連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第1週「常子、父と約束する」第4話 4月7日(木)放送より。 
脚本:西田征史 演出:大原拓
なぜ「ちはやふる」だったのか「とと姉ちゃん」4話
「とと姉ちゃん part1」―連続テレビ小説 (NHKドラマ・ガイド) NHK出版

脚本家・西田征史の仕事をふりかえる


「とと(西島秀俊)のお膝好き。
かたすぎず やわらかすぎず ちょうどいい」
三女・美子(子役・川上凛子)の台詞をどう捉えよう。
幼い子供が大人を真似したような口ぶりをしてるかわいさか、子供がこんな解説的な言い方をすることへの違和感か。
結核にかかったとと(西島秀俊)は自宅療養をしている。
第一週からイケメンのXデーで引っ張っているようであざとい感じもしなくははないが、やっぱり、このとととのかけがえのない日々が「とと姉ちゃん」には大事なのだろう。

お正月になり、家族は百人一首を楽しむ。
ヒロイン・常子(子役・内田未来)の名前の由来がわかる重要なアイテムとして使われた百人一首。
お母さん君子(木村多江)の名前も百人一首に由来し、さらに君子は昔かるたをやっていて得意だと説明されるなど、家族で盛り上がるいい場面になった。
なおかつ、脚本家・西田征史は、ここに別の意味ももたせているのではないだろうか。

現在大ヒット公開中の、競技かるたに青春を賭ける高校生たちの奮闘を描いた映画「ちはやふる」(2部作で、上の句、公開中、下の句は4月29日公開)への応援である。実際、映画の主題にもなっている「ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれないに みつくくるとは」の札も読まれた。
なぜそう思うかというと、「ちはやふる」の監督・小泉徳宏は、西田が映画の脚本家デビューした「ガチ☆ボーイ」(2008年)の監督だからだ。この映画が、西田の出世作で、ここから彼は脚本家として活躍していく。

「ガチ☆ボーイ」は舞台劇を原作にした、寝るたびにそれまでの記憶がなくなってしまう主人公が、学生プロレスに励む姿を描いたもの。プロレス研究会の仲間達との絆がすてきに描かれた映画だった。鉄郎役の向井理と西田の出会いもこの作品だ。
「ガチ☆ボーイ」をはじめとして、その後書かれるドラマ「怪物くん」(10年)、「妖怪人間ベム」(11年)、監督もやった映画「小野寺の弟・小野寺の姉」(14年)など、西田の書くものは、家族や仲間など運命共同体的な関係性をもった人たちがといっしょに過ごす時間をていねいに描いたものが多い。

とりわけ印象的なのは、「妖怪人間ベム」で、人間になりたいと願う主人公たちが、少しでも人間に近づこうと箸の持ち方に気をつけているというていねいな生活描写である。こういう感性は今回の「とと姉ちゃん」の生活描写にも生かされているように思う。

ちなみに、4話で家族がしりとりをしていたが、「ベム」の劇場版では連想ゲームをする場面が出てくる。遊びを通して人と人とが心を通わせるコミュニケーションツールとしてしりとりや連想ゲームは欠かせないし、物語の中ではいいアクセントになる。「とと姉ちゃん」のナレーション檀ふみはかつて、NHKの人気クイズ番組だった「連想ゲーム」のレギュラーをやっていたので、「とと姉ちゃん」でも連想ゲームをやってほしいところだったが、残念ながらこの時代、まだこの番組は誕生していないのだった。

今後、西田が、家族を描くためにどんなアイテムを繰り出してくるかも、楽しみにしたい。
(木俣冬)