奈良県天理市のメガソーラー事業をめぐる入札不正疑惑が持たれていた男性市議が8月10日に亡くなった件で、他殺説が浮上している。

 長女の自宅浴室で、胸や腹など複数箇所から血を流して倒れているのが見つかり、近くには血のついたカッターナイフが落ちていたということで、警察は自殺の可能性が高いとしているが、関係者からは「殺されたに違いない」といった話が聞かれる。



「10年前ぐらいになるけど、前にこの付近で大阪府議の秘書が不審死したことがあって、そのときもカッターで不自然に切りつけた感じだと聞いた。警察はそれを自殺としたけど、状況的に不自然だった。あれとそっくりなんだよ」

 こう話すのは、亡くなった市議とも顔見知りの元市役所職員。亡くなった66歳の天理市議は実名での発表こそないものの、89年初当選のベテラン議員、佐々岡典雅氏と見られ、この元職員も「間違いない」と断言。実際に佐々岡氏の名前を出してほかで取材してみても、否定する関係者はひとりもいなかった。

 佐々岡氏が疑われていたのは、3年前に行われた天理市のメガソーラー事業をめぐる入札で、大阪地検から官製談合防止法違反の疑いで捜索されていた。
同事業は、もともと市が工業団地用に22億円も使って取得しながら計画が頓挫していたところ、東日本大震災を機に年間4,300万円でメガソーラー用地として貸し出すプランに転化したものだった。

「でも、事業者として応募した2社のうち選ばれた大阪のメガソーラー・ジャパンって会社は、従業員わずか3名でその手の実績ゼロ。かなりうさん臭い業者で、怪しいって、ある声が市議のブログなんかでも書かれていた」と元職員。

 そこで暗躍していたと見られるのが、7期目の自民党市議、佐々岡氏だった。地元紙では事前に情報漏えいして業者の受注を後押しした見返りに、選挙資金600万円が謝礼として支払われたとの証言も伝えられていた。

 さらにこの事業に関しては、周辺の土地買収や工事名目などで100億円以上の予算が計上されており、佐々岡市議は地上げなどにたくさんの業者を噛ませていたことでトラブルになっていたという。
その中で大物政治家や暴力団の関与も浮上、高市早苗総務相や山口組系倉本組の河内敏之組長の名前が関係者証言で飛び出し、一大スキャンダルに発展しそうな状況になっていた。そんな中、昨年10月に渦中の河内組長が拳銃自殺。疑惑の目は佐々岡氏に集中していたようだ。

 ただ、渦中の佐々岡氏の“自殺”という推察には、同じ天理市議からも異論が出ている。

「佐々岡さん、自殺するようなタマじゃないですよ。ヤクザとの付き合いだって隠さず言っちゃうぐらい肝のすわった人で、何かあったら『そういう世界でずっとやってきた慣習的なもんやから、しゃあないやろ』って開き直るタイプでした。
少し前にテレビの取材が来ていろいろ追及されたときも『なんで俺だけが悪者か』って怒ってましたからね。万一にも死ぬとしたって70歳近い人がカッターで自分を切り刻むなんて、女子高生みたいなことやるわけない。車で突っ込んで交通事故を装うなり、ビルから飛び降りるなり、不審死に思われないようにしますよ。大きな声では言えないけど、もしかして、これ高市さんとか守るために殺されたんじゃないのかね」

 実際、佐々岡氏は生前、記者の取材を受け、かたくなに関与を否定。地元紙記者の質問には「メガソーラー? なんのことか知らない」と、事業自体を一切関知しないとすっとぼけていた。その取材テープを聞かせてもらったが、たしかに神経が図太そうな様子だった。


「かつては市長がワイロを受け取って職員採用していたことが発覚したり、代々の市長が土地転がしを指示していたとの疑惑もあるなど、汚職の横行する地域で、その辺を面倒見ているのが天理教にも寄付をしている高市さんってウワサ」と元職員。

 佐々岡氏が汚職に絡んでいたとしても、ひとり得をして終わるような小さな話ではなかったことは事業規模を見ればわかる。天理市は高市総務相の地盤であり、先ごろ市の産業振興館がオープンした際も都内から中継で参加。佐々岡氏は生前「高市組」という言葉を使って、高市総務相の“子分”を自慢していたというだけに、その死の背景に自民党の中枢が関係している疑いもあるが、この不審死でそれも解明は難しくなりそうだ。これではなお口止めの「他殺説」がささやかれてもおかしくはない。
(文=片岡亮/NEWSIDER Tokyo)