設立したものの会員がなかなか集まらず、一人で活動していた『武蔵野美術大学 鉄道愛好会』会長の木村奈美江さん。秋に行われた学園祭『芸術祭』で鉄道に関する展示を行ったところ、めでたく5人に増えたという。
やっと会員が増えて、ホッと一息の木村さんに、会の設立時の様子や鉄道の絵のことなどについて伺った。

祝! 『武蔵野美術大学 鉄道愛好会』 1人だった会員が5人になった

木村さんが武蔵野美術大学の学園祭で展示した絵のうちの一点。木村さんの鉄道に関する展示がきっかけで『鉄道愛好会』の会員が増えた。水彩絵具で描かれてある。

――思わず見入っちゃいますね!
「JR内房線の運転台の様子です。かぶりついて見ていたので、怪しい人と思われたかもしれません(笑)」

木村さんが入学した時は武蔵美には『鉄道愛好会』がなかった。
大学の非公認であればサークルはすぐに立ち上げることはできる。しかし、なかなかその一歩が踏み出せない。
「私もまだまだ知らないことだらけなので、鉄道が好きだということを主張し辛かったんです。詳しい方と喋ると、置いてきぼりになるんじゃないかという不安もあって」

しかし、このままでは時が過ぎていくだけである。ある日、木村さんは思った。「知識はなくても好きなのだから、私が立ち上げても良いのではないか。
それに、一人で活動するよりも、誰かと鉄道イベントに行ったり電車に乗ったりしたい……」と。
そこで、木村さんは3年生の時におもいきって設立することにした。
――設立を決めた後は、どのような活動を?
「まずは、ツイッターで『鉄道愛好会』のアカウントを取ってつぶやいたり、チラシを校内に貼ったりしました」

大学の公認ではないので、部室はない。
「部室はなくても、活動しようと思う気持ちがあればできると思って、気にしませんでした」

準備は万端。あとは会員が増えるのを待つだけである。
しかし!
「結局あまり状況は変わりませんでした…」
な、なんということだろうか。


●チャンス到来!
そうこうしているうちに木村さんは4年になってしまった。このままでは、誰も入らないまま卒業してしまう。時はちょうど、学園祭が近づいていた頃だった。
「鉄道に関する絵を描いて展示したら、鉄道好きな人が集まってくれるかも……!?」
こうして、木村さんは大好きな鉄道をテーマにした絵を描き上げた。

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上大岡駅をモチーフに。レールが光に反射している部分もバッチリ。

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列車がすれ違う瞬間。運転席後ろの特等席、“かぶりつき”から見た光景。

「車体は描けば描くほど、発見がありますね。車体の下の油ぎったところも好きで、観察する時はそういったところも見ます」
祝! 『武蔵野美術大学 鉄道愛好会』 1人だった会員が5人になった
木村さんが作った案内板も。鉄道ファンのみなさんお察しの通り、木村さんは京急ファンだ

祝! 『武蔵野美術大学 鉄道愛好会』 1人だった会員が5人になった
懐かしい手書きの注意書きも再現。

この活動は見事に功を奏した。

「ありがたいことに、会員が5人になりました!!」

なんと嬉しいことだろうか。しかも、展示の噂を聞きつけて、学生以外にもいろいろな鉄道会社の関係者も見に来てくださったという。
「感激しました。中には朝早くから来られた方もいらっしゃって」

●斬新!つり革の展示
祝! 『武蔵野美術大学 鉄道愛好会』 1人だった会員が5人になった
絵の展示の他に、つり革の展示も行った。しかも、つり革の高さが7段階に変えてある。

「身長は人によって違いますが、つり革の高さはだいたい決まっているため、背が低い人は握りにくいことがあります。背が低い方も、一生に一度くらい自分にとってちょうどいい高さのつり革を握れたらと、展示をしてみました」

ちなみに、展示したつり革は京急のイベントで購入したものだそう。
「普段は、家の玄関に飾っています」
――友達が見たら、驚きませんか?
「びっくりするけど、楽しんでくれます(笑)布教活動の一環ですね!」
木村さんは、鉄道会社のイベントに足を運ぶ度に鉄道グッズを買ってくるため、部屋はグッズでいっぱいだ。

「方向幕、記念キップ、発車ベルなど、どれも魅力的でつい買ってしまいます」
祝! 『武蔵野美術大学 鉄道愛好会』 1人だった会員が5人になった
木村さん所有のグッズより。記念グッズの『パスネット』など、懐かしいカード類もズラリ。

●一人で鉄研サミットに参加したことも
ちなみに、会員が集まらなかった頃のこと。木村さんにちょっとしたチャンスが訪れた。なんとツイッターを通じて、関東の大学の鉄道研究会が集まる『鉄研サミット』への参加のチャンスが舞い込んできたのである。
「一人で参加を決めたので、本当に心細かったです。でも、たくさんの鉄道仲間ができましたし、みなさん、良い方ばかりでした」

●京急のここが好き!
前述のとおり、木村さんは京急ファンだ。鉄道ファンの間で「京急が好き」という人は多いが、木村さんはどういったところが好きなのだろうか。

「私が京急沿線で育ったことが愛着の理由ですが、加速が段違いに速くて、”かぶりつき”のできる席もあって、座席が柔らかいところも大好きです。都心から帰ってきて京急の柔らかい座席に座ると『やっぱりこれがいい』って安心します」

特に好きな車両は旧1000系。
「残念ながら廃車になってしまいましたが、年季があって味わい深くて好きでした」
どちらかといえば、レトロな車両が好きな木村さん。最寄駅が快速しか止まらなかったこともあり、物心ついてからは各駅停車(ちょっと古い車両)を見る度に「かわいい」と思うようになったという。
「高校生になってからは、京急以外にも通学でJR根岸線や東急電鉄を利用したり、『鉄道フェスタ』などのイベントにも行くようになりました。色々なブースが並んでいたので、他の鉄道にもどんどん興味が出てきて。大学に入って最初の頃はなるべく沢山の電車に乗りたくて、3時間の通学で5回の乗り換えを満喫していました。」

今、乗りたい路線は銚子電鉄。また、富山の鉄道も勧められることが多いため、行ってみたいという。
祝! 『武蔵野美術大学 鉄道愛好会』 1人だった会員が5人になった
木村さんが撮影した、鉄道に関する写真のごく一部。

●しなの鉄道の車両にデザインを
祝! 『武蔵野美術大学 鉄道愛好会』 1人だった会員が5人になった
長野県小諸市の方々が描いた絵で、しなの鉄道の車両を楽しくラッピング。

大学の美術普及活動の一環で、しなの鉄道の車両や駅に展示する絵の制作に携わったこともある。
「同じ大学の仲間と、小諸の地域のみなさんと一緒に制作したのですが、念願の鉄道に関わる仕事に私は異常に興奮してしまって、終始友達から『うるさい』と言われる始末でした(苦笑)」

今後「描き鉄」が増えていってくれたらと願う木村さん。
「撮り鉄、乗り鉄、録り鉄、模型鉄などいろいろありますが、描くという表現の楽しさも、もっと広がってくれたら嬉しいです」
会員が増えてひと安心の木村さん。なんだか『けいおん!』を彷彿させるものがあり、微笑ましい。春からは晴れて社会人になるとのことで、木村さんの新たな人生も出発進行だ。
(取材・文/やきそばかおる)

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