『エール』第23週「恋のメロディ」 115回〈11月20日(金) 放送 作:吉田照幸、演出:吉田照幸、安食大輔、谷口尊洋〉

『エール』115話 経年と病気になった裕一を演じる窪田正孝のリアリティー<ネタバレ>
イラスト/おうか

「今書いている音楽が逃げちゃいそう」

華(古川琴音)が恋した相手はロカビリー歌手。それを知った音(二階堂ふみ)裕一(窪田正孝)がどう思うか、心配になる。裕一はクラシックで育ち、いまもそれを生業にしているのだから。


【前話レビュー】リハビリという困難を共に乗り越えて近づいていく霧島と華の心<ネタバレ>

一度、ロカビリーのレコードを聞かせてみるが、裕一はたちまち「今書いている音楽が逃げちゃいそう」とさわりで止めてしまう。

「今書いている音楽が逃げちゃいそう」

このセリフは、音楽に対する裕一の気持ちが伝わる、生きたセリフだと感じる。

取り付く島がないことを感じながら音は、廊下で、ロカビリーのリズムに乗って歩いていく。裕一と同じくクラシックを愛してきたはずの音だが、すでにロカビリーにハマっている?

このノリは二階堂ふみの達者さゆえ成立しているのであろう。ちょっと『ムー』『ムー一族』の樹木希林のようにも見えた。

『ムー一族』とは昭和にTBSで放送されていたホームドラマ。
下町の足袋屋の家族を中心に、近所の人たちも関わってきて、ドタバタ喜劇が繰り広げられる。歌あり、生放送ありの、バラエティー感のあるものなのだが、脚本と演出と俳優が盤石で、グダグダのようできちっと作られている、当時のテレビ番組の制作力の凄みを感じる番組だった。

『エール』の主人公が作曲家ということで、音楽をふんだんに、ときにシリアスに、ときにコント仕立てで、描いてきた。『エール』は、令和に生まれた音楽とコントによるドラマ。23週は華の結婚に関する問題を、ひたすらコント仕立てで描く。

冒頭の、ヒゲを生やした保(野間口徹)恵(仲里依紗)の動きの完成度が高い。
恵がノリノリでカメラの前を横切っていくところがいかにもコント番組で、仲里依紗の勘の良さに見惚れた。

裕一、胃潰瘍になる

裕一は働き過ぎで胃潰瘍になって、華の勤務している病院に入院する。裕一に華と結婚を前提に付き合わせてくださいと挨拶したいと希望している霧島(宮沢氷魚)にとって好都合。さっそく「お父さん」「お父さん」と裕一に話しかけるが、音と華は時期尚早と判断し、誤魔化すことに必死になる。霧島もそれを理解して、ロカビリー歌手であることを隠し、鳶職のフリをする。何も知らない裕一は、同室になった霧島に親しげに話しかけるが、霧島は必死に避ける。

パジャマ姿の裕一の首がひょろりと長く、肩もちょっと下がって、戦争編の頃より痩せて見えた。
裕一が年をとったことと、胃潰瘍になったことにリアリティーを感じた。

音が誤魔化すときに、音が「白鳥!」と窓を指し、「鳩でしょう?」と華。だが、裕一が見ると、本当に白鳥が数羽翔んでいる。この白鳥が、115回のオチにもなっている。ようやく霧島が退院するとき、鳶職でないことがバレそうになって……で、最終週につづく。

いやあ、てっきり、華の結婚問題は、今週解決して、最終週は、オリンピックと主人公夫婦愛をしっかり描くのかと思っていたので、華の結婚問題を最終週まで引っ張るとわかって驚いた。


これもまた、朝ドラ名物

朝ドラ名物には“幽霊登場”や“立ち聞きして情報が拡散する”などのライトなものから、“最終回かと思った”というような大規模なものまで、様々ある。

まだ途中にもかかわらず最終回かと思うような展開は、半年もの長丁場なので、途中にクライマックス感も作ってメリハリをつけていくのは当然のこと。だが、途中で盛り上がってしまったがため、あるいは、長丁場のため、後半、息切れしてしまうこともある。

『エール』115話 経年と病気になった裕一を演じる窪田正孝のリアリティー<ネタバレ>
写真提供/NHK

テレビドラマは、3カ月、10週〜12週くらいのものが多いので、脚本家が半年間という長丁場の勘所がつかみにくく、終盤の何週間は、結論が出たあとの蛇足感みたいなものになってしまうことがあることが否めない。

『エール』はコロナで放送が休止したあとの、戦中、戦後編の密度が濃く、放送回数も減ったため濃縮した内容で最終回まで進むかに見えたが、やはりコロナによる様々な変更(重要な役割を担っていた志村けんの死去も含め)の弊害か、流れに不思議な印象がある。

劇中で語られた「君の名は」のアクシデント転じて福となったかのようなエピソードのように、最終的になるといいと願いながら、あと一週間! 「総力を結集してまとめました!」と『あさイチ』で窪田正孝が言っていた。

『あさイチ』には窪田正孝

ついに『あさイチ』に窪田正孝が出演。『エール』と共に歩んだ1年を語った。
モデルの古関裕而の指揮のクセを取り入れていたそうだ。

視聴者からの質問で、納豆と八丁味噌のどちらが好きか、というものに、ドラマのなかでは、食卓問題は解決していなかったが、個人的には納豆が好きと(大意)回答していた。115回の裕一は、いつの間にか、妻が好きな八丁味噌の濃い味に慣れているというような話を霧島にしている。最初は、食の違いが喧嘩のもとになったことが、長らく一緒に暮らしているうちに慣れてきたという話を、娘の夫になる人物に知らずに語っているという、さりげなくいいシーンである。

戦争のシーンをしっかり描いたのは、戦争のなかでも明るく生きるという側面だけでないものを、窪田が吉田照幸監督にリクエストをしたこともあって、シリアス度があがったという(大意)。

窪田は古関の楽曲「若鷲の歌」などに「軍事歌謡なのに元気をもらっている感じがすごくした」と発言。
『エール』では、(軍とはあくまでも関係ない)「戦時歌謡」で統一していたが、窪田が、(軍の要請で作った)「軍事歌謡」を使うところが興味深い。

窪田がその言葉を選んだ理由はわからないが、令和を生きる者にはもはや「戦時歌謡」と「軍事歌謡」の違いはよくわからないのではないか。違う言葉を使用することにどれだけ深い意味があるか。それが時代の流れと共に失せていくことについて、考え続ける必要があると感じている。

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Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami


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『エール』115話 経年と病気になった裕一を演じる窪田正孝のリアリティー<ネタバレ>
写真提供/NHK

番組情報

連続テレビ小説「エール」 

【放送予定】
2020年3月30日(月)~11月28日(土)

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

原作・原案:林宏司
脚本・作:清水友佳子 嶋田うれ葉 吉田照幸
演出:吉田照幸ほか
音楽:瀬川英二
主演: 窪田正孝 二階堂ふみ
語り: 津田健次郎
主題歌:GReeeeN「星影のエール」

制作統括:土屋勝裕 尾崎裕和