びしょ濡れになることでタイムリープするという能力をもった水野羽衣(大原櫻子)がさまざまな事件を解決する『びしょ濡れ探偵 水野羽衣』(テレビ東京、毎週水曜25:35〜)。2つの事件が起こり、テレビ東京とParaviの2媒体でそれぞれの事件が解決するという、手の込んだ仕組みのドラマだ。

第3話は生駒里奈と秋山ゆずきが演じる姉妹が中心となって物語が展開する。就活で無事最終面接に進むも、「面接の場で見せているのは本当の自分なのか」と悩む羽衣。その話をまったく聞かずにヤンさん(ヤオ・アイニン)が夢中になっている動画が、冒頭の二人が登場する『ずぶ濡れ探偵 水村姉妹』。まさかの「水に濡れるとタイムリープする」という姉妹の映像だ。自分と同じ体質の人がいる=本当の自分をわかってくれる人がいるのでは、と羽衣は二人に会いに行くーー。
「びしょ濡れ探偵水野羽衣」濱津隆之「カメラを止めろ!」と叫ぶ。あれ、この話で2パターン作れます?3話
イラスト/よねこ

「カメラを止めろ!」はどうしても言わせたかったんだな


今回ひとつめの事件は「犬がいなくなった」というごくオーソドックスなもの。もうひとつは依頼ではなく、会いに行った水村姉妹が女優志望でありながら嘘の設定を演じさせられているという悩みだった。
本番中にも関わらず逃げ出そうとするしずる(生駒)に「カメラを止めろ!」と叫ぶ毒島(濱津隆之)。羽衣は最終面接が控えているにも関わらず、姉妹のために目の前でびしょ濡れになってタイムリープする姿を見せる。結果、その先で犬が見つかり、悪徳プロデューサー毒島が実は姉妹のことを真剣に思っていることもわかる、という大団円を迎える。

あれ、今までなら2つ起こった事件の1つは解決せず、無理やりエンディングのはずだけど、すごくきれいにおさまっている。これでバージョン違いのParavi版を作る余地、ある? で、見てみた。やっぱり今回は2つのストーリーに分かれていないのかな? と思った終盤、その映像はやってきた。


テレ東版ではタイムリープから戻ってきた羽衣がびしょ濡れのまま最終面接に向かう。そこで彼女は「本当の自分」を出す。そしてエンディングで水村姉妹が覚悟を決め、ずぶ濡れになる映像を見て兄(矢本悠馬)と笑う。Paravi版で流されたのは、その水村姉妹の撮影風景だった。こんなパターンあるのか! どっちもきれいにおさまって1本として完成され、わからない部分はなく、主人公もゲストも「自分を取り戻す」というテーマがきっちり描かれている。3回目だからこれまでと変化をつけてきたのか、それともこの回の脚本を手がけた村上大樹の功績か。


このドラマに求められるもの=透け感?


村上は劇団拙者ムニエル主宰。この劇団の作風は、今作の企画およびメインの脚本であるブルー&スカイ同様、ナンセンスな部分もありつつ、ポップなふざけっぷりについつい笑ってしまうという感じのもの。村上は外部の脚本も多く、芸人の舞台から2.5次元までを書き分ける手練れだ。第3話はそのうまさが発揮されたのかもしれないなあ。

この回では、水村姉妹がずぶ濡れになったときの「透け感」について繰り返し語られていた。「この透け感がいいんだよな」「無限ループだな」と映像を巻き戻しては再生する父(大堀こういち)。
このドラマに人々がつい求めてしまうものと実際とのギャップがメタ的に表現され、さらにそれが就活の場での振る舞いと本当の自分に悩む羽衣に重なっていく。

それにしても、LINEで「吐きたい弱音あり」と兄が一言送るだけで妹が駆けつけてくれるなんて、うらやましすぎやしませんか。
(釣木文恵)