擬似汚物も開発!? 掃除いらずのトイレ開発秘話
勝手におそうじしてくれるトイレ「アラウーノ」は、プロダクトデザイナー・深澤直人氏のデザインです。
「男性が女性の家を初めて訪れたとき、チェックするのは、トイレ」なんて話を、トイレメーカーの取材で聞いたことがある。
トイレのキレイ度によって、その人の清潔さや几帳面さが見えるということらしい。


また、主婦の多くが嫌う家事といえば、トイレ掃除。それに対して、「主婦の負担を楽にしたい」、そんな思いでできたのが、松下電工株式会社の「全自動おそうじトイレ アラウーノ」である。

「トイレの手入れに対する関心が高まり、2002年頃から『タンクレス化』が急速に進みました。これはトイレ業界における『薄型テレビ』のようなもの。また、他社が『お手入れしやすさ』を打ち出すなか、ナショナルでは『お手入れそのものを減らしちゃおう』というコンセプトなんです」
と、ドレッシング事業部商品企画開発グループ主任・酒井武之さんは言う。

開発にあたって、まず取り組んだのは、「便器の研究」だった。
「もともとの原因は水あかですが、陶器の表面には水あかがつきやすく、いったん固着すると、もう削るしかない。そもそも陶器は親水性なので特に水あかがつきやすい、水をはじく撥水性のものを使用したら良いのではないか? と着目したのが、新素材の有機ガラスなんですよ」
これは、ナショナルが家電をつくっているノウハウを活かし、樹脂系のなかで硬度が非常に高く、撥水性の高い材料を探した結果なのだとか。

また、「強い洗浄力で使用するたびに汚れを落とす」ために、注目したのは「泡」の力。
「お風呂で使っていたバブル洗浄を応用し、泡で洗ってみたら、よく落ちました。今回は2種類の泡を使うことで、目に見えない油汚れまでキレイに洗い流す方法を採用したんです」
実際、水を流してみると、便器の中を洗濯機のようにぐるぐる泡がまわっていくのがわかる。これ、水をすごく使うのでは? と不安になるが、
「1回あたりの洗浄水量は5.7L(小洗浄の場合は4.5L)。
業界最少の節水効果なんですよ」とのこと。また、中性洗剤も1回2滴ほどの使用で十分なので、1本で約3カ月もつそうだ。

ところで、実はこの商品の開発に関して、忘れてはいけない人物がいる。それは、「擬似汚物開発」に2年を費やした「汚物博士」こと、川本早高さん。……って、擬似汚物!?
「汚れにくい素材や洗浄力を実証するためには、実際に『人の汚物』が必要だったんです。これまではスポンジ状のもので試験していましたが、よりホンモノに近づけるため、素材や配合、形状をかえて、それこそカウントできないほどの大便をつくったんですよ」

社内スタッフ15人ぐらいの「現物」を毎日採取し、成分配合や重量、長さまで分類し、さらに、「ホンモノに近い出方」を追求するため、「大便出し機1、2号」まで製作した結果、ようやく2年を経て、5種の便を作成したという。ここまでこだわったトイレへの情熱は何なのか? 酒井さんは力強く言う。

「新素材のトイレで革新を起こします!」
有機ガラスの全自動おそうじトイレは、トイレ先進国・日本に、また新たな1ページを刻むのだろうか。
(田幸和歌子)

全自動おそうじトイレ「アラウーノ」HP*ナショナル 松下電工
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