高速バスでは定期的にトイレ休憩を挟むこともあり、車内トイレは「あれば安心」程度のもので、なかには積極的に導入しない事業者もありました。しかし、その状況が変わってきています。
全国で高速バスを展開するウィラーが、トイレ付き車両を順次導入しています。同社はこれまで、トイレの導入に積極的ではありませんでしたが、その方針を一転させたのです。
ウィラーがトイレ導入に積極的でなかったのは、過去に「トイレ付き車両のほうが売れない」傾向があったためです。2000年代に、トイレあり、トイレなしの車両を同一グレードかつ同額で用意したところ、トイレ付きのほうが売れ残ることが多かったといいます。
ウィラーの高速バス(2018年8月、中島洋平撮影)。
長時間乗車する高速バスでは、高速道路のSAやPAで定時的にトイレ休憩を挟むので、乗客はその際に用を足せます。加えて、ウィラーのバス車内トイレについては、当時の主要な利用者層である若年層から「恥ずかしくてトイレを使えない」という声のほか、「においや音が気になる」など、トイレがあること自体を敬遠するような意見があったことから、トイレ付車両の運行をしなくなったそうです。
しかし利用者層も拡大するなかで、改めてユーザーに調査を行ったところ、全体のおよそ8割がトイレ事情に不安を覚えるという回答を得たとのこと。ウィラーはこうした声に応える形で現在、東京~広島線や東京~岡山線といった夜行の長距離路線から、車両更新のタイミングで順次トイレ付車両を導入しているそうです。
新しく導入した車両の車内トイレは、消臭効果のある壁材を使用したり、トイレ用の「擬音装置」を設置したりして、においや音の問題に対応したほか、スペースも一般的な高速バスのトイレより広めに取り、化粧鏡も設置しています。ウィラーは、「お休み前のメイク落としや、降車前に身だしなみを整えることにもトイレを活用いただいています」と話します。
高速バスのトイレは多くの場合、ごく狭いものです。あるバス事業者は、路線の長さにもよるものの、トイレの利用率はそれほど高くないといい、「使う、使わないに関わらず付いていると安心、というもの」だといいます。
そうしたなかで、車内トイレをより豪華にする動きも広がりを見せています。
その先駆けのひとつに、徳島県の海部観光が2011(平成23)年より、東京~徳島間の夜行路線で運行する全席個室タイプ、12席の豪華バス「マイ・フローラ」が挙げられるでしょう。その後に登場した3列シートタイプ「マイ・リピート」ともども、着替えも可能なほど広いトイレを導入しています。同社によると、これらバスではトイレ休憩でも外へ出る人が少なく、到着後も「もっと乗っていたい」という声があるといい、トイレで降車前に身だしなみを整える人も多いといいます。
海部観光「マイ・フローラ」「マイ・リピート」のトイレ(画像:海部観光)。
最近では、関東バスと両備バス(両備グループホールディングス)が運行する全席完全個室の夜行バス「ドリームスリーパー東京大阪号」のように、化粧や着替えのためのパウダールームをトイレとは別に独立して車内に設ける例も見られます。
豪華トイレで「差別化」 頻発運行の昼行路線でもこうした動きは、夜行の長距離路線ばかりではありません。おもに東京と甲信越を結ぶ昼行路線や、羽田・成田空港連絡バスなどを運行する京王電鉄バスも全車トイレ付きで、そのうち、通常よりも定員が少ない36人乗りの車両は、着替えも可能な広いトイレを標準装備としているそうです。
「広めのトイレはもともと、2010(平成22)年にワンランク上のシート『Sクラス』車両に導入しました。当時は、トイレ無しの車両で安価な料金を打ち出していた高速ツアーバス(編集部注:旅行商品の形を取りつつ実質的には都市間移動サービスを提供するもの。
そこから順次、このパウダールーム仕様のトイレを拡大したほか、アルピコ交通や名鉄バスなど、共同運行する事業者にも広がっていったといいます。
京王高速バスのパウダールーム仕様トイレ(画像:京王電鉄バス)。
ちなみに、高速バスでは乗務員交代などを目的にSAやPAなどで停車しても、乗客が外へ出られる「開放休憩」を行わない、という運行も見られます。そうする理由は、車内にトイレがあることのほか、寝ている乗客への配慮、乗り遅れや乗り間違いといった事故の防止など様々ですが、近年、要望を受けて開放休憩を行うようになった事例も増えています。