東京で今話題のあの温泉建設現場に行ってみた
(写真上から)<br>スタート地点の武蔵五日市駅から目的地はおよそ6キロの道のり。<br>出発からすぐにトレッキングシューズ右がこんなせつない状態に……。<br>林の向こうが施設を建設中の工事現場です。<br>工事中のつり橋。<br>ついにシューズ左のソールまでもが……
昨年末からテレビで何度か取り上げられ注目を集めている東京多摩地区、あきる野市の温泉施設「瀬音の湯」。多摩地域はちょっとした温泉ブームで「日帰り温泉」「スパ」と銘打ったものが約50カ所もあるという温泉激戦区。
ほとんどが民間経営という中、なんとこの「瀬音の湯」は市が財政難の中、総事業費24億9000万円、しかもそのうちの20億円は借金! をしてまで作っているといういわく付きのもの。

この施設建設の是非は別としても一体どんなものを作っているのか。あきる野市と言えばかつてBitでもご紹介した“また〜り”としたプチ田舎。多摩在住の身としては気になるところ。実際のところどんな風になっているのかとこの目で確かめに現場を見に行ってみることにした。
そこで、まず出かける前に温泉施設について市役所に問い合わせてみた。

「温泉施設について伺いたいのですが」と言うと、一瞬息を飲むような気配の後「ど、どのようなことでしょうか」と担当者。

温泉施設建設に疑問の声をあげるテレビ報道や施設建設に反対している市民もいるということでちょっとピリピリしている感じである。市役所のホームページには道路地図と「JR五日市線武蔵五日市駅から車で15分程度」と書かれている。やはり郊外なので車で来る人々を想定しているのかあまり詳しく書かれていない。
地図を見る限り歩いて歩けない距離ではないが、念のため聞いてみた。
「施設までは駅から約6キロです。
えっ、歩いていかれるんですか? 歩いて行けなくもないですが……。今はまだ運行していませんが、駅から温浴施設まで巡回バスを走らせる予定です。本数ですか? ええっと、一日5往復の予定です」
一日5往復っていうのはちょっと少なすぎやしないかと思っていると、「ああっ、でも近くを走る路線バスは一日約30往復ありますから、そちらを利用していただいてもいいですね。今は現地には入れませんが、檜原街道沿いの林からちょっとだけ見えますから雰囲気はわかるかもしれません」
オープン日についてはまだ正式には決まっておらず、4月の中旬頃としか言えないとのことで担当者の方は「どうぞ、よろしくお願い致します」と妙に低姿勢であった。

「瀬音の湯」が作られているのは、武蔵五日市から檜原街道を檜原村に向かう途中にある乙津地域の秋川渓谷。十里木の近くだ。
かつて五日市に午後到着し、あっという間に暗くなってしまったという経験があったので今回は午前中にスタートすることに。駅には9時30分に到着。なかなかいい時間だ。
さっそく檜原街道を歩き始める。ところがものの5分も歩かないうちに右足に異変を感じた。歩くたびにパッコンパッコンと何かが当たるのである。
ふと見ると、げっ! シューズのソールがはがれてきているではありませんか。これから6キロ歩こうというのに何としたことか! どうしようかと思っていると街道沿いに荒物屋さんが。何か応急処置のできるものはないか、と店に入ると「お金はいいから」とビニールテープを貸してくれた。「しっかり止まるように好きなだけ使ってね」と奥さん。
ああっなんて親切。助かりました。
本当にありがたい。五日市の人は優しい。

お礼を言って店を出て、再び歩き出す。30分を過ぎた頃からだんだん山に入っていく感じだ。歩いている人は近所の人か。車はびゅんびゅん飛ばしている。
するとようやく街道沿いの林の奥に工事現場らしきものが見えてきた。ここまで歩くこと1時間10分。靴のことがなければ1時間はかからなかっただろうな。

工事中の施設はよくは見えなかったけれどコテージ風のつくりになっているらしい。川の眺めはそこそこきれいだ。
現段階では施設の利用料金は大人(中学生以上)が800円で、宿泊は1泊朝食つきで7500〜8500円とのことだ。

ちなみにあきる野市のホームページでは「瀬音の湯」は「温浴施設」となっていた。ひょっとしてこれって温泉じゃないのかも? と市役所に問い合わせてみると、「いえいえ温泉です。温浴施設となっているのは計画段階からの名称がそのまま残っているためです」との回答。何でも温泉を採掘するにあたって、成分、温度など本当に温泉と言えるものが出るかどうかわからなかったので「温浴」という言葉を使ったそうで、その言葉を温泉が出た現在でも使っているのだという。

帰りは路線バスで、とも思ったが周囲の山々、眼下の渓谷を眺めながら歩くのもいいな、と再び歩いて帰ることに。
すると、今度は左足に異変。ついに左の靴のソールもはがれてしまった。うひょ。何だか温泉の行く末を暗示するような展開です。
(こや)