“究極の秘湯”? 数年後にダムに沈む温泉
豊かな渓谷にいだかれた高田湯旅館では、名物の砂塩風呂が大人気! 神社もそのまま高い場所へ移転です。嵐のメンバーも、番組収録でおとずれたようですよ。
新宿からから高速バス「上州ゆめぐり号」に乗っておよそ3時間半。群馬県の吾妻郡にある「川原湯温泉」という温泉街があります。

草津温泉からもほど近いこの川原湯温泉、実は数年後にダムに沈むという悲しき運命を背負った温泉なのです。

そばには国の名勝に指定されている吾妻渓谷があり、自然豊かな「渓谷の温泉」として知られていたのですが、この渓谷も1/3がダムに沈んでしまうというではありませんか。
そんなわけで、秘湯・秘境好きの私としては、沈む前に一度行っとこう! と思い立ったのです。

バスを降りてしばらく歩くと、「川原湯温泉入口」の看板が。
ここが温泉街のようですが、すでにカウントダウンに突入しているのか、土産物店のほとんどが閉店し、ものすごいさびれっぷり……。旅館もほんとうに営業しているのか!? と不安になります。

しかし、奥へ進むと旅館が軒を連ね、観光客もちらほら、ようやく「昔ながらの湯治場」という風情が漂ってきました。
源頼朝が発見した湯と伝えられる「王湯」という共同浴場や、足湯や温泉玉子を作る源泉もあります。

さて、目的の宿、「高田屋旅館」へ。旅館創業は江戸中期の寛政7(1795)年という、川原湯温泉屈指の老舗です。
館内は宿泊客で賑わっており、私のような秘湯マニアがかけつけたのか?

社長の豊田さんにお話を伺ってみると、
「やはり沈む前にと来られるお客さんが多いですね。昔、ここに疎開していた方も懐かしんで来られます」
とのこと。
温泉街は、ある日、いきなりダムに沈んでしまうのでしょうか。
「沈むといっても、ある日突然なくなるわけではないんです。徐々に衰退していきます。スパンが長いんですよね」
では建物はどうなるのですか?
「全部取り壊してさら地にします」
私、てっきり水中遺跡のように湖の底に建物が残ってるもんだと思ってました!

ちなみに墓地は、お骨を掘り出して、新しい場所に建て直すそう(そりゃそうだ)。 そういえば、ここに来る途中も、すでにさら地になっているところを見かけたなあ。
母校の小学校の、築90年の校舎が取り壊されたときはとても悲しかったという豊田さん。

「私の故郷はダムに沈んだの」というドラマの台詞を思い出し、なんだかせつなくなりました……。

「草津はいつでも行けるけど、この川原湯は今しか行けない。これが最大のウリですね」
と豊田さん。
こんなにいい温泉なのに、もう入れないんですか。
「いいえ、移転して新しい川原湯温泉が誕生します。新たにボーリングした源泉もありますから」
ええっ。
新生・川原湯温泉が誕生するんですか!?
どうやらダムに沈むこの場所から標高の高いところへ、旅館や土産物店が移転するという。
「渓谷の温泉地が湖の温泉地へと、景色は180度変わってしまいますけどね」
そしてこの昔ながらの情緒も失われてしまう。そういう意味では、本当に「川原湯温泉」は幻になるのです。

そしてこの高田屋旅館は、全ての旅館が閉館して最後の1軒になるまで営業したいそうです。この温泉街を含めた314世帯を沈めてしまう八ツ場ダム。完成予定は3年後の平成22年を予定(5年後になるという説もあり)しています。

本当に「幻」になる前に、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか?
(いなっち)