予備校で、長らく東大受験に携わってきた林先生。ある年から、東大合格者に変化が見られるようになったといいます。

上位はやはり優秀、しかし中位から下位層は……

 まず、誤解がないように言っておきますが、レベルが下がっているのは、あくまでも東大の中下位層であって、上位はやはり優秀です。先端技術を駆使する能力も高いので、以前よりも優秀かもしれないくらいです。このことを強調しておきます。
 僕はテレビで、「東大の下がカッスカスのスッカスカ」と言ったのであって、「東大のレベルが下がっている」とは一言も言っていないのに、ネットではそう伝わりましたからね。ただ、長年東大受験に携わってきたものとしては、中位から下位層のレベル低下については、強い確信があります。最近は、まさかというレベルの生徒が受かりますからね。

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写真/花井智子

 いったい何を根拠に、と言われそうですよね。本当はあまり言いたくない話を、あえてしましょうか。今(2016年12月の取材時)、冬期講習の真っ最中で、400枚も500枚も答案を採点しています。どの授業であっても必ず、この問題でこういうことを書く生徒は、根本がわかっていないという指針になる設問があるんです。
 実は、僕はそこを間違えた生徒の名前をノートに書き留めているんです。(うわっ、そんなことをしているのか、という声が聞こえてきそうですね。

)10年ほど前から始めました。僕は勝手に、「東大入試のデスノート」と呼んでいるんですが(笑)、当初は、名前が書かれた生徒は、見事に全員落ちたんですよ。本当に、一人も受からなかった。
 ところが、ある年からノートに名前のある生徒がポツポツと受かり始めて、この2、3年は大量に受かるようになったんです。予備校の合格実績を上げてくれているので、ありがたいという面もあるのですが、やはり気持ちは複雑です。こういうことや、実際の答案の内容を見て、東大の中下位層のレベル低下を心配しているんです。

 高い論理性と表現力を備えた答案があまりにも減っているので、その原因を、先日、採点を手伝ってくれているスタッフに訊いてみたんです。彼は、かつての教え子で、東大をほぼトップで受かったような飛び切り優秀な現役東大生です。彼によると、スマホの影響が、大きいのではないか、と。自分たちも持ってはいたが、ここまで依存はしていなかったとも言っていました。

 確かに、現代ではスマホは情報収集に不可欠です。ただ、スマホに書かれている文章は、だいたい短くてさっと読めてしまいます。

一方で、きちんとした文章を書く機会も減っている。こういうことの影響が本格的に現れ始めたのではないかと彼は言うんです。なるほどな、と思いましたね。
 それだけでなく、たとえ本を読んでいる生徒でも、その本自体が実に「読みやすく」なっています。そうでないと売れませんからね。環境自体に、読解力を下げる力が強く働いている、これが実情なのではないでしょうか。

 

明日の第二十一回の質問は「Q21.仕事ができるようになるためには何が必要ですか?」です。
※この記事は2月15日(水)までの限定公開です