連続テレビ小説「わろてんか」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第21週「ちっちゃな恋の物語」第118回 2月21日(水)放送より。 
脚本:吉田智子 演出:東山充裕
「わろてんか」118話。マーチン・ショウと、ふたつの恋バナに需要はあるのか
イラスト/まつもとりえこ

118話はこんな話


マーチン・ショウ招聘企画が進むなか、隼也(成田凌)とつばき(水上京香)、リリコ(広瀬アリス)とシロー(松尾諭)の恋が動き出す。

いのち短し恋せよ


つばきが北村笑店にやって来て、隼也(成田凌)はどこか挙動不審に。それを見てリリコ(広瀬アリス)があやしいなあとニヤリ。
このときのてん(葵わかな)のむむっという顔が良かった。
マンマンに避難する隼也だが、どう見ても身内ばかり。マーチン・ショウのスクラップを見ながらふたりの心が接近していくところを、万丈目夫妻(藤井隆と枝元萌)と楓(岡本玲)がじっと見ている。彼らの表情の変化でふたりの状況がいっそうわかりやすくなった。

シローはリリコに、介抱してくれたときのお礼に、花柄スカーフを贈る。
ちょっとうれしそうなリリコだが、「やっぱり地味やわ」と翻す。

そのあと、藤吉(松坂桃李)の仏壇にお参りしながら、てんに、最近、なんかシローが気になると相談。
てんは「いのち短し恋せよ乙女」と歌ってリリコの背中を押す。
マンマンでの楓は、隼也に「恋の季節はすぐに過ぎ去ってしまうさかいな」と助言していた。
どちらの恋も進展が待ち望まれる。

てんの歌を聞いて思うのは、葵わかなは澄んだ声がチャームポイントであるということ。笑うとき、鈴が鳴るような音を意識していたと何かの番組で語っていたこともあったが、ゲラ(よく笑う)設定だけでなく、歌が好きな設定を加え、ときどき葵わかなに歌わせても良かったかもしれない。
台詞が少ない分、歌で気持ちを伝えるなどしたら彼女の良さがもっと生きたのではないかと今更だが思う。惜しい。

リリコの恋のゆくえ


リリコは、藤吉の遺影に向かって、「(ほかの男に目移りして)かんにんや」と言う。
4年経っても藤吉を忘れられないリリコってピュア。年齢不詳だが40歳は超えているであろうに、ずっと藤吉を想い続けるとは。でも、妻・てんの前でなぜまだ想っているようなことを匂わせるのか。それを赦し合うてんとリリコは不思議な倫理観をしているなあと思うし、藤吉が、正妻も愛人もまとめて包み込む器量をもっていたと作り手は描きたいのだろうか。
そういう人間関係もあってもいいと思うが、脚本がそこまで練りきれてないのが惜しい。ただ、そのへんはもう期待しないので、あとはもうシローとハッピーエンドになってほしいだけだ。

吉田智子師匠がもし山崎豊子の「花のれん」を脚本化したら、夫が愛人のところで亡くなってしまった主人公の感情をどういうふうに描くだろう。見てみたい。

何度も書くが、マーチン・ショウ って・・・


マーチン・ショウの資金を募るために、栞(高橋一生)たちは、新聞社、出版社、ホテル、鉄道会社の人たちを集めてプレゼンするが、なかなか出資してもらえない。
これを行えば、街の経済効果がぐっとよくなると持ちかける栞。
「言葉や文化の壁を超えて見る人誰もが幸せな気持ちになれる」と隼也の言葉を使って説得する(これはもう3度くらい出てきていて、よっぽど強調したいのだと感じる)。
「日本を明るく幸せにしたい」と言うのは、てん。
言ってみれば、狙いとしては、オリンピック招致の規模の小さいものみたいなものだろう。

内容については、参考図書「吉本興業百五年史」を開いてみると、瀬川昌久の寄稿に、マーチン・ショウのモチーフになっているマーカス・ショウは、ショウと洋画との併演だったとある。
ショウは、歌、ダンス、コント、手品やアクロバット、バンド演奏などエンターテインメントの要素が満載で、日劇少女歌劇団も参加。後の喜劇役者・ダニー・ケイ(クレージーキャッツの谷啓の芸名の元になった人物)も参加していたという。
司会は、弁士として活躍していた松井翠声。

宝塚歌劇団の演目や、アイドルの舞台では、前半・演劇、後半・ショーやコンサートという構成があるが、マーチン・ショウはそれをもっと細分化したようなものといえばいいだろう。きらびやかな装いで、楽しいお芝居やショーを見せる。ダンスの技術はもちろんのこと扇情的でもあり、手品やアクロバットは花園神社の出し物をもっと洗練させたような・・・要するに、藤吉やリリコ、キースたちが子どもの頃、旅芸人としてやってきたことが進化したものだ。芸人魂が共通しているからこそ、藤吉の血を継ぐ隼也が食いつくのも無理はないということを書きたいのだと想像する。
マーカス・ショウのあと、吉本興業は独自のショウを企画、上演していく。
「〜百五年史」は、当然ながら、マーカス・ショウより自分たちのオリジナルショウの記録に重きが置かれている印象だ。

はたして、北村笑店は今後、どうなるだろうか。
(木俣冬)