春に出るのに、なぜ「夏みかん」なの?
今が旬のはっさく。皮をむいて、具といっしょにごはんに混ぜると、ほんのり苦味があって美味しい混ぜ寿司にもなります。
「これはレモンのにおいですか」「いいえ、夏みかんですよ」――こんなやりとりで始まる、あまんきみこの「白いぼうし」。
小学校の国語の教科書に載っていたこの話が大好きで、そらで言えるほど何度も読んだものだったが、そんな夏みかんが、早くもスーパーに並ぶ季節となった。


それにしても、「夏みかん」というのに、なぜ春先に出てくるものなのか。
かつては夏に食べていたけど、収穫時期がどんどん早まっているとか? あるいは「冬みかん」との区別で、便宜的にそう呼ぶのか。

農林水産省の「消費者の部屋」に尋ねると、こんな回答があった。
「夏みかんは日本の中でもかなり古い時代からあって、もともとは夏に出ていたようですよ。また、冬に食べる温州みかんに対してそう呼んだようで、1986年に伊予柑に抜かれるまでは、夏みかんが第二位だったそうです」
ただし、これはことわざ辞典や食材事典などの資料によるもので、そもそも「夏みかん」と一言で言っても、「学問的な分類」「商品としての流通分類」「日常の中の扱いとしての分類」など、どういう場面で使うかによっても違ってくるとのこと。

そこで、より詳しい事情を聞くために紹介してもらったのが、独立行政法人の「果樹研究所」。

同様の質問をしてみると、広報担当者の方がこんな回答をくれた。
「夏みかんというのは、一般の総称であって、品種としては存在しないんですよ」
そうなんですか!
では、なぜそう呼ばれるようになったのかというと、「果樹研究所の見解としては正直、わからないというところですが……」と前置きしたうえで、ネットなどで調べたこととして、以下のような説明をしてくれた。
「夏みかんは、最初に山口県萩市でつくられ、正しい和名は『ナツダイダイ』ですが、それが夏みかんと呼ばれるようになったようです」

ちょっと大ぶりですっぱいみかん。甘夏もはっさくも、さらに広げると伊予柑までも、「夏みかん」と呼んだりすることがあるけど、正式には、「夏みかん」は商品名だったよう。

では、なぜ「夏みかん」に?
「かんきつ類の収穫期は、今でこそ品種改良によって長くなってますが、もともとは12月中旬から2月中下旬が一般的。この夏みかんも、本来は冬に食べるもので、酸味が強いので、食用ではなく、お酢のかわりに調味料として使っていたようです。
それが、そのまま残しておいて夏ごろに収穫して食べてみたら、酸味が減って、けっこう甘かったということで、夏に食べるようになったそうですよ」
つまり、昔の人がみんなせっかちだったら、いまの食用の甘酸っぱい「夏みかん」はなかったということだろうか。

今でこそ春に食べられるけど、本来は冬から夏までじっくり待って、ようやく味わえる果実だったようです。
(田幸和歌子)