漁師になりたい! でも、どうすればいいの?

漁業に興味のある人たちへ向けた就業相談会「漁業就業支援フェア 漁師の仕事!まるごとイベント」(主催:一般社団法人全国漁業就業者確保育成センター)が6月14日(土)、東京・秋葉原で行われた。
水産庁後援のもと2002年から始まったこのとりくみ。今年は福岡、大阪、東京の3都市で開催された。漁業を就職先として考える人々と、後継者を求める漁協・漁業会社とのマッチングが狙い。イベントの模様を取材した。

会場には日本全国から50を超える漁業団体がブースを構える。参加者は自由に歩き回り、現役の漁師から仕事内容や収入、生活環境について聞くことができる。そこで互いの条件が合えば、後日研修候補生として採用される場合もある。
参加費無料、服装自由、事前申し込みも履歴書も不要ということもあり、開場前から列ができるほどの盛況。主催者発表で、336人の来場者数となった。女性の姿は少なく、圧倒的に男性が多い。年齢は20代から30代と見られる人が多かった。

就職活動中の海洋学部の大学生だけでなく、転職や再就職を目指す人も。
スマートな体型のAさん(フリーター・20代男性)。都会で生まれ育ち、漁師の仕事を直接見たことはない。現在は定職に就いていないという。
「いろいろなバイトをやってみたけど、自分に合いませんでした。沿岸漁業だと、人付き合いのしがらみがないイメージがあったんです。体力的な不安はないこともないですが、そのあたりを現場の漁師さんから聞きたいと思っています」

一方、筋骨隆々のBさん(会社員・20代男性)。今春大学を卒業し、新卒として会社に就職したが転職を考えているという。
「祖父が漁師だったこともあり、小学生の頃からの夢でした。自分の人生を考えたら、やっぱり漁師の道を選びたい。目当てはつけていて、遠洋漁業に携わりたいと思っています」

はるばる九州からやってきたというCさん(会社員・30代男性)。
「希望は沿岸漁業で、将来的には独立したいです。釣りが趣味で、週末はいつものように海に出ています」
───転職先としての漁師に、不安はないですか?
「ひとつは収入面ですね。最近は沖へ出ても、船の数が減っているような気がするし……研修中や雇用中だけでなく、独立したあとに本当に食いぶちがあるのか、ということです」

主催者側が配布するパンフレットによれば、漁師の収入はまちまちだ。
たとえば遠洋漁業であるマグロのはえ縄漁業は、太平洋、インド洋など世界中の海に出て、短くて1ヶ月、長くて1年以上、船内で共同生活をしながら仕事をする。ある漁業会社の場合、研修後の平均年収は約300万〜450万とされている。

日本の漁師の8割をしめる日帰りの沿岸漁業では、研修後、基本給20万円前後に各種手当と歩合給が加算される場合が多い。船も小型で乗員は数名程度。漁村で暮らすわけだから、その土地に骨をうずめる覚悟が要求される。

四国の漁協のブース(沿岸・独立型)で話を聞いた。
「うちはアワビやサザエとか。素潜りの海女さんを募集してるね。俺たち? 男の海女もおるんよ」
ブースの壁のポスターには「あまちゃん」の文字。
「今日は男性が1名、女性が4名来てくれたね。うちの漁村は小さくてね、限界集落みたいなもんだったんよ。16年前から町ぐるみで人を連れてこようってんで、今は120くらいの人口のうち、だいたい6割が外部から受け入れた人たち」

全国漁業就業者確保育成センターのスタッフは、このように語る。
「もともと、漁村は血縁・地縁的つながりのなかで、お子さんや親戚が稼業を継ぐことが多かった。しかし現在、漁村では過疎化が進み、漁師さんたちは後継者不足に悩んでいます。このイベントは、漁業に縁のない方たちを向かい入れるのが目的。生活圏も文化も違う未経験の方々を育成するということで、漁師さんたちにも補助金を出しています。言わば『Iターン』を促進する『お見合い』みたいなものです」

───たとえば漁師と縁のない人の場合、遠洋漁業と聞くと、借金を抱えてマグロ漁船へ……というイメージが一般にあると思いますが?
「実際には、そういう方はほとんどいませんよ。いたとしても、漁師さんたちから受け入れられにくいでしょう。もっとも、それで見習いになっても続きませんしね。チームでやるわけですから、人柄やコミュニケーションが重視されます」

確かに、いろいろなブースを聞いてまわってみると、みな「本気の人材」を求めていることがわかる。この取り組みがきっかけとなり、新規に見習いを受け入れ、時間をかけて仕事を教えこみ、独立させたというケースもあるそうだ。

だが、関東地方の漁師(沿岸・雇用型)の奥さんは「都会が嫌になって、島の生活に憧れて、現実逃避で来る人はだいたいダメね。本人が怪我しちゃう」と語る。
また、震災後に希望者が増えたという東北地方の漁師(遠洋・雇用型)は「要は性格だね」と言う。
「結局、体力は抜きん出たものがなくてもいいんだよ。この道で食っていくなら、心の方が重要。人懐っこかったり、ポジティブ思考だったりね。そういう人が向いてるね」

前述のセンタースタッフの談によれば、人によっては「仕事がつらい」と感じたり、家族も含め、漁村という土地に馴染めない新規就業者もいるようだ。
「イベントでのマッチングがうまくいったとしても、長く続かないという人は、はっきり言って少なくないです。とはいえ、それは漁業に限ったことではなく、他の仕事でも同じことだと思います。沿岸でも沖合でも遠洋でも、みなさん、一生の仕事として考えている人を求めています」

会場には相談コーナーやガイダンスコーナーも併置されており、気軽に情報収集ができるようにもなっている。現に、ガイダンス参加者のうちの約8割が「漁業に興味を持ち始めたばかりで、勉強しにきた」という人だった。

海の幸を食べない日本人はほとんどいないにも関わらず、多くの人には接点のない漁師という職業。『平成25年版 水産白書』によれば、過去十年間で全体の漁業就業者数は現象の一途を辿っている。しかも、15歳から39歳までの就業者は10%代前半と非常に低い。65歳以上の比率は高まっており、高齢化の傾向は確実に見られる。一方でそれは、定年がなく身体が動くまで働くことができるという、漁師の生き方を示してもいる。

研修候補生として採用される場合、フェア終了後10日以内に出展団体から直接へ連絡がくることになっている。最終的な意志を確認して、研修開始日や引っ越し日などが決まる。都会の中心部から、地方の漁村、そして広大な海へと繋がるか。

会場を後にするAさんに、再び話しを聞くことができた。
「漁師さんについて分からないことが多かったですけど、直接会って話が聞けたのがよかったですね。特に、漁師さんたちの人柄に触れることができたのが収穫です」

全国漁業就業者確保育成センターは、今後も様々なとりくみを行う考えだ
漁師に興味がある人は、まず「漁師.jp」を訪問してみよう。

(HK・吉岡命)
注目度UP!漁師という仕事