切なすぎるそして、哀しすぎる犬の歌
昨年夏発売のロングセラー『虹の橋わたって走れジョン』。ジャケットの子犬の表情がまた、なんとも哀しい。下の写真が番組画面。
取材で宿泊した、大阪のホテル。
夜、なにげなくつけたテレビでやっていたのが、『歌に乾杯! ゆめ燦々』(サンテレビ)という演歌系の歌番組。


しばらく見ていると、番組進行役をつとめる、尾鷲義仁という、笑顔もさわやかな歌手の出番になった。曲は、『虹の橋わたって走れジョン』

イントロが流れると、さわやかだった笑顔が、なんとも切なげな表情になり、歌いはじめた。
「♪愛するジョンが死んでしまった……」
いきなり死んじゃったよ、ジョン! 「虹の橋」わたっちゃったのはレノンか、イマジンなのかと、冒頭で心をわしづかみにされる。
沢田知可子の『会いたい』だって、「死んでしまった」のは、サビ前なのに、ジョンはもう死んでいる。
はらはらして続きを聞くと、「仔犬のころからミルクを飲ませてだいじに大事に育てたジョン」。
ジョンは、犬だった。画面には、尾鷲さんが熱唱する横に、ジョンかどうかは分からないが、カワイイ犬のスナップ写真がカットインされていく。
曲の内容といい、この映像といい、なんて哀しい曲なんだ。

残念ながら天国に旅立った愛犬ジョンのことを歌った曲で、いつでも「虹の橋」をわたってジョンに会えるんだよ、ということなのだが、その後続く歌詞も、哀しさと切なさであふれかえっている。
「♪仲間と一緒にジョンの住む あの世のパラダイス」……“あの世のパラダイス”。いいフレーズだ。

「♪けれどみんなの哀しみは ご主人がいないこと」……哀しい。

さらに曲の哀しみは加速する。愛されながら旅立ったジョンは幸せなほうで、飽きてしまったり、歳をとってしまったからという理由で捨てられてしまった犬の哀しみにまで拡大していく。哀しい。

あまりの衝撃に、CDを入手してみた。カップリング曲も犬の歌で、これがまた、「濁った水と からになったアルミの食器」「投げて与えた2個のパン むさぼるように食べていた」と、虐待をテーマにした「ジョン」よりもさらにダークな内容。結局この犬も死んでしまうのだが、曲の最後が、「待っていてね 私もかならず行くから 必ず抱きしめるから」という約束で締められていて(だから曲名は『約束』)、こちらも衝撃的だった。

衝撃の興奮さめやらぬまま、歌い手の尾鷲義仁さんを直撃してみた。
「今までにない、動物が主人公の曲なので、ファンの方には『びっくりした』という反応が多かったですね」
曲については、歌詞が長いもののストーリー性があって覚えやすかったとのこと。尾鷲さんは大の動物好きということもあって、やはり感情移入してしまうのだそう。
「この曲は最初から入り込んでしまう。情感を込めすぎないように、ギリギリの一歩手前で止めながら、いかに平常心で歌うかというところを心がけているのですが、いつも3番ぐらいになると、力んでしまいますね」

ところでこの「ジョン」、クレジットを見ると、作詞のほかに「原作:不詳」という記述もある。
「原作」というのは、ベースになった文章があるのだろうか。尾鷲さんの所属するシン音楽事務所の永井冨士子さんにたずねると、ある動物愛護団体が発行した機関誌に掲載された「虹の橋」という詩がもとになっているのだそうだ。
「この詩を読んで、涙が止まらなかったんです。それで、これを歌にしてみたいと思ったのがきっかけですね」

こうして、永井さんの思い入れがたっぷり込められた曲ができあがったわけだが、
「6分もある長い曲ですし、内容もこのようなものですので、なかなかメジャーには向かないと思ったんです」
というわけで、この曲は自主制作レーベルからの発売となった。
「聞きたくないという方もいらっしゃると思うんですけれど、これが現実なんです、ということを知っていただきたい」

コンサートでは涙を流すファンも多いというこの曲。素晴らしすぎる哀しみがあふれた名曲かと思います。
(太田サトル)

尾鷲義仁公式サイト*シン音楽事務所
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