水分補給の指示はあったか」「体調にどのような変化があったか」「誰に、いつ、どのように状況を伝えたか」といった情報も、万が一の際の有力な証拠となる。

危険を感じたら、自己判断で作業を中断できるか

では、労働者が自身の判断で作業を中断することは、法的に許されるのか。
松井弁護士は、「許される場合がある」とし、以下の通り説明する。
松井弁護士:「正当な理由があって業務を中断することは認められます。
たとえば、屋外で雷が落ちているときに作業を止めて避難することは誰も否定できないでしょう。熱中症の危険においても、同様の考え方があてはまります。
ただし、暑いことそれ自体は会社の責任ではないので、中断した時間の賃金が必ずしも当然に請求できるとは言い切れません。
しかし、作業中断を理由に懲戒処分をされた、あるいは解雇されそうになったという場合は、それは不当な処分だという話になります。そうした不利益処分に対しては、争える可能性が高いです」
松井弁護士はここでも記録の重要性を強調する。
松井弁護士:「気温や暑さ指数(WBGT)、どのような作業を何時間行ったか、誰に状況を伝えたかといった点を、日時と共に記録しておくことが、いざというときに大きな意味を持ちます。
スマートフォンのスクリーンショットなどで客観的な証拠を残しておくことも有効です」

相談できる“窓口”も

職場の熱中症対策に不安がある場合や、不利益な扱いを受けた際に相談できる窓口は複数ある。

松井弁護士は、「熱中症対策そのものについて改善を求めるためか、それとも不利益処分に対抗するためかによって、相談先の選択肢が変わる」としたうえで、以下の窓口を挙げた。
  • 労働基準監督署:労働安全衛生法違反の疑いがある場合の申告先として機能する
  • 労働局の総合労働相談コーナー:労働に関する幅広い相談を受け付ける
  • 労働条件相談ホットライン:電話による相談が可能
  • 弁護士:特に不利益処分を受けた場合や、法的な対抗措置を検討する際に有効
  • 労働組合(外部ユニオン):会社に組合がない場合でも、外部のユニオンに加入し、団体交渉を通じて交渉する手段がある。
今回の規則改正により、熱中症が疑われる状況における「報告体制の整備」と「措置手順の周知」が事業者に義務付けられた。これは、これまで努力義務であったとされている部分を法的拘束力のある措置へと引き上げた点で、重要な改正といえる。
しかし、制度が整備されたことと、それが現場で機能することは別の話である。
「酷暑日」という言葉が公式に定められた今、職場における熱中症対策を、実質的な人命保護の仕組みとして機能させることができるか。働く人一人ひとりが制度の内容と自身の権利を知り、声を上げられる環境を作ることが、制度を機能させるための前提条件でもある。


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