不思議に思うのは、同じ地域において、なぜそんな差異が生じるのかということ。
セミに関する研究・調査も多く行っている大阪市立自然史博物館の学芸員・初宿成彦さんに聞いた。
「2005年に大阪市立大学・都市問題研究とともに『クマゼミはどこまで飛ぶか?』というテーマで、セミに実際に印をつけて移動距離を調査したことがあります。その結果、1キロくらいは移動することがわかりました」
383人の参加者の協力を得て、5489匹のセミを使って長居公園で調査した結果、セミの死骸が最も遠くで見つかったのは、長居公園から直線距離で約1200メートルの地点だったという。これを含め長居公園の外で見つかったのは9匹、長居公園内で見つかったのは131匹だったそうだ。
「ちなみに、大阪市内にはミンミンゼミが発生していないと言われており、抜け殻などは探しても見つかりません。でも、大阪市内の公園ではミンミンゼミの声が聞こえるため、近くの山、生駒山あたりから飛んでくるのだろうと考えられます」
その移動距離を考えれば、近所の公園への移動など、たやすいように思えるけれど……。
また、セミの調査としては、昨年8月に、「東京都墨田区の隅田公園には、アブラゼミ1種類しか繁殖していないことがわかった」という発表もあった。
これは東京大総合研究博物館の須田孫七・協力研究員の5年にわたる調査によるもので、「64年前の東京大空襲で焼け野原となった墨田公園には、空襲でいったん地域のセミが全滅し、復興後も川と急速な宅地化により、アブラゼミ以外のセミが公園にたどり着けていない可能性がある」という分析である。
これに対して「山から飛んでくる距離を考えれば、川や宅地は越えられるだろう」などと思わないこともないが、セミの平均移動距離などの調査はこれまでない。
また、上記の大阪でのクマゼミの研究で、5500匹近いセミのうち、発見されたのが140匹だけだったことから考えても、調査の大変さは並大抵ではないことがわかる。
ところで、セミの棲息地域に関しては大きく分けて「クマゼミは関西に多い」などと言われてきたものが、近年では変わってきているらしい。
「以前は、クマゼミは関東では神奈川が北限とされていましたが、北関東にも見られるようになり、日本海側でも福井が北限とされてましたが、金沢でも見つかっています。これは温暖化による影響の可能性が考えられます」
わずかな距離でもセミの種類に差が見られる一方で、かなりの距離を移動しているセミたち。近いうち、関東にもクマゼミだらけ……という日が来る可能性もある!?
(田幸和歌子)