日本を代表するアニメ『サザエさん』。平和で穏やかな日常が描かれ続けるサザエさんだが、作者の長谷川町子先生の身にその世界観と裏腹の怪事件が起こったことをご記憶だろうか?

しかも、先生が亡くなってから……。


ひっそりとした人生の幕引き、死後には国民栄誉賞も


1992年5月、長谷川町子先生は冠状動脈硬化症による心不全で72年の生涯を閉じた。
自宅の高窓を閉めようとして机から落ち全身を打撲、通院治療を受けていた中での悲劇だった。

生涯独身を貫き、姉に残した遺言には「70歳を過ぎてからは入院、手術はしない。葬儀・告別式はせず、密葬。納骨が終わるまで公表しない」とあり、近親者による納骨式が終わった6月30日に死去が発表されている。

目立つことを徹底的に嫌がっていた先生らしい幕引きだった。
同年7月には、漫画を通じ戦後の日本社会に潤いと安らぎを与えたとして国民栄誉賞が授与されている。


遺骨を盗難した犯人から遺族の元に脅迫状が!


悲劇が起こったのは翌93年3月25日。長谷川先生の遺族の元に「町子の遺骨を返してほしければ金を出せ。要求に応じるなら新聞広告を出せ」という脅迫状が骨壺の写真とともに郵送で届いたのだ。

墓を管理している石材店に確認してもらうと、納骨室に遺骨がない。遺族はその日のうちに警察に通報。事件の性質上、当初は盗難の事実は伏せられていたが、マスコミが情報をキャッチしたことで大々的に報道される騒ぎとなってしまう。

長谷川町子先生の遺骨は渋谷駅にある!?


遺族は3月31日の読売新聞のたずね人欄に広告を打ち、犯人側と接触。2通目の脅迫状には振込先の銀行口座が指定されており、翌日必ず振り込むことなど具体的な指示が書かれていたという。


事態が急転したのは4月5日朝のこと。遺族の元に犯人から速達が届く。中には「JR渋谷駅山手線ホームのコインロッカーに安置してあります」とワープロで書かれた便箋とコインロッカーの鍵が入っていた。
知らせを受けた警察が駆け付けたところ、指定のコインロッカーの中から黒いビニール袋に包まれた骨壷を発見。遺骨は11日ぶりに無事遺族の元に戻ったのだった。

類似事件との関連は……?


実はこの事件直前の2月16日、最上恒産会長で「地上げの帝王」と呼ばれた早坂太吉氏の妻の遺骨が盗まれ、300万円が要求されるという事件も起きていた。

この時も新聞広告掲載が指示されるなど事件内容は酷似。警察はこの事件と同一犯の可能性もあるとして捜査を続けたが、結局、犯人は捕まっていない。

長谷川先生の遺骨盗難事件では、犯人側の要求金額は数千万円だったと言われている。
遺族が金を振り込んだかどうかについて捜査当局は明らかにしていないが、先の事件では実際に300万円が奪われてしまっている。

長谷川先生の死去が公表された際、遺産は約30億円と報じられ大きな話題となっているが、成功に味を占めた犯人による再度の犯行だったのだろうか……?
犯人が捕まっていないことが不気味な怪事件である。

現在、長谷川町子先生の遺骨は京都の法住寺に安置されている。
生前、「静かでいいところ」と、好んだ寺だという。
どうぞ安らかにお眠りください。


※イメージ画像はamazonよりサザエさん うちあけ話