昨年、生誕100周年を迎え、とどまるところを知らないたいやきブーム。「白いたいやき」はもはや定番となり、ひと口で食べられるミニたいやきも大人気。
中身もあんこの他にアップルシナモンやキャラメル、生のバナナが入ったもの、ウインナー入りやピザ味、挙げ句の果てに、あえて中身を入れない「素たいやき」まで登場!

ところで、たいやきに「天然物」と「養殖物」があるというのをご存知だろうか。実はコレ、2002年に発行された『たい焼の魚拓』(JTB)という本の著者である宮嶋康彦さんが命名したもの。一尾ずつの型で焼くたいやき(一本焼き)を、「天然物」。同時にたくさん焼くことのできる型で焼くたいやきは「養殖物」とするそうだ。夜店などで売られているのは、たいてい「養殖物」である。ちなみに、この本を読んで私が驚愕したのが、福岡にある某店のたいやきは「オス」と「メス」の区別もあるということ。
そして、この本が出版された当時、重労働で非効率的な「天然物」は絶滅の危機にあり、ごく一部の老舗店でしか食べることができなかった。

しかし、ここ数年あえてこの「一本焼き」を売りに開業するお店が増えている。実は私、「天然物」を今だかつて食べたことがなかったため、そんなお店のひとつである大阪・天満にある『野乃屋えびす庵』というお店に足をはこんでみた。

さっそく焼きたてをひとつ買って食べてみたところ、皮が薄くパリパリしていて、確かに食べ慣れた「養殖物」とはまったくの別モノ。このお店のものはボディも小ぶりで、締まった身の感じがなるほど天然鯛を思わせる。「養殖物」のふんわり、やわらかな口当たりとは好みが分かれるところかもしれない。
また、「養殖物」は皮が厚いため、「変わりダネ」な中身でバリエーションを楽しめるというメリットも。一方、「天然物」は薄皮が身上なので、皮とあんの質で勝負する傾向にあるのかもしれない……と感じた。

店主の高森誠さんが作業する様子を見せていただいたところ、重そうな型をガチャコ、ガチャコ と回しながら、焦げないよう両面をひっくり返しながら焼く作業が実に大変そうであった。しかも、動画を見ていただけばおわかりと思うが、一度に6匹しか焼けず、型を温めてから焼き上がるまでに数分はかかるという。
「たいやきって、パッと買ってすぐ頬張りたい気軽な食べ物ですよね。なので、大量に売れてしまった後などにいらっしゃると、焼き上がりを待ち切れないお客さんもいます」と高森さん。
多い日は一日500個くらい売れることもあるそうで、いや、本当に大変な仕事だなぁ、としみじみしてしまった。

「不況だとたいやきが流行る」という説もあるそうで、「およげ!たいやきくん」がヒットした70年代もオイルショックの年だったという。お財布に優しくどこかほっとする味わいのたいやきは、昔も今も日本人の心の拠りどころなのかもしれない。さて、あなたは「天然物」&「養殖物」、どっち派?
(まめこ)