NHK「よるドラ」「だから私は推しました」(NHK・土曜23時30分~)が最終回を迎えた。(参考「ねとらぼGS」でレビューしてました

田口トモロヲ主演の「植物男子ベランダー」からはじまり、NHKらしからぬゾンビドラマ「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」。
同性愛の問題を真っ正面から扱った「腐女子、うっかりゲイに告る」と、尖ったテーマに斬り込んできたNHK「よるドラ」枠。

今期「だから私は推しました」のテーマは地下アイドルだ。

ドラマに登場するアイドル現場といえば、いまだにバンダナ巻いてジージャンを着たオタクがサイリウムを振り回してオタ芸を打つ……という、いつの時代だ感あふれる描かれ方をしがち。

しかし本作では、ジージャンではなくオタT。サイリウムではなくペンライトと、現在のシーンを反映した、リアルなアイドル現場を描き出していた。

特筆すべきは、アイドルグループのリアルさ。


NHKのドラマ班が本気で作っちゃっているだけに、衣装も楽曲も振付も地下アイドルにしてはしっかりしすぎている感はあるものの、アイドルの「それっぽさ」をかなり研究している。

日本のドラマ業界におけるド定番としての地位を確立している「朝ドラ」に対して、若い世代をターゲットにした尖ったドラマ枠「よるドラ」を、NHKが本気で育てようとしているのをビンビンに感じた。

あまりにリアルなツイートが日常に入り込んでくる!


ドラマ内におけるアイドル現場の作り込みだけではなく、力が入っていたのがSNSの活用方法だ。

ドラマの公式アカウントといえば普通は、撮影裏話や出演者のオフショット、そして放送日程のお知らせあたりをチョイチョイつぶやくというのが定番。当然、興味を引いてドラマの視聴に結びつけるというのがメインの目的だ。

しかし本作のSNS活用はちょっと違った。

そもそも「だから私は推しました」のアカウントではなく、「サニーサイドアップ公式」のアカウントなのだ。


「NHKのよるドラ『だから私は推しました』に登場する5人組『サニーサイドアップ』の公式です。メンバーみんなで(ときどき運営も)つぶやきます!フォローしてね!」

と、さすがにプロフィール文には「だから私は推しました」の文字が登場するが、普段のツイートにドラマの放送日程のお知らせなどは皆無。「架空のアイドルグループの公式アカウント」をキッチリと演じきっているのだ。

各メンバーが勝手にツイートしたものから、業務連絡的な告知ツイートまで、「メンバーみんなで(ときどき運営も)」と書いてはいるが、当然、SNSの担当者が計画的に書き込んでいるはず。

オフショットにしても、白石聖ちゃんのオフショットではなく、白石聖ちゃん演じる栗本ハナのオフショット。さらに、平凡なオフショットのように見えて、ドラマの伏線になっているようなツイートも含まれている。


ドラマ内で解散話が持ち上がった時期には「#ハナです。のりちゃんが相談にのってくれました。ありがとう」と、メンバー同士が頻繁に話し合いをしている様子がにおわされたり。オタクたちがいつも打ち上げをしている居酒屋が、メンバー・玉路紀子のおばさんが経営している店だということが明かされたり。ドラマをより重層的に楽しむための情報が提供されていた。

しかし一番重要なのは、意味のないツイートが日々、繰り返されることによって、架空のアイドルグループである「サニーサイドアップ」の存在感が増すということだ。


特に、リアルなアイドルグループの公式アカウントを沢山フォローしていると、その中に「サニーサイドアップ公式アカウント」はものすごく自然に紛れ込む。

週末になると各アカウントからの「ライブ来てくれてありがとうツイート」が流れてくるが、サニサイのツイートも紛れ込んでいて「えっ、ライブあったんだ。行きたかった!」と思ってしまう。

もちろん、ドラマ内でのライブなので本当はやっていないんだけど。

また、新曲が発表されるごとにミュージックビデオが作られ、そのことが告知されるわけだが、「お茶の子サニサイ」「サイリウム・プラネット」と、曲を重ねるごとに映像が豪華になっていき、「予算、増えたなー」と感慨深くなったり。

そして、第7話放送直前のツイートはこうだ。


「スタッフです。本日24時ごろ、サニーサイドアップに関する大切なお知らせがございます」

アイドルグループの公式アカウントからの「大切なお知らせ」といったら、メンバー卒業か、解散のお知らせだ。ドラマの展開を考えれば、解散のお知らせなのは予想出来たが、それでもこのツイートを見た時にはドキッとしてしまった。

24時というのはもちろん、ドラマの放送終了タイミングということ。
「アイドル公式アカウント」を演じ切るドラマ公式「だから私は推しました」SNS戦略が凄い、夢中でした
イラストと文/北村ヂン

視聴者までも「演じて」レスをしていた


この、アイドル公式アカウントなりきりツイートに、視聴者も乗っかっているのが面白い。

「ライブ来てくれてありがとうツイート」に対しては、「楽しかったー! またライブやってください!」「花梨ちゃん、最高でした!」などの設定に乗っかったレスがつきまくっている。
本当はライブなんて開催されていないのに!

解散告知のツイートにも、もはやドラマとか関係なく、アイドルグループとしての「サニーサイドアップ」の解散をなげくツイートが並んでいた。

……中には「リアルだなー、こういう解散告知」みたいな、空気をまったく読んでいないレスもついていたけど。

日々、なんてことのないツイートを目にし、レスをする。そんなことを繰り返していた人にとっては、「サニーサイドアップ」はもう架空のアイドルグループではない!

これまでにも、ドラマの登場人物がTwitterアカウントを開設して、ドラマの展開に合わせたツイートをしていく……という試みはあったが、ドラマ内では一般人であるはずの登場人物のアカウントを沢山の人たちがフォローしているという状況自体がリアルではなかった。

しかし「アイドルの公式アカウント」という設定であれば、ものすごく自然に、視聴者たちのタイムラインに入り込むことができる。誰もライブに行けていないのは、みんな在宅オタクだからだ!?

ドラマの内容だけではなく、SNS上でも斬新な取り組みをしていた「だから私は推しました」。

しかし残念だったのは、これだけ徹底してリアルなアカウントを演じていたのに、最終回後に公開された「最後のPV」に、ドラマ本編のダイジェスト映像が使われていたこと。

あの、大好きだったアイドルグループ「サニーサイドアップ」のPVだと思って開いたら、ドラマの映像が出てきてしまって、若干脳が混乱してしまった(入り込みすぎ!)。

まあ、最終回後だからアリということにしよう。

映像自体は、ドラマ本編ではスクリーンに映し出されている状態でしか見ることができなかった解散ライブの様子バッチリ見ることができて泣けます!
{イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
NHKオンデマンド

「だから私は推しました」(NHK)
作: 森下佳子
音楽:蔡忠浩(bonobos)
劇中歌:「おちゃのこサニサイ」「サイリウム・プラネット」「ただいまミライ」(作詞・作曲:DogP)
演出:保坂慶太、姜暎樹、渡邊良雄
編集:藤代雄一朗
プロデューサー:高橋優香子
制作統括:三鬼一希、出水有三
地下アイドル考証:姫乃たま
振付:桜あかり
制作・著作:NHK大阪放送局