誰もがスルーする不思議なダジャレ居酒屋
スベリっぱなしのメニューなのに、全員がスルーしている不思議な店。ダジャレメニュー、確認できますでしょうか?
高円寺に「スゴイ店がある」と知人に言われ、行ってみた。
スゴさのポイントについは、「とにかく行ってみればわかるから」という。


だが、行ってみると件の店は、外観はごく普通で、店内もまた、これといっておかしなところはなく、客層も馴染みのおっちゃん客が多い普通の居酒屋である。
出す料理がおかしいのかと思い、メニューを見ると、これまたフツー。
試しに頼んだ「シメサバ」が安いくせに、いやに美味く、「スゴイってこういう意味なのか……」と、変な落胆をしながら次の品を検討していたとき、ふとメニュー内の妙な文字に気づいた。
「雑炊 レンゲつき」。
いや、そりゃないだろう。レンゲくらい、恩を着せずにつけてくれたっていいじゃあないの。「お新香つき」「デザートつき」みたいなレベルで語られちゃっていいのか?
だが、問題はそれだけじゃなかった。

ドリンクメニューでは「神社エール 210」とあり、ウコン茶の下には「リコン茶 品切れ」さらに小さく「ってゆーかぁ 縁切れ?」と。
えーっ、からみにくいな、もう。
その下には「神社エールは神様が応援していてくれるみたいで、ナンかLUKKYよ〜」
なんて悪ノリが続き、日本酒「美少年」の説明書きにも、
「男性ホルモンは含まれていません。『美少女』は現在、全国的に品切れ状態です)」。
余計なお世話じゃろ。


さらに、酢の物の説明がまた、どうしようもなくくどい。
「(酢の物について)まるく酢、えんげる酢、みっきぃまう酢、ほわ糸ハウ酢、せっく酢、ドライアイ酢、タイガー酢、投げキッ酢―など、ナンセン酢を使った“酢のもの”は扱っておりません」
えーと、いつまで聞いていればいいんでしょうか……。
途方に暮れてまわりを見回すが、他の客は誰も気に留める風もない。
ここまで両手広げてツッコミ待ちのメニューなのに、私以外の全員が見事にスルーしているのである。みんな常連客で、見飽きたのだろうか。お父ちゃんが酔っ払うときに必ず披露するネタに、家族はみんな冷ややかに「それ、100回目」と心の中でつぶやく、そんな図か?

店先からダジャレ満載で、店内にも様々なダジャレ、そして強烈な個性の店主がダジャレ連発……みたいな店は、ときどきある。
でも、この店はまるで素知らぬ顔で、メニューだけが、しょーもないダダスベリのギャグを連発しているのだ。
これは気づかないフリをするのが粋なのか。
いや、もしかして、このギャグが見えているのは私だけではないか。不思議な空間に迷い込んだような、空恐ろしい気分にさせてくれる店だった。
(田幸和歌子)
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