性風俗で働く人のための無料生活・法律相談サービスを行っている「風テラス」。その活動に携わる弁護士の安井飛鳥さんより、近年メディアなどで関心が高まっている「社会的養護」の現状と、性風俗との関係について語っていただいた。

 私はもともと学童保育の指導員として働いていて、そこから弁護士を目指すようになりました。現在は弁護士・社会福祉士・精神保健福祉士として仕事をしていて、児童相談所で非常勤の仕事もしています。専門は子どもや若者に関する分野です。

 虐待を受けた子どもを保護する『子どもシェルター』のNPOの運営にも関わっており、最近は芸能人に関する権利擁護のための取り組みを始めたりもしています。その一方で、風テラスの相談員として、性風俗で働く人たちの相談支援にも関わっています。

 非行、障がい、精神保健、芸能、性風俗と元々全ての分野に興味があったわけではありません。子どもや若者の支援をしていると色々な問題にぶつかります。それらの問題を解決するために、必要な知見を身に着けようとすると結果として色々なことに関わるようになり、ジェネラリストにならざるを得なくなる・・・という状態です。資格や活動領域が多岐にわたっているため、「変人」扱いされることも多いです。

 今回は児童福祉・少年司法そして風テラスの立場から、性風俗の世界で働く子ども・若者たちと社会的養護のこれからについて、どのように考えていけばいいのかお話ししたいと思います。

 さて、児童相談所で働いている立場で、こういうことをいうのも何なのですが、私は『社会的養護』という言葉があまり好きではありません。『社会的養護』という言葉は、法律でカチッとした定義があるわけではなく、関係者の間でも定義が定まっているようで定まっていない部分があります。

 厚生労働省のホームページに書かれている内容を要約すると、「公的な責任で、虐待を受けている児童についての保護・支援をする」とされています。社会的養護≒児童福祉という意味合いで使われることが多いのかなと思います。『社会』という言葉を大きく打ち出しているわりには、結局『児童福祉』の枠の中での話になりがち。『社会的包摂』という言葉がありますが、それに比べると名前負けしているのではと思うことがあります。

●15歳以降のニーズに合った制度や社会資源がない?

 児童福祉の中心的な相談機関は、児童相談所です。名前はよく知られていますが、実務はあまり知られていません。「通報すると子どもが連れ去られる機関」というイメージを持っている方も多いかもしれません。

 児童相談所は、児童や保護者からの相談を受ける機関です。虐待予防のために保護者への援助をしたり、児童に対して援助・指導をしたりします。虐待を受けた児童を保護することもあれば、保護した児童を施設に入所させたり、里親につないだり、特別養子縁組を勧めたり・・・といった仕事をするのが児童相談所の基本的業務です。

 ですが、法律上はそうした建付けになっていても、児童相談所が現実にそれら全ての業務をこなすのは難しく、実際上は、児童の保護や虐待対応がメインとなっていて、虐待に至る手前の子育て支援に関する業務は、市町村と役割分担していることが多いです。

 児童相談所は、法律上は18歳未満の子どものあらゆる相談に対応することになっています。

児童福祉法上の「児童」とは18歳未満を指すのですが、例外的に22歳までの自立支援の相談もできるように法改正が行われました。そうなると思春期から青年期までの子どもの支援もすべて児童相談所が担っているのかというと残念ながら現実にはなかなかそうなってはいないのです。

 児童福祉の領域では、15歳以上の子どもが利用可能な公的制度や社会資源が極端に不足しています。と言うのも児童福祉は、元々「親が亡くなった孤児をどう養育していくか」というところからスタートしました。そこから児童虐待への社会的関心が広がって、「親はいるけれども保護、支援が必要な子ども」への関わりの比重が増えていきました。昔は、制度上は18歳まで相談に乗ることになってはいるけれど、実際上、義務教育が終了した位の子どもに児童相談所が積極的に保護や相談で関わるケースはそう多くはありませんでした。それが最近では児童相談所として18歳まで保護・支援を継続しなければいけないというケースも増えています。更には、法改正を受けて成人後も視野に入れた支援が推奨されるようになってきました。

 しかし、制度の外枠ばかりが広がっていくだけで、実際の15歳以降の子どものニーズに合った具体的制度や社会資源は圧倒的に不足していて、支援する側の支援技術の蓄積も十分ではなく、地域格差も激しいのが実情です。

●複合的な問題に対処できない児童福祉

 15歳以上の子どもの問題になってくると、子育てや問題行動という枠から飛び出して、いわゆる非行や少年犯罪という問題や、あるいは虐待の影響がより重くなって精神病と診断がつくレベルの問題が増えてきます。そして、性に関する問題も出てきます。ですが、児童福祉はもっと低年齢の子どもの支援を専門としていた領域のため、こういった高年齢の子どもの複合的な問題に対してはそもそも知見が浅く専門外の部分もあり極端に弱いというのが現実です。

こうした複合的な問題が絡む場合の子どものケースワークは、極端に見通しが甘くなったり、雑になったりする傾向が強いと感じます。

 児童相談所は何をやっているのだ、怠慢じゃないか、と批判されることも少なくないですが、そもそも児童福祉に従事する人員が圧倒的に不足しています。諸外国に比べて、ケースワーカー1人あたりが担当するケースの数が多すぎる。一つ一つのケースに注力することが難しい。そのような中でこうした複合的な問題を抱えた高年齢の子どものケースに対してできることは自ずと限られています。色々なケースを抱える中で優先順位をつけていくとなると、より低年齢の子を優先していかないといけない。高年齢の子どもに対してはどうしても時間をかけた丁寧な対応が難しくなりどこか投げやり、紋切り型な支援になってしまうことも。そうなっていいわけではないけれども、そうならざるを得ない現状がある。思春期以降の複雑な問題を抱えた子どもの支援を現在の児童福祉の枠組みだけで行っていくのはかなり難しい状況にあるといえます。

 

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