細田「この作品を一言で言いますと。4歳の男の子に妹ができまして。その妹に両親の愛を奪われたお兄ちゃんが愛を求めて、さすらい旅立つ。そういうお話です」

12月13日に行われた細田守監督最新作の制作発表記者会見。
細田守監督齋藤優一郎プロデューサー(スタジオ地図)が登壇し、2015年の『バケモノの子』以来3年ぶりとなる劇場アニメ「未来のミライ」のあらすじや、特報映像、メインスタッフなどが公開された。
公開されたわずかな情報や細田監督のコメントから、「未来のミライ」がどのような作品なのかを探っていく。
細田守最新作「未来のミライ」制作発表徹底レポ。きょうだいの問題、愛を失った方はどう考えどう結論するか
左が細田守監督で、右がスタジオ地図の齋藤優一郎プロデューサー。2人は、「時をかける少女」以降のすべての細田監督作品でコンビを組んでいる

主人公は、甘えん坊な男の子「くんちゃん」。妹が生まれて以降、両親との関係の変化に戸惑うくんちゃんは、未来からやってきた妹「ミライちゃん」と出会い、一緒に不思議な冒険をすることになる。
このアイデアは、二児の父である細田監督自身の体験から生まれた。

細田「僕自身、5歳の男の子と、もうすぐ2歳になる女の子の親でして。彼らの純粋なリアクションを見ていると、世界はもっと豊潤で、良いものに溢れているんじゃないかと思えたんです。そんな子供の視点を通して、面白い世界をダイナミックに見せていきたい。その中で、子供たちのバイタリティあふれる生き生きとした姿も見ていただき、皆さんも一緒に元気になって、未来に向かって飛び出していきたい。そう思っています」

しかし、4歳の男の子を主人公に設定したことは、今作品における最大のチャレンジだという。

細田「調べてみたら、『クレヨンしんちゃん』のしんちゃんは5歳。『となりのトトロ』のメイちゃんは4歳なのですが、女の子ですよね。4歳の男の子を主人公にするのは本当に稀で、世界の映画史の中でもあまり無いと思います。だからこそ、今作りながら、こういう主人公でしか見えてこない面白さを感じているところです。4歳の男の子はシリアスなところと、快楽主義的なところが折り重なっていて、非常にバイタリティがあるんですよ。それに4歳と5歳でも全然違っていて。ウチの子は5歳になったら『うんこ』とか『ちんちん』と言い出しました。『あ、だから、しんちゃんは5歳なんだ』と分かりましたね。5歳になってから映画を作りはじめていたら、そういう映画になったかもしれませんが、ギリギリのところで、品の良い、ご家族で観ていただきやすい映画になっていると思います(笑)」
細田守最新作「未来のミライ」制作発表徹底レポ。きょうだいの問題、愛を失った方はどう考えどう結論するか
「未来のミライ」のキービジュアル。まだ制作途中でありながら、すでにロシア、中東、南米などを含む57か国での上映が決定。しかも、さらに増える可能性も高いそうだ

子供の存在は未来そのものだと感じるようなポスターに


会見で公開されたキービジュアル(ポスターイラスト)に描かれているのは、青空と入道雲を背景に手を繋ぐ、くんちゃんとミライちゃんの姿。

細田「『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』では、内容も知らないオリジナル作品を皆さんに『観て下さい!』と言う時、堂々としていたいと思い、仁王立ちの絵のポスターにしたんです。今回もオリジナル作品ですが、そういったことよりも、大きなダイナミズムを持った子供たちが何かを飛び越えるようなイメージを見せたい。その上で、兄妹の絆が強く結びついていることを形にしたいと思いました」
細田守最新作「未来のミライ」制作発表徹底レポ。きょうだいの問題、愛を失った方はどう考えどう結論するか
「時をかける少女」「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」「バケモノの子」のBlu-rayパッケージ。各作品のキービジュアルが使用されている。

細田ファンの中には、2006年公開の「時をかける少女」のキービジュアルを思い浮かべる人も多いだろう。

細田「『時をかける少女』の時も、女の子が青空にジャンプするようなポスターを作りましたが、その時、女の子の生き生きとした姿は未来そのものだな、という思いがあったんです。今回も、(観た人が)子供の存在は未来そのものだと感じるようなポスターにしたかったので、そういう点ではけっこう共通項がありますね」

キービジュアルや特報を見る限り、キリッとした表情が多く、気も強そうなミライちゃん。一方のくんちゃんは、目も顔も丸々と愛らしい。

細田「できるだけ、可愛らしく描きたいと思っています。例えば、冬の子供のほっぺたは、柔らかくて冷たくて気持ちいいんですよね。そういうことまで表現したくなる可愛らしさがあるんですよ。スタッフみんな、子供、しかも男の子の可愛らしさを描くのは楽しいと、よく言っています。だからこそ、なんとか頑張って、4歳の男の子の魅力を描きたい。挙動の面白さや柔らかさ、「うわーん」って暴れた時の面倒くささなども引っくるめて、子供と一緒にいる喜びみたいなものも描きたいんです。それは、今までの作品でも折に触れて描いてきたことですが、今回、よりそれが強いかなと思います」

自分で言うのもなんですけれど、見応えのある映画になる予感


「サマーウォーズ」以降の全作品で「家族」をテーマにしている細田監督。家族を描き続けてきての手応えを聞かれ、「作り続けているってことは、描ききれてないということ」と笑う。

細田「『サマーウォーズ』は『親戚』という存在がアクション映画の主人公だったら、という発想で考え始めた作品。『おおかみこどもの雨と雪』は、子育てをするお母さんという、これもまた映画の主人公にはなりにくい人を主人公にしました。『バケモノの子』は父親の映画ですよね。血は繋がっていなくても、みんな父親になれる。そんなことを思いながら作った作品です。そういった意味で言えば、今回は『きょうだい』の話。ウチの下の子が生まれた瞬間から始まった、親の愛、特に母親の愛をめぐる争奪戦を見て、愛を奪われた人間は、こんなにもひどいことになるんだと思ったんですよ(笑)。やっぱり、人間は、愛が無くては生きられないんだなって。でも、きょうだい間での愛を巡る話の場合、愛を失った方はどう考えて、どういう結論を出すのだろう。そういう話なんです。『家族』というのは非常に興味の尽きないモチーフですよね」
細田守最新作「未来のミライ」制作発表徹底レポ。きょうだいの問題、愛を失った方はどう考えどう結論するか
「未来のミライ」の舞台は横浜市の磯子区、金沢区あたりであることを明かした細田監督。しかし、「どうしてそこが舞台になっているのかは、お話的な理由があるので」とまだ秘密

上映日の2018年7月20日は、齋藤プロデューサーがこだわって決定。「これからどんな楽しい事をやろうかという気分が高まっている」夏休みの初日だ。

現在の制作状況を質問された細田監督は、少し誇らしげに「絵コンテは、今までの作品の中で最も早くできました!」
今は作画作業を進めながら、声優のオーディションを実施しているところだという。

細田「『未来のミライ』、今、頑張って作っているところです。4歳の男の子を主人公にすることで、いろんなチャレンジが必要で。そのチャレンジの一つ一つは大変ですが、スタッフみんなで一個一個乗り越えてようと頑張っています。本当に、現場のスタッフが面白がっている雰囲気があって。それが結実して形になった時には、自分で言うのもなんですけれど、独特な魅力を持った見応えのある映画になる予感があります。ぜひ期待していて下さると嬉しいです」
(取材・文=丸本大輔)


『未来のミライ』
監督・脚本・原作:細田守
公開日:2018年7月20日(金)、全国東宝系にて公開

監督・脚本・原作:細田守
作画監督:青山浩行、秦綾子
美術監督:大森崇、高松洋平
プロデューサー:齋藤優一郎
企画・制作:スタジオ地図

(c)「時をかける少女」製作委員会2006
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