KINTOテクノロジーズ、アリババとタッグ トヨタ系ディーラー向けAI導入を加速

トヨタグループ各社が展開するモビリティサービス関連技術を開発する「KINTO(キント)テクノロジーズ」は、中国IT(情報技術)大手のアリババグループと協業する方針を決めた。アリババ関連会社が開発した自動車販売店向けのAI(人工知能)ソリューションを日本仕様にカスタマイズし、年内にもトヨタ系ディーラーへの提供を始める。

AIの社会実装で先行する中国の技術を導入し、ディーラーの顧客開拓や運営管理を支援する狙いだ。

アリババとの協業は、KINTOテクノロジーズの景山均副社長が36Kr Japanのインタビューで明らかにした。景山氏は新卒で富士通に入社した後、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、楽天、ニトリでIT・物流システムの責任者などを歴任。2019年にKINTOテクノロジーズの母体であるトヨタファイナンシャルサービスに転じ、2021年4月に現職に就いた。

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KINTOテクノロジーズ、景山均副社長

KINTOテクノロジーズはトヨタグループの自動車サブスクリプションサービス「KINTO」をIT開発から支えている。一般消費者が使いやすいユーザーインターフェース(UI)のアプリを実現するには、「(短期間で開発と検証を繰り返す)アジャイル式のソフトウエア開発能力をグループ内に持っておく必要がある」と景山氏は強調する。

現在はKINTOのアプリのほか、トヨタグループが静岡県裾野市で建設中の実証都市「Toyota Woven City」内の決済プラットフォームの開発を手がけている。さらにITでグループの経営効率を上げる一環として、アリババの技術を基盤とした自動車ディーラー用のAIソリューションを提供する計画を語った。

景山氏は4月、自動車関連のITの利用状況を知るため中国を視察し、アリババや有力スタートアップ企業を訪問した。中国は現在、電気自動車(EV)など新エネルギー車が新車販売に占める比率が4割を超えており、「EVメーカーとソフト開発会社が新たな経済圏を創り出している」ことを体感したという。

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現在、NEVが新車販売に占める比率が4割を超える中国

KINTOテクノロジーズはもともと、「優れた技術があれば海外発であっても積極的に活用する」(景山氏)ことを社内の指針としており、直ちにアリババが中国国内のディーラー向けに提供を始めたソリューションを導入する方針を固めた。現在は自社の神保町オフィス(東京・千代田)で概念実証(PoC)を進めている。

7月には、36Kr Japanが企画した中国ディーラーの視察ツアーにも参加し、浙江省杭州市にあるZeekr(ジーカー)や零跑科技(リープモーター・テクノロジー)、蔚来汽車(NIO)などのEV販売店を回った。店舗内でスマートフォンによる動画の生配信で商品を売る「ライブコマース」が行われていたことや、店舗スタッフが顧客にタブレット端末でEV購入手続きを行うよう促していたことが印象に残ったという。

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Zeekrの高級電動ミニバン「009」に試乗する様子
KINTOテクノロジーズ、アリババとタッグ トヨタ系ディーラー向けAI導入を加速
杭州市のショッピングモール内にあるNIO店舗でライブ配信を行うスタッフ

「新たな技術が新しい売り方を支えていた。どの店舗も若年層の顧客が多く、雰囲気が明るかった」(景山氏)。視察ツアーでは、杭州市内のアリババ本社を訪問する行程もあり、同社側はKINTOテクノロジーズとの協業に期待すると表明した。ツアーにはトヨタ系ディーラー約10社の関係者も参加しており、協業の実質的なお披露目となったようだ。

年内に提供を始めるAIソリューションは、ディーラーの店舗に設置したカメラの映像をAIで分析するのが基本的な仕組みだ。新規顧客を開拓する側面では、AIで「店舗前の道路からどんな種類の車が入店してくるか」「店舗内でどんな動線を経た顧客の購入率が高いか」「ショッピングモール内の店舗では、他にどんな買い物をしている顧客の購入率が高いか」などを分析できるという。

店舗の運営効率の向上という側面では、「店舗内のお客様動向を分析する」「展示用の車を常時撮影しておき、店舗間で移動させても居場所をリアルタイムで把握できるようにする」などの使い方を想定している。景山氏は「当社自身がソフトの開発能力を持っているので、アリババ側から開示されたソースコードをもとに日本仕様に容易にカスタマイズできる」と説明した。

KINTOテクノロジーズが中国に関連するビジネスを本格的に手がけるのは今回が初めて。ただ、国籍を問わずに優秀なITエンジニアを採用しており、現時点で全体の10%程度に当たる約30人の中国人エンジニアが在籍している。

すでにアリババ側と言語の壁を感じることなく、意思疎通する態勢が整っているという。

今後、日本全国の約230社のトヨタ系ディーラーに対し、このAIソリューションの採用を働きかける意向だ。システムの売り切りではなく、クラウドサービスと組み合わせたサブスク方式で提供する。売上高や利益の拡大は追わず、トヨタグループに役立つITの提供を経営目標としているため、このソリューションはトヨタ系以外のディーラーには提供しない。

中国発のITを巡っては、日本では中国側にデータが漏えい・流出しかねないとの懸念が根強い。アリババはクラウドサービスでも中国最大手だが、KINTOテクノロジーズはこのソリューションが日本国内で運用されるアリババクラウドに加えて、欧米系のクラウド環境や自社サーバーでも利用できることを独自に確認済み。日本市場では、ニーズに応じた弾力的な提供方法を提示することで、顧客の懸念に配慮する計画だ。

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AI技術など最新テクノロジーが詰め込まれた中国EVの車内空間

景山氏は中国の自動車関連のIT全般について、「EVを動かす基本ソフト(OS)から車内のカラオケ機能に至るまで、ソフトを活用した車づくりが進んでおり、学ぶべきことは多い」と高く評価。多くのITサービスで中国の方が先行しているが「中国のモデルを押し付けたりせず、日本向けのカスタマイズを柔軟に検討する企業が多い」という。今後はアリババ以外にも協業先に広げ、トヨタグループに導入する事例を増やしていく意向だ。

(取材:36Kr Japan編集部)

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