
ヒミズ(上)とワニトカゲギス目の一種(下)
みずから「不幸」のレッテルを背中にベタリと貼った青年が、優しい美女との恋を灯火に、社会で生きる道を模索する姿を描く、古谷実のマンガ、『ヒミズ』『シガテラ』『わにとかげぎす』(すべて講談社)。どれも奇怪なタイトルだが、これらの耳慣れない単語、一部では既に知られていることだが、マンガの内容と深くリンクしているのだ。
まず、『ヒミズ』。主人公の中学生、住田は、出来る限り目立たずに平凡な生活を送りたいと望む。だが、ある事件を機に自分が「平凡」からはみ出してしまったと感じ、学校へも行かず、街を徘徊して悪い奴を探す使命をみずからに課す。
実際の「ヒミズ」は、モグラの一種。「日見ず」と書くとおり、日光が照るところには出て来ない。モグラと異なる点は、深く穴を掘るのではなく、日中は地下のごく浅いところで生活しているところ。ただ、夜は動き回ることもある。死骸は強烈な臭いを発することから死んだヒミズを食べる動物はあまりいない(北隆館『新日本動物図鑑』より抜粋)。
マンガの住田は、しだいに狂気を帯びていき、ラストでは呆然とするような悲惨な結末を迎えるが、このラスト、動物のヒミズとの関連を考えると……足がすくむ。
次に『シガテラ』。主人公の荻野は、いじめられっ子から一転、美人で優しい彼女ができたことで人生がバラ色に輝き始めるのだが、荻野に関わった者たちは皆、畳み掛けるような不幸に襲われる。
「シガテラ」とは、シガトキシンという毒素に侵された魚=シガテラ毒魚を食して発症する食中毒のこと。熱帯〜亜熱帯海域のサンゴ礁の周囲に生息する魚が毒に侵されている場合が多い(医師薬出版株式会社『最新 医学大辞典 第3版』より抜粋)。
つまり、魚自体はシガテラ毒に侵されても死には至らず、その魚を食べた人間が発症するわけで、この場合、サンゴ礁の周囲に生息するシガテラ毒魚が荻野と考えるのが妥当だろう。ただ、サンゴ礁=美人の恋人、南雲さん? とすると、魚が毒をもつきっかけを作ったのは……それは深読みし過ぎだろうか!?
そして、現在もヤングマガジンで連載中の『わにとかげぎす』。深夜、スーパーの警備員として働く32歳の男、富岡が主人公。彼はある日突然、それまでただのひとりの友人もつくらず、何も望まずに寝てばかり過ごしてきたことを猛烈に悔やむ。そして人並みとはいかないまでも、何とか友人をつくりたいと願うようになるのだが……。
熱帯〜亜熱帯海域に広く分布する深海魚のいち項目「ワニトカゲギス目」。深海魚の中でもとくに自力で発光する機能をもつ。発光細胞に発光物質が蓄えられ、酵素によって酸化分解されて、その際に出る分解エネルギーが光となる(東京堂書店『魚の事典』より抜粋)。
昨年末に刊行された第2巻では、友達らしき存在となった(?)同僚2人が殺人事件に巻き込まれ、その2人を助けに行くのが主人公の富岡。1巻でも、縁もゆかりもないダメなオッサンをヤクザから助けるなど、富岡の意外な男気がポイントとなるこのマンガ。
作者本人もほとんど自作について語らず、いつも先の読めない古谷実のマンガ。古谷ファンは、ワニトカゲギスのこの生体を、今後の展開と照らし合わせてみてはいかがだろう?
(駒井麻衣子)
・エキサイトブックス『ヒミズ』検索
・エキサイトブックス『シガテラ』検索
・エキサイトブックス『わにとかげぎす』検索
改めて、これまでのタイトルとその意味を探ってみると……。
まず、『ヒミズ』。主人公の中学生、住田は、出来る限り目立たずに平凡な生活を送りたいと望む。だが、ある事件を機に自分が「平凡」からはみ出してしまったと感じ、学校へも行かず、街を徘徊して悪い奴を探す使命をみずからに課す。
実際の「ヒミズ」は、モグラの一種。「日見ず」と書くとおり、日光が照るところには出て来ない。モグラと異なる点は、深く穴を掘るのではなく、日中は地下のごく浅いところで生活しているところ。ただ、夜は動き回ることもある。死骸は強烈な臭いを発することから死んだヒミズを食べる動物はあまりいない(北隆館『新日本動物図鑑』より抜粋)。
マンガの住田は、しだいに狂気を帯びていき、ラストでは呆然とするような悲惨な結末を迎えるが、このラスト、動物のヒミズとの関連を考えると……足がすくむ。
次に『シガテラ』。主人公の荻野は、いじめられっ子から一転、美人で優しい彼女ができたことで人生がバラ色に輝き始めるのだが、荻野に関わった者たちは皆、畳み掛けるような不幸に襲われる。
「シガテラ」とは、シガトキシンという毒素に侵された魚=シガテラ毒魚を食して発症する食中毒のこと。熱帯〜亜熱帯海域のサンゴ礁の周囲に生息する魚が毒に侵されている場合が多い(医師薬出版株式会社『最新 医学大辞典 第3版』より抜粋)。
つまり、魚自体はシガテラ毒に侵されても死には至らず、その魚を食べた人間が発症するわけで、この場合、サンゴ礁の周囲に生息するシガテラ毒魚が荻野と考えるのが妥当だろう。ただ、サンゴ礁=美人の恋人、南雲さん? とすると、魚が毒をもつきっかけを作ったのは……それは深読みし過ぎだろうか!?
そして、現在もヤングマガジンで連載中の『わにとかげぎす』。深夜、スーパーの警備員として働く32歳の男、富岡が主人公。彼はある日突然、それまでただのひとりの友人もつくらず、何も望まずに寝てばかり過ごしてきたことを猛烈に悔やむ。そして人並みとはいかないまでも、何とか友人をつくりたいと願うようになるのだが……。
熱帯〜亜熱帯海域に広く分布する深海魚のいち項目「ワニトカゲギス目」。深海魚の中でもとくに自力で発光する機能をもつ。発光細胞に発光物質が蓄えられ、酵素によって酸化分解されて、その際に出る分解エネルギーが光となる(東京堂書店『魚の事典』より抜粋)。
昨年末に刊行された第2巻では、友達らしき存在となった(?)同僚2人が殺人事件に巻き込まれ、その2人を助けに行くのが主人公の富岡。1巻でも、縁もゆかりもないダメなオッサンをヤクザから助けるなど、富岡の意外な男気がポイントとなるこのマンガ。
孤独に気付いた深海魚(富岡)は、自力で光を放つ機能で、周囲の魚たち(友人)を危険から救うということなのか?
作者本人もほとんど自作について語らず、いつも先の読めない古谷実のマンガ。古谷ファンは、ワニトカゲギスのこの生体を、今後の展開と照らし合わせてみてはいかがだろう?
(駒井麻衣子)
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