ウルトラマンといえば、変身してからのタイムリミットは3分。カラータイマーが点滅すると、「シュワッチ!」と言いながら空へ飛び立っていくという設定は、ほとんどの人がご存じではないだろうか。


1966年に誕生して以来、今でも子供たちに愛されているウルトラマンは、ウルトラマンに始まり、ウルトラセブン、ウルトラマンタロウ、ウルトラマンレオ……など、たくさんのヒーローが誕生してきた。

誕生から50年ほど経過している今もなお、新しいシリーズが誕生しているウルトラマンだが、このたび1960年時代のウルトラマンの特撮現場を紹介した絵本が発売された。その名も『ウルトラマンをつくったひとたち』である。
本書は、ウルトラマンの必殺技である「スペシウム光線」を考えられた“デンさん”こと、飯塚定雄さんが全てのイラストを描きおろし、「ウルトラマンメビウス」などで特殊造型コーディネーターを務められた田端恵さんが構成と文、そして大衆文化研究家の幕田けいたさんが企画と構成を担当されている。

この絵本が興味深いのは、タイトルからも分かるように、ウルトラマンに焦点をあてているのではなく、「ウルトラマンをつくったひとたち」に焦点があてられていることなのである。
絵本というメディアでウルトラマンの撮影裏を紹介することになったのには、どのような経緯があったのだろうか。
飯塚さんを始め、田端さんと幕田さんにお話をお伺いすることができた。

「近年はCGが全盛で、素晴らしい映画がたくさん公開されています。ですから最近、そんな特撮映像がすべてデジタルで作られていると思っているお子さんも少なくありません。特撮の原点は、身近な工夫とアイディアの集積です。そんな手作りの楽しさや職人達の熱意を、これから世の中を作っていく子供達にも伝えたいと、この絵本を作りました」

物語の始まり、デンさんが仕事のために円谷スタジオへ行くと、助監督さんに「つぶらやかんとくがデンさんのこと、さがしていたよ」と言われる。デンさんは円谷監督を探していろいろな現場に足を運んでいくのだが、スタジオの建物内では、どのようにして面白いストーリーにするかを考えているスタッフさんがいたり、セットや模型、怪獣やジェットビートルなどを作っているスタッフさん達がいる。

そして、デンさんがいろいろなスタジオを歩いていく中で、ひとつひとつのシーンで大勢の人たちが多くのことを手作業で行っていることも分かっていく。

例えば、怪獣の大きな指を動かしていている人や、その怪獣の手の動きの指示を出している人がいること。海のシーンでは波を起こしている人、火薬を爆発させている人、濡れてしまった怪獣を乾かしたり、壊れてしまった怪獣をなおしている人がいること。ウルトラマンやバルタン星人が空を飛ぶシーンでは、ワイヤーでウルトラマンたちを動かしている人がいたり、そのワイヤーを空と同じ色に塗っている人など、たくさんの人たちが手作業で現場を動かしているのである。

当時から、ウルトラマンの撮影では実際の火を使って撮影をしたり、セットの木は1本ずつ本物の木を植えているなど、リアリティを追求するために細かい手作業が行われていたというのだから、この絵本を読んでいるだけでも、作品が生み出されるまでの細かい作業工程が見られてとても感動してしまう。

なお、デンさんが撮影現場を歩いていく過程で舞台裏を紹介するというコンセプトは、どのようにして生まれたのだろうか。
飯塚さんからその答えをいただけた。

「私は昭和29年の初作『ゴジラ』の特撮美術で映画の仕事をはじめ、『ウルトラマン』では画面の合成を手がけました。ですから、撮影現場でのさまざまな作業を見知っているんです。この絵本は、その経験を元にして描きました。実は、描かれているスタッフたちは、みんなモデルがいるんです」

絵本の中には、デンさん、円谷監督の他にも、キャメラマンさん、脚本家さん、デザイナーさん、造型さん、美術さん、照明さん、操演さん、特機さん、特殊効果さん……などなど、たくさんのスタッフさんが登場する。また、作画技師であるデンさんが、スペシウム光線がどのようにして発射されるかの説明をしてくれるという、特別なページも用意されている。


大勢の人たちの手により、ウルトラマンのストーリーは完成していく。そして作られていく過程を読み進めていった上での最後のページが、とても素敵なのである。これはぜひ本書を手にとって実際に見ていただきたい。

なお、本書は「はじめてのとくさつ絵本」ということで、特撮現場の裏側を子供たちに向けて描くことで、特に苦労された点をお伺いしてみた。

「例えば『フィルム』という言葉を使っても、フィルムを見たことのある今のお子さんは少ないですよね。そういった時代の遺産をどう説明するかということです。
それから、実際の特撮の現場は、もう少し複雑なんですが、この本を読んだお子さんが、家のカメラを使って特撮ごっこができるように、分かりやすく描くことに気を使いました」

そういえば去年、日本でハリウッド版ゴジラが公開されるにあたり、昭和29年の初作『ゴジラ』を上映していた映画館があったので、観に行ったことがある。劇場内は年齢層の高い男性が多く、ほぼ満席だった。すると、お父さんに連れられた小学生くらいのお子さんが入ってきた。今の子供たちは、特撮ものといえばCGが使われている作品が当たり前になっているわけだが、あのお子さんの目には、初作ゴジラはどのように映るのだろうと興味深かった。

今やCG技術と分かっていると「凄い! 本物みたい!」と思いながら映像を見てしまうが、「凄い! 本物だ!」という感動は薄らいでしまっているのかもしれない。リアリティは危険や労力も伴うかもしれないが、だからこそドキドキするし、得られる感動も大きいように思う。


携帯でも気軽に動画が撮影できるようになった世の中、一般家庭でもソフトやアプリを利用すれば、気軽に動画編集ができるようになった。この絵本をきっかけに、お父さんやお母さんは、お子さんと一緒にオリジナルのストーリーや必殺技を考えて、家族で特撮動画を作り上げてみてはどうだろうか。オリジナルのキャラクターを考案してみてもいい。世界にひとつだけの特撮動画だなんて、考えただけでもワクワクしてしまう。
(平野芙美/boox)