NHK 大河ドラマ「おんな城主 直虎」(作:森下佳子/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
12月3日(日)放送 第48回「信長、浜松に来たいってよ」 演出:福井充広
「おんな城主直虎」48話。サラリーマン時代劇と戦国ミステリーを足したら娯楽の極致だ
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素敵な幕開け


駿河を手に入れた、チーム徳川が宴会しているときの忠次役、みのすけの踊りが、さり気なくいいノリをしている。青瓢箪的な忠次を素敵に演じているこの御仁は、ナイロン100℃の主要メンバーである一方で、音楽活動もやっていて、80年代は筋肉少女帯のメンバー(ドラムス)だったという、ユニークな経歴の持ち主。大人計画、グループ魂で演劇も音楽もやっている阿部サダヲ(家康役)に勝るとも劣らないというか、先輩格の実力派なのである。


のっけから良いものを見せてもらった48回、本質は、明智光秀(光石研)による織田信長(市川海老蔵)暗殺計画が粛々と進行しているというハードさながら、表面的には、サブタイトル「信長、浜松に来たいってよ」にふさわしい、徳川による織田接待のドタバタ劇で見せる。
歴史好きも、歴史はそんなに派も、両方楽しませてくれる。ついでに、なぜか、男たちのハダカがいっぱい出てくるサービスまで。最終回目前、テレビドラマという娯楽の名に賭けて、きちっと駆け抜けようと力が入っていることを感じる。

サラリーマン時代劇


富士を拝んだり、遠江、三河の名所を見たりしたいという信長を、必死におもてなしする家康と家臣たちの姿を見ていると、武士や町人を、サラリーマンに見立てて描いた映画が何本かヒットした、この数年の現象を重ね合わさずにはいられない。
堺雅人が幕末の経理担当を演じた「武士の家計簿」(10年)にはじまって、佐々木蔵之介が江戸時代の転勤族を演じた「超高速 参勤交代」シリーズ(14年、16年)、阿部サダヲが重税に苦しむ民衆を救うべく奮闘する商人に扮した「殿、利息でござる!」(16年)など。
“超高速”を取り入れたのは前作「真田丸」の三谷幸喜だったが、森下佳子も、サラリーマン時代劇ものの流れをうまいこと取り入れて、ドラマを親しみやすいものにしている。
TBS日曜劇場が、真面目に庶民の叫びを描いていることに対して、大河ドラマは「真田丸」に続いて、喜劇のテイストを盛り込みながら庶民や戦国武将の戦いを描いている。

48話で印象的なのは、氏真(尾上松也)が、ちゃっかり織田に取り入ろうとして、美丈夫を集め相撲をとらせるとき、そこになぜか直之(矢本悠馬)が参加している場面。
直之に興味をもつ信長に、家康が「上様には小兵がお好きで?」と聞くと「桶狭間を思い出す あのときの余はあの小兵であった」と返ってくる。家康はそれに対して「さしずめわたしはあの下男ですな」と応える。
戦国三大武将の信長、家康も最初は小兵だった(万千代だって草履番だった)。それが、いつの間にか、戦いに勝ち残って大きくなっていった。
感無量。

直虎だったら 鳴かぬなら?


「徳川が共に戦ってくれなかったらどうなっていたかわからない」と、家康を「弟よ」とまで呼ぶ信長だが、真意は謎。そののち、彼と主たる家臣を安土に招待するのは、暗殺を図ったのか、単なるお礼なのか。戦国ミステリーのニオイも加えて、見ごたえが増す。
そして、ここで、生き残ることに必死の氏真が大いに関わってくるのもニクイ。

この機に乗じて信長暗殺を、光秀から誘われた氏真。
飄々として見せて、身内を殺されたことを恨みに思って仕返ししたいと考えている彼は、それに乗る。
そして、万千代も同じく、織田にいつか仕返ししたいと意気盛んだ。

だが、直虎(柴咲コウ)と家康は違う。
ふたりは、復讐の連鎖や、富や権力を力で奪い合うことを止めたいと考えている。
「(殺し合い奪い合う)この世が嫌いじゃ」という家康に、「(そういう世の中を変えることを)やってみなければわかりますまい」と発破をかける直虎。
「やってみなければわからない」は直虎がこれまでずっと信条としてきたことだと、直虎ファンが胸を熱くする場であり、さらにいえば、「鳴かぬなら殺してしまえ」が織田信長、「鳴かぬなら鳴くまで待とう」が家康で、「直虎」に全く出てこない秀吉が「鳴かぬなら鳴かせてみせよう」であり、秀吉が出てこない分、直虎の「鳴かぬなら鳴かせてみなければわからない」があるようにも思える。
それは若干、鳴かせてみよう秀吉的であるようなところもちょっと面白い。万千代も、秀吉みたいに草履番で出世しているし(ここで秀吉の名前が出ていた)。もちろん、残虐なことをしている秀吉と直虎は全然違うし、本能寺の変で信長が死んだあとは、秀吉が急激に台頭してきて、血なまぐさい殺戮は続くわけだが。
未来(視聴者にとっては過去とはいえ)をわかったように書かず、あくまでも進行形になっているのが「直虎」だ。

直虎に背中を押された家康は、亡くなった瀬名(菜々緒)の形見・紅入れを碁盤のうえに置いて熟考したうえ、家臣を集める。皆、何も言わずとも、二人(瀬名と信康)と仇をとろうと声を合わせる。

負けっぱなしじゃいられない、弱い者たちが一丸となって立ち上がる、日本人の大好きな展開だ。

49話「本能寺が変」。最終回の前の回だというのに、また変なタイトル。でも話が面白いから、ありだ。
直虎出演俳優(誰!)をゲストに迎えたパブリックビューイングが、以前、このレビューでもご紹介した彦根、直政の菩提寺・清涼寺にて行われる。

(追記)
パブリックビューイングのシークレットゲストは
万千代役の菅田将暉さん。

清涼寺内井伊家の位牌堂なども見学されたうえで、おはなしされました!
登場したときは、観客大声援でした!

(木俣冬)