ジャイアンリサイタルは落語が元ネタだった!?
おなじみのジャイアンリサイタルにそっくりの落語がありました。
NHK連続テレビ小説『ちりとてちん』の第37話(11月12日放送分)で、居酒屋「寝床」の店主・熊五郎(木村祐一)によって行われた「リサイタル」、観ましたか。

熊五郎が自分の歌を披露する「リサイタル」を企画したところ、常連客はみんなアレコレ理由をつけては欠席しようとする。

そこで、「わかった、よう〜わかった! 町のもんみな、俺のフォークを聴くのが嫌やと、こない言うとんのやな。あ〜情けない! この町にはフォークを理解する心を持った人間はおらんのかい!?」と怒った熊五郎は、すべてのメニューの値上げを発表(昼の定食がなんと2万8千円!)。仕方なしに集まった客の前で、妻への愛を捧げる歌を情感たっぷりに歌い上げ、客たちはみんな耳栓をしつつ、悶え苦しむ……という話だ。

これを観て&聞いて、どうしても思い出してしまうもの、ありませんか。
そう、そのまんま『ドラえもん』における最も危険きわまりないイベント、「ジャイアンリサイタル」ではないですか。

ところが、そんな話を『ちりとてちん』チーフプロデューサーの遠藤理史さんにしたところ、
「あれは上方落語の『寝床』という演題をもとにしたエピソードですよ。
居酒屋の名前もそこからとったんです」と言われた。

この「寝床」、どんな話かというと……。
義太夫を趣味としている大家が、「義太夫の会を開くから、店子を集めて来い」と丁稚に指示するが、みんなにアレコレ理由をつけて断られる。すると、大家は怒って、みんなを追い出すと言いだし、店子が仕方なく詫びを入れて集まってくると、義太夫を披露して……というユーモラスな内容だ。
確かに、『ちりとてちん』の話の下敷きになっているのは、この「寝床」だ。でも、やっぱり「ジャイアンリサイタル」にもそっくりである。


もしかして、藤子不二雄先生が、落語をもとに「ジャイアンリサイタル」を思いついたんだったりする?

調べてみると、藤子・F・不二雄先生は、「映画やクラシック好き」として知られている他に、「大の落語好き」でもあったことがわかった(藤子作品通の方は、すでによくご存知かもしれませんが)。
99年に横浜で行われた『藤子・F・不二雄の世界展』においては、趣味のコレクションの数々にまじって、先生が仕事中によく聞いていたという落語のテープも展示されていた。
それを考えると、もしかして……。もちろん実際に藤子・F・不二雄先生が「寝床」から「ジャイアンリサイタル」を思いついたかどうかというのは、あくまで推測にすぎない。でも、調べてみると、落語に詳しい人の間では、「ジャイアンリサイタルは寝床だよね」なんて声も、もともと一部であったよう。

ちなみに、藤子・F先生の落語趣味が、一番分かりやすくでているのが、『21エモン』だという声もある。

文庫版の『21エモン』には、三遊亭円丈の解説が添えられているのだが、そこには、登場人物の名前の“おなべ”、“ゴンスケ”がそもそも、落語によく登場する名前で、キャラクターも落語そのものであることを指摘したうえで、“モンガー”の出身地「ヘッコロ谷星雲のヘッコロ谷」、これも落語で山奥の大田舎を表現するときに使われるし、ホテル「つづれ屋」の客の中にも、「寿限無星長久命(じゅげむせいちょうきゅうめい)」というのがいて、これも言わずもがな「寿限無」。
これらを挙げて、「落語家の私は“ヘェ、なるほどね”と、とても興味深い」と、円丈は記している。

他にも、『オバケのQ太郎』は古典落語のスピリッツが感じられるという指摘もあるし、『ドラえもん』なども、いろいろな落語を知ったうえで読み返してみると、今までとは違った、新たな発見があるのかもしれない。
(田幸和歌子)