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昔はレッスンで弾けない箇所があるとバシッと手をたたくような、スパルタ式のピアノの先生がよくいました。
さすがに最近は、そういうタイプの先生は少ないと思うのですが、ピアノのレッスンは、「バイエル」にはじまって、やれ「ハノン」、「ツェルニー」といった具合で、「指の訓練」ばかりやっているうちに嫌になってしまいがちです。
確かに「指の訓練」は大切です。でも、ピアノを教えることとは、技術のみならず、音楽のすばらしさを感じることのできる豊かな心を育てることであってほしいと思うのです。
これは! と思う魅力的なミュージシャンに、仕事の合間に話を聞いてみると、ほぼ例外なく、幼いころに夢中になった音楽があったと答えてくれます。
それは、レコードやCD、コンサートだけでなく、音楽やピアノの先生の演奏ということもあります。僕の場合は、父が好んで聞いていたオスカー・ピーターソンのレコードや、姉のバレエのレッスンについていったときに聞いたオーケストラの響きが音楽に触れ合うきっかけでした。
ピアノの前に座るのが苦痛になってしまった子どもは、ピアノだけでなく、音楽も苦痛になってしまうかもしれません。
それとは逆に、音楽の魅力にはまった子どもは、放っておいても自分で挑戦していくものです。そのためにも、まずは先生みずから渾身(こんしん)の演奏で、生徒を感動させましょう。生徒の感性をびりびり刺激しましょう。
先生のように弾いてみたい、そう思って練習を始めた子どもの中には、もしかして将来プロの音楽家になる人がいるかもしれません。それはとても素敵なこと。
そうしたら、もっともっと、平和で心の豊かな社会になると思うのです。
■『NHK趣味Do楽 塩谷哲のリズムでピアノ』より