今年の日本シリーズでソフトバンクが巨人に圧倒的な力の差を見せつけたこともあり、セ・リーグでもDH(指名打者)制を導入すべきかが議論の的になっている。

 日本シリーズではパ・リーグ勢が8年連続で勝利し、通算成績でも36勝35敗と勝ち越し。

交流戦でもパ・リーグが通算1098勝966敗60分と大きく上回っている。

大久保博元と川崎憲次郎で意見の相違。 セ・リーグはDH制を導...の画像はこちら >>

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 セ・パの"格差"には様々な要因が考えられるなか、DH制がそのひとつではないか。そう指摘するのが、現役時代に西武、巨人と両リーグでプレーした大久保博元氏だ。

「パ・リーグは『何点取りますか?』という野球をやってきたのに対し、セ・リーグ は『何点に抑えますか?』という野球をやってきたので、どうしてもこじんまりとする。9イニングのうち投手が3回打席に立つと、3イニングは点が入らないという計算でいくことになります」

 1984年ドラフト1位で西武に入団した大型捕手の大久保氏は、1992年途中にトレードで巨人へ移籍した。

 当時、審判部はセ・パ各リーグの管轄で、アンパイアたちは2011年まで一方のリーグでしかジャッジしなかった。

そんな時代にリーグを移った大久保氏は、"捕手視点"でセ・パに明らかな判定の違いを感じたという。

「僕がいた頃のパ・リーグは、ストライクゾーンがめちゃくちゃ狭かった。セ・リーグに行った時、『ここをストライクにとってくれるの?』『ここまで広いの?』と思いました。セ・リーグはストライクゾーンが広くてピッチャー有利になるから、ピッチャーのレベルが下がってくるわけです。

 対してパ・リーグにはブリブリ振る打者が揃っているなか、ストライクゾーンが狭い。だからそのゾーンの中で空振りを取ったり、ファウルを打たせたりする投手しか残っていけない。

それで徹底してパワーピッチャーをつくっていったんです。その差が今、歴然と表れている」

 一方、現役時代をヤクルト、中日ですごし、ロッテでコーチ経験がある川崎憲次郎氏は"投手視点"でこう語る。

「パ・リーグには柳田悠岐(ソフトバンク)や吉田正尚(オリックス)、森友哉(西武)のように、ぶん回して打率を残し、ホームランも打てるバッターが増えてきています。それに負けじと、パワーピッチャーも多いですよね」

 2ボール1ストライクと投手不利のカウントになった時、どの球種を投げるか。その選択をする上での基本的な考え方が、両リーグで異なると川崎氏は続ける。

「パ・リーグはカウント2-1から真っすぐを投げ、抑えていく力が求められます。

対して、セ・リーグで必要とされるのはコントロール。2-1から変化球でストライクをとり、2-2になったら落ちるボールを低めに正確に投げる。力任せにど真ん中で空振りを取れるピッチャーはなかなかいない分、そういうところで勝負しないといけない。同じことがバッターにも言えます。低めの変化球をどう見逃し、どうやって拾うか。甘い1球を見逃さないことも求められます」

 投手と打者は18.44メートルの距離で対峙し、しのぎを削りながらともに成長していく。

そう考えると、セ・パで野球のスタイルが異なるのは合点がいく話だ。

 投手が"9人目の打者"として打席に立つセ・リーグと、打撃に専念する"強打者"がDHで起用されるパ・リーグ。両者の成績を比べると、打力の違いは一目瞭然だ。

 2020年シーズン、セ・リーグで10打席以上立った投手は49人。彼らの成績を合わせると、 1157打数128安打で打率.111、2本塁打だった(「プロ野球データFreak」より筆者計算)。

 対して同年のパ・リーグで、主に指名打者として出場した打者の成績は以下になる。

 バレンティン(ソフトバンク)191打数32安打、打率.168、9本塁打
 角中勝也(ロッテ)217打数53安打、打率.244、2本塁打
 栗山巧(西武)372打数101安打、打率.272、12本塁打
 ロメロ(楽天)356打数97安打、打率.272、24本塁打
 中田翔(日本ハム)440打数105安打、打率.239、31本塁打
 ジョーンズ(オリックス)302打数78安打、打率.258、12本塁打

 上記6選手は守備に就いた試合もあり、大雑把な比較になる。それでも「投手」と「DHで起用される打者」を比べる意味では、十分な材料になるだろう。

 セ・リーグでもDH制を導入すべきかどうかという議論は、今に始まったものではない。反対派の声として根強いのが、「采配」面だ。セ・リーグでは投手が打順に入ることで"代打の神様"や若手の"お試し枠"が生まれ、それが育成につながるという意見もある。

 だが大久保氏は、2015年に楽天を率いた"監督目線"で一刀両断する。

「一軍で"お試し"なんてするなという話です。ファームでやっておけばいい。そもそもスタメン9人全員が、調子がいいわけがありません。歴史上、9人全員が打率3割を打ったチームはないですから。DH制でも、代打を出せる場所は絶対に出てくる」

 起用の幅を考えると、指名打者制のほうが大きい。たとえば2020年の日本ハムでは中田を主に指名打者で起用し、若手の清宮幸太郎にファーストを守らせた。近藤健介や西川遥輝をDHで起用し、守備の負担を減らした試合もある。

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 対してDH制を敷かないことのデメリットは、打力の低い捕手を使いにくい点だ。8、9番に"打てない打者"が続く打線は、投手として「圧倒的に楽」と川崎氏は語る。

「ピッチャーが打席に入ると、『打たれてはいけない』『当ててはいけない』というのはもちろんあるけど、やっぱり8、9番の打席は気持ち的に抜けます。『7番まで打ち取ればいい』と考えられるので、精神的にも大きい」

 では、セ・リーグもDH制を採用すべきか。大久保氏は大きく頷いた。

「パ・リーグに追いつくのに何十年かかるかわからないけど、DH制を導入することで野手の競争も激しくなります。そうすれば、何とか抑えようとしてピッチャーも育っていく」

 指名打者制が選手のレベルアップにつながることは、川崎氏も同意見だった。ただし、導入すべきかとなると、答えは別になる。

「DH制にはパ・リーグらしさを感じます。ある意味、ピッチャーもバッティングするのは楽しいですし。セ・リーグの文化として残しておいてもいいのかなと思います」

 セ・リーグでは投手が打線に入るため、代打や継投など指揮官にとって腕の見せどころが多くなる。観戦者の立場からすれば、采配は野球の妙味だ。

 ひとつ付け加えると、セ・リーグ がDH制を採用した場合、実力のある打者がスタメンにもう1人必要となる。ゆえに「年俸の支出が増える......」という金銭面でネガティブな声も、以前は囁かれていた。

 個人的には、DH制の導入に賛成だ。アウトになる確率が高い投手より、強打者の打席を少しでも多く見たい。

 はたして、セ・リーグも指名打者制を導入すべきか――。その答えは、どこに視点を置くかで大きく変わってくる。