「乱暴者」「いじめっこ」「ガキ大将」「オンチ」あたりを挙げる人が多いのではないだろうか。
じゃ、スネ夫は?
「ケチ」「自慢ばかりする」「金持ち(ホントはそれほどたいしたことない説も)」「ずる賢い」あたりが一般的だろうか。
それがいま、子どもたちの間ではちょっと別の評価になっている気がする。
「ジャイアンはホントは頼りになるイイヤツなんだけど、スネ夫は弱虫でズルくて、イヤなヤツ」という「ジャイアン=良い者、スネ夫=悪者」説を唱える子どもって、すごく多いのだ。
これはある意味、正しく、ある意味、間違っていると思う。
なぜこうしたイメージが作られたかというと、おそらく近年のドラえもん映画の中の「お約束」の役割によるものが大きいのではないか。
たとえば、2003年の映画『ドラえもん のび太とふしぎ風使い』では、心をのっとられたスネ夫が悪の組織(嵐族)の一員となり、フー子をさらっていくという展開だが、他にも、スネ夫は「すぐに弱音を吐く」「弱虫」的な描かれ方が多いのに対し、ジャイアンはというと、そんなスネ夫の情けなさ・悪さを際立たせるように、映画になると、きまって大活躍するのだ。
かつての『のび太の恐竜』や、そのリメイク版『のび太の恐竜2006』においては、恐竜ハンターに「ピー助を渡してくれたら、タイムマシンで日本へ送り返してあげよう」と言われ、スネ夫がピー助を渡そうとするところ、ジャイアンが止めるという、「ジャイアン=良い者、スネ夫=悪者」の構図が完全にできあがっていた。
ところで、こうしたイメージとは別に、実は、通常の「てんとう虫コミックス」版でも初期ぐらいにしかあまり見られない、完全なる悪者のジャイアン像というものも、存在することをご存知だろうか。
「よいこ」「幼稚園」掲載作品を集めた、『ぴっかぴかコミックススペシャルドラえもん<カラー版>』(小学校低学年向き)を見てみよう。
この本、05年11月に発行されており、すでに「ジャイアン=良い者」イメージが定着しているせいか、表紙裏での人物紹介には「剛田武(ジャイアン) らんぼう者だけど、たよりになるガキ大しょう。ひどいオンチ」とあるものの、収録話で見られるジャイアンが、実に悪い。
「歯みがきで強くなろう」という話では、泣いているしずちゃんと、バットを振り上げているジャイアンが登場。
明らかにしずちゃんはバットでジャイアンに殴られたらしく、のび太が勇気を振り絞って「いじめちゃいけないよ」と意見するのにも、「なんだと、おまえもなぐっちゃうぞ」と暴力でねじふせようとする。
ジャイアンはいくら乱暴者でも、女の子に暴力をふるうようなヤツではないと思ったのに……。けっこう無差別じゃん!
掲載誌の対象年齢に合わせてか、全体的にキャラクターの絵柄が幼いような気もするので、もしかしたら、これはまだ男女の区別もついてない頃の、幼いジャイアンなのかもしれないけど、完全な「良い者」じゃないところも、またジャイアンの真実なんだと思うのです。
(田幸和歌子)